父さんと同じ
数日後――オレは、実家の門の前にやってきていた。
夢野陽
(ここで、父さんは……)
……彼は門を出たところで、心臓発作を起こして倒れたのだという。
近所の人が彼を見つけて救急車を呼んだが――間に合わなかったらしい。
――奇遇にも、母の命日である、その日に。
???
「あら、陽くん?」
振り返ると、近所の人がそこにいた。
夢野陽
「どうも……」
近所の人
「久しぶりね。大きくなって。……お父さんのこと、ほんとにご愁傷様」
オレは頭を下げた。
近所の人はちらと我が家の玄関の門を見て、
近所の人
「私が見つけたのよ、照さん」
頬に手を当てた。
夢野陽「そうなんですか⁉」
近所の人はうなずいた。
近所の人
「もう何十年ぶり? 久々に照さんを見たもんだから、びっくりして。
スーツまで着ててね。
声をかけたら、これから妻の墓参りに行くんだ、って。
そしたら、胸を押さえて倒れちゃったの……」
夢野陽
「……そうなんですか……」
◇ ◇ ◇
……家に入り、和室の前へ向かった。
……テレビの前に、今も、父さんが寝転がっている気がする。
夢野照
「早く、酒持って来い!」
……あの、酒絡みの声を聞くことも……
もうない――……。
夢野陽
「…………」
――それから、数日かけて、荷物をある程度片付けた。
オレは荷物を持って、ログハウスに戻った。
◇ ◇ ◇
夢野陽
(――帰ってきてしまった、ここに……)
オレはログハウスのドアの前に立ち尽くした。
……不思議なことに、ここを出て行った時よりは、
身体はいくぶんか軽くなっていた。
ドアノブに手を遣ったその時、
バンッ! とそのドアが開いた。
夢野陽
「⁉」
メグ
「陽! おかえり!」
夢野陽
「め、メグちゃん⁉」
メグちゃんがオレに抱きついてきた。
メグ
「陽、忙しかったって零から聞いた……」
オレはうなずいた。
夢野陽
「うん、ごめんね」
氷室零
「陽、おかえり」
氷室さんがやってきた。
夢野陽
「……うん」
◇ ◇ ◇
……屋根裏部屋で喪服を脱ぎ、ベッドに横たわった。
夢野陽
「はあ……」
(疲れた……)
「オイ、陽」
夢野陽
「⁉」
頭の中に、また声が響いた。
父さんがギロリと、こちらを睨みつけている。
夢野照
「お前は、犯罪者なんだろ?
お前が、事件を始めたんだろ?
だったら、やるべきことがあるだろ?」
夢野陽
(父さん――……そうだ――
ここに、帰ってきてしまったのなら……
責任を、果たさなきゃ)
オレは立ち上がろうと、ベッドから足を下ろした。
夢野陽
「⁉」
ガクッ、と膝が曲がり、床に跪いた。
夢野陽
(なんだ――身体が、重い……!)
トントン、と部屋のドアを叩く音がした。
夢野陽
「!」
氷室零
「陽……いいか?」
夢野陽
「あ、ああ、いいよ……」
慌ててベッドの縁をつかむ。が、立ち上がれない……。
氷室零
「失礼――って、陽⁉ どうした⁉」
氷室さんが駆けてきて、オレを助け起こしてくれた。
夢野陽
「ご、ごめん……」
氷室零
「……最近、忙しかったから、疲れてるのかもな」
夢野陽
「……そうなの、かな」
オレは氷室さんに助け起こされ、ベッドに座らせてもらった。
夢野陽
「ありがとう……どうしたの、オレに何か用だった?」
氷室零
「ああ、今夜、夜ご飯はどうするのかと思ってな。
さすがに、色々あって疲れてるだろ?
今夜はスーパーかコンビニで買おうかと思ってな」
夢野陽
「それは……」
夢野照
「責任を果たせ」
──頭の中で、また、声が響いた。
夢野陽
「――いや、オレが何か作るよ」
氷室さんは眉を下げた。
氷室零
「そんな、ムリはさせられない……」
夢野陽
「いいよ、やるよ……」
また、オレは立ち上がろうとした。だが……また、床に膝をついてしまった。
夢野陽
「くそ……」
氷室零
「……ほら、疲れてるだろ……?
すごい痩せてるし、顔色も悪い。今日は休め……」
夢野照
「なにしてんだ? 責任を果たせよ」
夢野陽
(この家に帰ってきたからには、
責任を果たさなきゃ、いけないのに……)
……しかし、こんな身体では、とうてい使い物にならない……。
氷室さんはまた、ベッドにオレを座らせてくれた。
……そして、ジッとオレを見つめる。
氷室零
「……なあ、どうして、葬式の連絡が入るまで……
一か月も、家に帰ってこなかったんだ?」
夢野陽
「それは――……」
夢野照
「お前が始めた事件だろ」
「責任はお前にある」
夢野陽
(――オレの頭の中のことなど……どうでもいいだろうな)
言っても仕方がない。
たとえ言ったとて、どうせ、何にもならない。
オレの頭の中だけの、ことなのだから。
……目の前の氷室さんは、心配そうに眉を下げている……。
夢野陽
(氷室さんだって――
父さんと同じだ、きっと…………無能な、オレなんて……)
氷室零
「……言いたくないのなら、いいが……」
夢野陽
「うん……。心配かけて、ごめんね」
ただ、彼女に心配をかけたことだけが、申し訳なかった……。




