キレイ
夢野陽
「…………」
陽は、真剣な顔で黙り込んでいた。
──私はそのあと……
おじさんと少年院で出会ったこと――。
おじさんの元で、働き始めたこと――。
おじさんの娘の良子さんに、日々怒られていたこと――。
良子さんがある日突然、おじさんを刺して工場に火をつけたこと――。
……それらを、話した。
氷室零
(私――なに、こんなに話してるんだ……)
……こんなの、面白くもなんともない話だ。
それに――話したところで、何にもならない。
そもそも――陽は、私の話を否定するかもしれないのに――。
……私がひと通り話した後、陽は黙っていた。
夢野陽
「…………」
氷室零
「……つまらん話だ。聞いてくれただけでも、感謝してる」
夢野陽
「……つまらなくなんか、ないよ」
月明かりに照らされた陽の顔は、真剣そのものだった。
夢野陽
「……今まで、つらかったろうに……話してくれて、ありがとう」
氷室零
「!」
夢野陽
「キミが頑張ったのが、よく伝わってきた……」
氷室零
「――――――‼」
カッ、と目元が熱くなった……。とっさに、手で目を押さえる。
氷室零
(な、なに泣いてるんだ、わたし――)
夢野陽
「やっぱり――ワケが、あったね。少年院に入った理由」
氷室零
「いや――暴力は、いけないことだろ……
葬式の場で自制心が効かなかった私が、悪い」
陽は首を横に振った。
夢野陽
「そんなことないよ。……オレでも、きっと怒ってたよ」
氷室零
「……そうか」
夢野陽
「やっぱり――キミは、良い人だ。
心が――キレイなんだね」
氷室零
「は、はあ⁉」
私は勢いよく立ち上がった。
氷室零
「き、キレイって――そんなこと、ないだろ⁉
何言ってんだ、お前⁉」
夢野陽
「…………」
陽は薄闇の中、優しい目で私を見つめた。
氷室零
「~~~~~‼‼
か、勝手に思ってろ‼! 好きにしろっ!」
私は寝室へ入った。
夢野陽
「あ、ちょっ……」
閉めたドアに、もたれかかった。
氷室零
(なんなんだ、アイツ⁉ 心がキレイ⁉ 良い人⁉
──そんなワケ、あるか!)
……私は口元を押さえ、うつむいた。
氷室零
(ま、まあ――嬉しくないワケでは、ないが――)
……触っている頬が、熱かった。
氷室零
(……きっと、熱がぶり返したんだ、そうに決まってる――)
◇ ◇ ◇
夢野陽
「……」
窓際に行き、月を見上げた。
夢野陽
(氷室さん――すごい過去を、持っていたんだな)
……話してくれて、うれしかった。
夢野陽
(……氷室さんは、立派だ。――オレなんかとは、ちがって……)
……自室である屋根裏部屋に行き、
いつもつけているネックレスを手にとった。
ペンダント部分の横のボタンを押し、開ける。
――写真の中で、キレイな女性が、微笑んでいる……。
夢野陽
(オレは……ひとを、傷つけた。
この女性だけじゃない――メグちゃんのご両親も……。
――だから、オレは、最低な人間だ……)
……部屋に差し込んだ月明かりに、ペンダントがキラリと光った……。




