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The Safe House  作者: さかな煎餅
第2章「温もり」
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失った記憶

ある日の放課後のことだった。


少年1

「おとこおんなー!」

少年2

「きしょいんだよ!」

少年3

「近づくんじゃねーよ!」


校庭の隅から、聞き覚えのある声がする。


氷室零

「!」


声の方を見ると、

いつものいじめっ子たちが私の友達――七海を、壁に押しやっていた。


氷室零

「アイツら……!」


私は七海の元へ走った。


氷室零

「オイ! やめろ!」

少年1

「あ! また氷室だー!」

少年2

「殴られるぞ、逃げろ!」

少年3

「‼」


……クラスメイト達は、散り散りになって逃げていった。


氷室零

「あ! ……くそ!

――オイ、七海、大丈夫か⁉ ケガは⁉」


私はしゃがみこみ、七海を見た。


七海

「……大丈夫だよ、零ちゃん。いつも、ありがとう……」


彼は控えめに声を出し、笑った。彼を助け起こし、校舎の方を見る。


氷室零

「……先生には、まだ言ってないのか? このこと……」

七海

「うん、まだ」

氷室零

「……言った方がいい。毎日じゃないか、ここのところ」

七海

「いいよいいよ、だいじょーぶ」


彼は笑って、ひらひらと手を振った。

……その薄い手にも、青あざがある。


氷室零

「……どこが、大丈夫だ……!そんな傷までつけられて……

……私が、先生に言う!」


私は校舎へ駆け出した。


七海

「あ! 零ちゃん!」


……翌日。

教室のドアを開けると、

七海が自分の机をジッと見ているのが視界に入った。


氷室零

「おはよう」

七海

「あ……」


七海は机をかばうように移動した。


氷室零

「……どうした?」


私は彼の後ろを覗き込んだ。


七海

「ちょ、何でもない――」

氷室零

「‼」


……七海の机には……


氷室零

「これは――――」


……死ね、キモい、いなくなれ……

そんなことが、机一面に彫られていた。


氷室零

「そんな……昨日……先生に言ったのに!」

七海

「……昨日、見ちゃったんだ」

氷室零

「え?」


七海は辺りを見まわし、私に耳打ちした。


七海

「……職員室に、大地くんのお母さんが来て――

先生にお金、渡してた……」

氷室零

「な……⁉」



   ◇ ◇ ◇


……大地というのは、私と七海の幼馴染だ。

私たち三人は幼稚園で出会い、仲良くなった。

それから……


七海

「れーいちゃんっ」


以前のある日、彼が私の席にやってきた。


氷室零

「ん? どうした?」

七海

「誕生日おめでとーう!」


彼は両手で小さな紙袋を手渡してくれた。


氷室零

「い、いいのか⁉」


七海

「うん! 僕と大地くん、二人で選んだんだ、ね、大地くん!」

大地

「ああ……」


大地は目を逸らしてほおをかきながら、七海の背後から出てきた。


氷室零

「そうなのか……ありがとう。今、開けてもいいか?」

七海

「もちろん!」


私は紙袋をあけ、中に手を入れた。


氷室零

「わあ……かわいい」


取り出したのは、ピンク色のリボンの髪飾りだった。


氷室零

「……こんなかわいいの、なんか、わたしらしくないな」

七海

「そんなことないよ! きっと似合うよ!」


七海は目をキラキラさせ、大地は軽く頷いた。


氷室零

「そうか……」


私は髪を顔の横で束ねた。

前から見えるよう、リボンを付けてみる……。


七海

「やっぱり、かわいい〜‼」

大地

「……まあ、似合ってんじゃね」

氷室零

「……そ、そうか、ありがとう……」


……なんだか、ほおのあたりが熱くなった気がした。


氷室零

「これからも、ずっとつけるよ」


男子二人はうなずいた。


   ◇ ◇ ◇


氷室零

「……」


……私は、今も髪につけているリボンを触った。


氷室零

(前は、仲が良かったのに──

いつのまにか大地は、

いじめっ子グループに混じるようになって……)


目の前の七海はまた、笑った。


七海

「大地くんがどうして僕をいじめる側になったのかは、わかんないけど──」


彼はもじもじした。


七海

「……まあ、たしかに、僕ってちょっと、女の子みたいだもんね。

背も低いし、他の男子みたいに、強いわけじゃない……」

氷室零

「だからって、いじめられていい理由には、ならない」


私が真剣に言うと、


七海

「…………」


七海は、そっと微笑んだ。


   ◇ ◇ ◇


……地元の中学に進んでもなお、七海へのいじめは続いた。


少年1

「落ちろー!」


バッシャアアン!


少年2

「あはは! おもしれー‼」

少年1

「さいっこー‼」


……校内を歩いていると、プールの方からなにやら音がした。

……駆け寄ってみると──


氷室零

「七海!」


彼が、プールで溺れていた。


氷室零

(アイツは、泳ぐのが苦手なのに……!)


……私はプールの入り口へ回り込んだ。


氷室零

「オイッ! 何してる! やめろ!」

少年1

「あ、氷室だ」

少年2

「また来たのかよー」

大地

「……」


私は彼らの前を横切り、七海に手を差し伸べた。


氷室零

「七海! 私だ、つかまれ!」

少年1

「何してんだよ、邪魔すんな!」


彼は私の腹を蹴った。


氷室零

「‼」


私の手が、プールから離れた。

七海の手が、水に沈んでいく……。


氷室零

「やめろ……! 七海が泳げないのを知って……!」

少年1

「だから、おもしれーんじゃねえのかよ!

氷室も一緒にやろうぜ、良いヤツぶってねーでよ!」


氷室零

「私は、死んでもやらない‼」

少年2

「ぷはっ、大げさかよ! まじウケる‼」

少年1

「あはは!」

大地

「……」

七海

「はあ、はあ……」


……七海がプールのへりに、手をかけていた。


氷室零

「七海!」


私はまた、彼に駆け寄った。


少年1

「おい大地、氷室を止めとけ」


大地はうなずいて、私を羽交い締めにした。


氷室零

「オイ、大地⁉」

大地

「…………」

氷室零

「離せ! 七海が死ぬ!」


肩越しに見えた大地は、無表情だった。


氷室零

「大地……!」


私は暴れた。

だけど、彼の腕からは、まったく抜け出せそうになかった。

中学生になった彼の身体は、女の私よりも遥かに強くなっていたのだ。


少年1

「オラッ!」


いじめっ子の一人が、ふちに置かれた七海の手を踏みつけた。


七海

「いっ……!」


七海の手が、プールサイドから離れる。


七海

「……‼ れいちゃ……」

氷室零

「七海!」


溺れ始めた七海に、私は叫んだ。


氷室零

「……お前ら、はやく七海を助けろッ‼ 死ぬぞ⁉」

少年1

「別に、こんなんじゃ死なねーよ!」

少年2

「そうだ!邪魔すんな!」


大地以外の少年たちは、ニヤニヤと笑った。


氷室零

「お前ら……‼‼」

(こいつら――人じゃない! 人の形をした、外道だ‼)


??

「おい、何してる!」


プールのフェンスの向こう側に、先生がいた。


少年1

「あ、やべっ」

少年2

「逃げるぞ!」


大地はパッと、私を開放した。


氷室零

「七海っ‼」


私はプールサイドにしゃがみこみ、もう一度、七海に手を差し出した……。


   ◇ ◇ ◇


……その後、注意してきた先生に事情を話した。

大地の名を出すと途端に彼は目を泳がせ、

「まあ、気を付けろよ」

そう、去っていった……。


氷室零

(……あの先生もきっと、

大地の親に金を握らされてるんだ……。……ひどい……)


──その翌日、七海は学校に来なかった。

──いや……

……くることなんて、できなかった。


氷室零

「…………」


私は、七海の前に歩み寄った。

……花の中、

白い服を着せられ、瞼を硬く閉じて横たわっている、

彼の前に。


氷室零

「七海……」


──彼が最後に私に見せたのは、いつもの柔らかい笑みだった。


昨日──


七海

「僕の親には、内緒にしてほしい」

「知ってるでしょ、うち、貧乏だって」

「ママもパパも、毎日がんばってお仕事してくれてるのに──

それを邪魔するわけには、いかないよ」


彼は、真剣な顔をした。


私は、

「そんなことない、七海のことが両親も大事なはずだ」

……そういったが、彼は頑として首を縦に振らなかった。

……しばらく話をしたが、あたりが暗くなるまで、

彼はうなずかず、微笑んだままだった。


氷室零

「……はあ……。わかったよ。私は、諦めないからな。

また明日、お前を説得する」


私は七海をビシッと指さした。


七海

「あはは……」

氷室零

「それに……大地たちのヤツ、明日こそ許さない、とっつかまえてやる!」


私は手を構えて腰を低く落とし、何度か蹴るマネをした。

……今夜は、イメージトレーニングをしておかなければ。


七海

「……」

氷室零

「……そろそろ帰る。暗いから、気を付けろよ。じゃあ、明日な」

七海

「うん。じゃあね」


──それが、私が聞いた、七海の最後の言葉だった――。


氷室零

(昨日まで、笑っていたのに――)


……私は、彼のことを知った気でいて、なんにも、知らなかったのだ。

……彼は、自ら首を吊るほど……ずっと、深く、深く……苦しんでいた……。


??

「なんで……」


……横から、声がした。


??

「なんで、死ぬんだよ……」


……声の方を見ると、大地が泣いていた。


氷室零

(は――――?)

大地

「あの程度で、死ぬなよ……」

氷室零

「……何言ってんだ、おまえ?」


私は大地に歩み寄った。


氷室零

「お前らが、お前が──

七海を追い詰めたんだろ。知らんぷりするなよ」

大地

「あの程度で、死ぬと思わないだろ⁉」


大地の口の端が、引きつっていた。


大地

「あんなの、ただのお遊びだろ⁉

……幼馴染同士の、ちょっとした、遊び――」


……気が付くと、目の前に、大地が倒れていた。

彼は手で頬をおさえ、私を見上げた。


大地

「な――なにすんだよ‼ 今、どこか分かってるのか⁉ 葬式の場だぞ⁉」


氷室零

「おまえ――

同じことを、七海の目の前でもう一度、言えるのかよ――」


大地はニヤッと笑い、立ち上がった。


大地

「ああ――言ってあげるよ――」


大地は棺の中の七海を覗き込んだ。


大地

「あの程度で死ぬなんて!おまえ、弱いな‼‼

そんなんだからいじめられるんだよ、あはは‼!

あんなの‼ ただの、幼馴染同士のじゃれあいだろお⁉」

氷室零

(コイツ……本当に、──クズだ)


──そこから、私の記憶はない…………。

……気が付いたら、大人たちに取り押さえられていた。

しばらくしてから、私は少年院に入ることになった――。

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