分かってくれるかもしれない
氷室零
「…………三十七度……」
体温計を脇から出し、つぶやいた。
念のため体温を測ってみたら、これだった。
……役に立たない、どころではない……。
夢野陽
「……ゆっくり、休んで」
私は頷いて、寝室へ向かった。
ベッドに横たわり、雨の降り続いている外を眺める。
氷室零
(おじさんのこと、良子さんのこと、
……役立たずの、自分のこと……)
……いろんなことがぼんやりと頭に浮かんでは、消える……。
……そうしているうちに、意識を失った。
氷室零
「…………」
……目を覚ますと、真っ暗だった。
枕元のスマートフォンを見ると、午前一時になっている……。
氷室零
(……ずいぶん長く、寝たな)
……ベッドから起きて、リビングに通じるドアを開けた。
氷室零
「!」
……リビングのソファーには、夢野が座っていた。
夢野陽
「……あ、氷室さん。体調、大丈夫?」
氷室零
「…………さっきよりは……」
額に手を当てる。
……先ほどより、熱は下がっているように思えた。
夢野陽
「測ってみようか」
体温計を渡された。……はかってみると、三十六度。
氷室零
「……平熱だ」
彼はほっと息を吐いた。
夢野陽
「そっか、よかった……」
……心底安心している、というような顔をしていた。
氷室零
(……心配してくれて色々やってくれたのに、
私は、さっき……)
氷室零
「………………さっきは、悪かった」
夢野陽
「ん?」
氷室零
「気持ち悪い、だなんて言って……」
夢野陽
「ううん、いいよ。たしかに、家族はいいすぎたね、ごめんね」
氷室零
「それと……
私を、……あ、愛して、なんて……
お、おかしなことを、言った……忘れてくれ」
夢野陽
「うん、分かったよ。……きっと、疲れがたまってたんだね」
氷室零
(なんで……)
「なんで、そんなに優しいんだ……?」
ジッと彼を見た。
氷室零
(……なにか、裏があるんじゃ……)
……良子さんみたいに──。
夢野陽
「……キミだからだよ」
氷室零
「え?」
夢野陽
「オレを──助けてくれたじゃない」
氷室零
「そ、そんなことか?」
夢野は目を瞬かせた。
夢野陽
「そんなこと、って……あれは、すごいことじゃない」
氷室零
「……そんなことない。
前にも言ったが……私個人の事情があっただけだ、
お前のためじゃない」
夢野陽
「そう……。オレは、うれしかったよ。優しいなあって」
氷室零
「優しくなんか、ない……」
(だって……)
「私は──犯罪者だ」
…………ポロッと、口からこぼれた。
氷室零
(まずっ───)
夢野陽
「うん……でも、それはメグちゃんのために……」
氷室零
「ちがう……そういうことじゃない」
私は首を横に振った。
夢野陽
「……ちがう?」
氷室零
(いうべきか? 自分のこと────
夢野は否定しない、と言っていたが……)
……たしかに、彼は一度も、私を否定しなかった。
愛して、と口走った時すら……。
それどころか、
雨の中、傘を持って迎えに来てくれたり、
スープをくれたり……。
氷室零
(私なんかには、もったいないくらい、優しく──)
夢野陽
「…………」
氷室零
「私は──ほんとうに、犯罪者なんだ。
人を傷つけた、最低な暴力女だ……
……しょ、少年院に、入ってた……」
ごくりと唾を飲み込んだ。
氷室零
(……言って、しまった……)
夢野陽
「……そうなんだ」
夢野は、静かに頷いた。
氷室零
(――たしかに、否定、してこない……。
……でも…………話したところで、何も──)
夢野陽
「氷室さんのことだから……なにか、ワケがあるんだろうね」
氷室零
「!」
(この人──)
……正直、これ以上……ひとりで過去の色々なこと、
自分の無能さをずっと抱えたままなのは、……つらい……。
氷室零
(この人は、分かってくれる──かも、しれない……)
……メグの時と、同じように…………。
氷室零
「…………私は────
中学生の時、葬式の場で……
クラスメイトに、暴力を振るったんだ。
それで────少年院に、入った………………」
……それから、私は恐る恐る、話し始めた。
私が、小学生の時のことを……。




