スープ
オレと氷室さんは、家に戻った。
夢野陽
「ただいま」
メグ
「おかえり……」
氷室零
「……」
メグ
「……大丈夫?」
夢野陽
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
氷室零
「……」
◇ ◇ ◇
夢野陽
「オレは、どうやって――キミを、愛せばいい?」
氷室零
「そ、それは……」
……私は慌てて、首を横に振った。
氷室零
「ごめん、わかんない……」
夢野陽
「……そっか」
彼はその場で立ち止まった。
氷室零
「…………」
夢野陽
「……帰ろう」
私は、うなだれたまま、うなずいた。
◇ ◇ ◇
私は先に風呂に入った。湯船の中で、頭を抱える……。
氷室零
(私を愛して、なんて――なんで、あんなことを……)
……頭が、おかしくなってしまったのかもしれない。
氷室零
「はあ……」
(これから先、アイツに合わせる顔がない……)
◇ ◇ ◇
オレは頭をタオルで拭きながら、メグちゃんの横に座った。
夢野陽
「ごめんね、心配かけて」
彼女は首を横に振った。
メグ
「れい……どうしちゃったの???」
夢野陽
「……氷室さんは……」
オレは頭を拭く手を止めた。
夢野陽
「すごく、傷ついているんだと思う。
ボロボロの雑巾みたいに――」
メグ
「ぞうきん?」
夢野陽
「うん。雑巾、分かる?」
彼女はうなずいた。
夢野陽
「氷室さんは、きっと――
これまでにたくさんたくさん、イヤなことがあったんだよ。
それで、傷ついていて……。
たくさん汚れを拭きとった雑巾みたいに、ぼろぼろで、汚れて……。
いつも心をキレイにしてくれる雑巾が、
今はダメになっちゃってるんだ」
メグ
「……じゃあ、ちゃんとキレイに洗ったら、良いのかな……
零、また元気になるのかな……」
夢野陽
「うん……そうなると、いいね。
でも……どうすればいいのか、オレには、わからない……」
メグ
「陽…………」
夢野陽
(愛して――って、どういうことだ?
まさか――オレと氷室さんが、男女の関係に?
……いや、そういうことでは、ない気がする。
もっと、もっと深い──――)
ガチャッ……
背後のドアが開いて、寝間着姿の氷室さんが出てきた。
氷室零
「終わったぞ」
夢野陽
「あ、うん……」
氷室さんは目を伏せ、ソファーに座る。オレは入れ替わりで、脱衣所に入った。
◇ ◇ ◇
氷室零
「はっくしょん! ……うう」
夢野が脱衣所から出てきたタイミングで、くしゃみが出た。
夢野陽
「……氷室さん、スープでも飲む?
ちょうど、美味しいのがあるんだ。あったまるよ」
私は夢野の方を見ずに、うなずいた。
……少しして、目の前にスープの入った器が置かれた。
彼は、後ろに下がる。
氷室零
「わるい……」
……スープは、
初めて夢野に振舞われたお粥のように、
ふわふわと柔らかい湯気を上げている……。
氷室零
(わたし……なんでも、やってもらってばかりだな……)
……おじさんの元で働いていた時は、良子さんに怒られてばかりだった。
実際、怒られて手が震え、仕事はあまりできなかった……。
ログハウスに来てからも、ろくに飯も作れない……。
氷室零
(……やっぱり、私は役立たずの暴力女、犯罪者だ……)
……スープに、死んだ顔の自分が映る……。
氷室零
(とりあえず、出してくれたし、飲むか……)
……器を手に取り、傾ける……。
氷室零
「……‼」
スープの表面に、夢野の目が映った。
……ものすごく優しい目を、している……。
氷室零
(なんで───こんな、私に……)
……そんなに、優しく────
氷室零
(私は──役立たずの、犯罪者なのに……)
「う……」
ほおを、温かいものが伝った。
氷室零
(なんで――)
……器を、テーブルに置いた。
氷室零
「うう、うう……‼」
メグ
「零……」
夢野陽
「はい」
氷室零
「!」
……後ろから、夢野の手が伸びている。そこには、ティッシュ箱があった。
氷室零
「……悪い」
夢野陽
「ううん」
一枚受け取り、鼻をかんだ。
氷室零
「う、うう………………」
氷室零
(頭の中が、もうぐちゃぐちゃだ……)
おじさんを失ったこと……。
おじさんを殺した、良子さんが憎いこと……。
……自分が、役立たずの暴力女、犯罪者であること……。
氷室零
「うう………………」
……夢野の出してくれたスープを、飲む……。
氷室零
(あったかい……)
看病してくれた時の、お粥と同じように……
優しく、じょじょに、体に染み渡っていくのがわかった……。




