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【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第2章「温もり」
21/58

わたしを愛して

夢野陽

「ただいま」

氷室零

「……」


私は、リビングのソファーに腰掛けた。


氷室零

「…………」


陽は心配そうな顔をしながらも、

二階の屋根裏部屋へ向かっていった。


氷室零

(陽に……さっきのことを、言うべきだろうか。

いや、でも、やっぱり……)


……その後、気づいたら、目の前のテーブルにパンやスープが並んでいた。

メグや陽が、横のソファーに座っていた。

……窓を見ると、朝日が差し込んでいる。


氷室零

(……もう、朝か……)


……陽とメグは楽しそうに雑談をしながら、パンを口に運んだ。

だけど私は口の中に、ただただ食料を流し込むだけ、という感覚だった……。

朝食の後、メグはその場にあった紙とペンで、絵を描き始めた。


メグ

「できた!」


陽が、絵を覗き込む。


夢野陽

「よく描けてるね。……せっかくだし、壁に飾らない?」


メグは目をキラキラさせた。


メグ

「うん!」

夢野陽

「じゃあ、ちょっと待っててね」


陽は近くの棚を開けた。

彼は額縁を取り出し、テーブルに置いていく。


氷室零

(……そういえば……昨日の夜、そばにメグもいたような……

……なにか、言っておいた方がいいのか?

……いや、でも、なんて言うつもりだ?

過去にイヤなことがあって、それを思い出したとか――)


……イヤなこと。

……大切な人を、自分を受け入れてくれた人を、

……殺されたこと……。


夢野陽

「ちょうどいいのは……」


彼は私の目の前に、写真立てを置いた。


氷室零

「……‼」


その写真には──笑顔の、良子さんが写っていた。


氷室零

(コイツ――‼)


バシッ!

私は写真をはたいて、床に落とした。

バリンッ‼


夢野陽

「‼」

メグ

「ひっ‼」


私は立ち上がり、写真立てを踏んだ。


氷室零

「この……この! クソ女‼」


足に、ガラスの破片が刺さる。


でもそんなの、

腹を刺され、燃やされたおじさんの苦痛に比べれば、なんともない……!


氷室零

「死ね……死ね‼ 許さない‼‼ 死ねッ!」

夢野陽

「氷室さん……」

氷室零

「……はっ」


……後ろを見た。

真剣な顔の陽に、メグが怯えた目をして、しがみついていた……。


氷室零

「あ――――」

(また――やってしまった……)


私はうつむいた。


氷室零

「すまん……また……」

メグ

「零……どうしちゃったの?」


……その潤んだ目に、……なにも、言えない……。


氷室零

「……っ」


私は走って、ログハウスを飛び出した。


夢野陽

「氷室さんッ!」


   ◇ ◇ ◇


氷室零

「はあ、はあ……」


……また、林の中までやってきた。


氷室零

(足が、痛い――でも、こんなの、

おじさんの苦痛に比べれば――)

夢野陽

「氷室さん!」

氷室零

「!」


陽が絆創膏と消毒液と靴を持って、追いかけてきていた。


夢野陽

「足……痛むでしょ」

氷室零

「……悪い、また……」

夢野陽

「ううん」


……私はその場に座り込んで処置を済ませて、靴を履いた。


氷室零

「悪い、二度も――」

夢野陽

「気にしないで――俺たちは、

家族みたいなものでしょ」

氷室零

「は……⁉」

夢野陽

「あっ」


夢野は、しまった、といった風に、手で口を押えた。


夢野陽

「あ、いや、今のは――口が滑ったんだ、言い過ぎた、」

氷室零

「なんだよ、気持ち悪い、家族なんて!」

(良子さんと、同じ! 家族って……‼)


私は立ち上がった。


氷室零

「私は!

たまたまお前の身勝手に、巻き込まれただけだ‼

家族なんかじゃない‼

ここまでついてきたのだって、私の個人的な事情があるからだ‼

お前になにか情がわいたとか、そんなんじゃない‼」

夢野陽

「わかってる、わかってるよ、ごめん――」

氷室零

「気持ち悪い――お前とは、家族なんかじゃない……」

夢野陽

「ごめん……」

氷室零

(なんだよ、コイツ――ちょっと心を許したら、これか――)


…………びゅうっと、冷たい風が吹く。

……雨がまた、ぽつぽつと降り始めた。


夢野陽

「ちがう……そんなつもりはなかったんだ、

……ただ、昨日から氷室さんが、つらそうにしているから……

なにか、力になれればと思って……

……オレにできるのは話を聞くことくらいだ、

だけど……なんでも、いつでも言ってもらって、いいから――」

氷室零

(……なんでも、いつでも?)


――まるで、良子さんみたいなことを――


氷室零

「どこまで──似てるんだよ……」

夢野陽

「……え? 似てる?」

氷室零

「ああ、お前は──おじさんを殺した犯人に、そっくりだ。

おんなじようなことばかり言って──信用できない!」

夢野陽

「そんな……オレとその人は、ちがうよ」

氷室零

「その保証が、どこにある⁉ 気持ち悪いんだよ‼」

夢野陽

「そ、そんな――」


陽は困ったような顔をした。


氷室零

「お前は良子さんと同じだ、どうせ、どうせ……!

私の話を聞いたところで!

お前は、軽蔑するに決まってる……!」

夢野陽

「……軽蔑なんて、しないよ……‼」

氷室零

(嘘だ、信用できない……‼)

「じゃあ! それを! 今すぐここで! 証明しろよ‼」


私は地面を指さした。


夢野陽

「えっ――」

氷室零

「それができないなら、二度と話を聞く、

いつでも、なんでも、なんて言うな‼ 気持ち悪いッ!」

夢野陽

「……」


夢野は口を開け、黙り込んだ。

ザー……

突然雨が強くなって、身体を打つ……。

……こんな、良子さんにそっくりなヤツなんて、

信用できない――


氷室零

(でも、でも…………)

夢野陽

「オレは――どうすればいい……?」


……彼の困惑した瞳の奥には、温かいものが、見える――。

──思えば、彼はずっと、そうだった。

メグに対しても、陽はそうだった。

……でも、良子さんの目の奥は、どこまでも、冷たかった。

おじさんのように、朗らかに笑っていた時も。

この、雨のように――──。


氷室零

(寒い……)

夢野陽

「オレは、何をすれば――」

氷室零

「わたしを……わたしを、

愛して……」

夢野陽

「えっ?」

氷室零

「はっ――――」

(わたしは、なにを――……)


私は、手で口元を押さえた。


氷室零

「いや、今のはちがう、忘れて――」

夢野陽

「……どうやって?」


……陽は、ジッと私を見た。


夢野陽

「どうやって氷室さんを、愛せばいい……?」

氷室零

「そ、それは――」


……彼は一歩私に、近づいた……。

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