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The Safe House  作者: さかな煎餅
第2章「温もり」
20/57

言えない

ガシャン‼


夢野陽

「⁉」


……激しい音で、目が覚めた。


夢野陽

(なんだ……⁉ まさかまた、メグちゃんの家の人か……⁉)


オレはベッドから起き上がり、屋根裏部屋を出た。


??

「クソ‼」

夢野陽

「⁉」


階下から、声が聞こえてきた。

月の光が差し込む薄闇の中、目を凝らすと……


夢野陽

(氷室さん……?)


氷室さんが、うつむいていた。

……彼女のそばには、メグちゃんもいる。

……オレはそっと、階段を下った。


メグ

「陽!」


メグちゃんが怯えた顔で、オレにしがみついた。


メグ

「零が……」

氷室零

「う、うう…………」


……氷室さんは激昂していたが、今度は肩を振るわせ始めた……。


夢野陽

(……とても、つらそうだ……)

「……オレが、話をしてみる」


メグちゃんは不安そうにうなずき、寝室に入っていった。


氷室零

「また会いたいよ、おじさん……」

夢野陽

(おじさん、って──大森さんのことか?)

「氷室さん……」


……うつむく背中に、思わず、声をかけていた。


氷室零

「!」


……振り返った彼女の顔は、涙に濡れていて──

例えるなら少女のような、

あどけない表情をしていた。


夢野陽

「どうしたの、いったい──」

氷室零

「…………なんでもない」


彼女は立ち上がった。が、すぐにふらふらし始めた。


氷室零

「く…………」


……彼女の視線の先、足元を見る。

そこが、赤く染まっていた……。


夢野陽

「氷室さん、足──!」

氷室零

「……わかってる……」


彼女はのろのろとソファーに向かい、座った。

テーブルの上のティッシュをとり、足を拭き始める……。


夢野陽

「…………」


オレは二階の屋根裏部屋に戻った。

自分のカバンからいくつか絆創膏を取り出す。

階下に行き、電気をつけた。氷室さんに、絆創膏を差し出す。


夢野陽

「…………はい」

氷室零

「悪い…………」

夢野陽

「ううん」


氷室さんは、絆創膏を足に貼り始める……。


夢野陽

「……………………」

氷室零

「……………………」


……少しして、氷室さんは足から手を離した。


氷室零

「悪い──夜中に騒いで」


オレは首を横に振った。


氷室零

「…………」

夢野陽

「…………」

氷室零

「……散歩に、いってくる」

夢野陽

「うん……暗いから、気をつけて」


彼女は靴を寝室にとりに行った後、それを履いて、外へ出た。


夢野陽

(氷室さん────……)


彼女が膝をついた床を見ると、先ほどの写真立てが粉々になっていた。


夢野陽

(これは、さっきの写真……)


さっき氷室さんは、大森さんの娘さんを

「許せない」と言っていた───

彼女が、会社の社長である大森さんを殺したのだと……。


夢野陽

(いったい、この会社で、なにが──?)


オレは写真立てを、自分の屋根裏部屋に持っていった。


夢野陽

(氷室さんが見たら、また辛くなってしまう……)


一階に戻り、写真立てのガラスと血の跡を掃除した。

……パタパタ……


夢野陽

「!」


何かを叩くような音に、顔をあげた。窓を見ると、雨が吹きつけている……。


夢野陽

「あめ……そうだ、氷室さん!」


オレはあわてて、玄関へ走った。


夢野陽

(彼女が、風邪をひいてしまう──)


   ◇ ◇ ◇


氷室零

「…………」


ふらふらと、林の中を歩く。


氷室零

(おじさん……)


うつむくと、ボロボロになったジャージが見えた。

……おじさんに、もらったものだ。


   ◇ ◇ ◇


初日の、工場で――


大森正

「ここではこの服を着て、作業してほしい。

服が汚れてしまうからね」


おじさんから、緑色のジャージを受け取った。


氷室零

「わかりました」


……会社のロゴも何もない、シンプルなジャージ。

だけど……


   ◇ ◇ ◇


氷室零

(このジャージが、おじさんの形見になるなんて……)


……また、ほおが濡れた。


氷室零

「あ…………」


空を見ると、雨が降り始めていた。


氷室零

(……戻らなきゃ)


後ろを振り向いた。


夢野陽

「あっ……」

氷室零

「!」


……傘を差した陽が、立っていた。


氷室零

「お前……」

夢野陽

「濡れちゃうと思って。……家に、帰ろ?」


彼は私に、もうひとつの傘を差した。私はうなずいて、傘を受け取った。


夢野陽

「…………」

氷室零

「…………」


……二人で並んで、林を歩く。


氷室零

(コイツは、おじさんのことを知っている……。

……さっき、私が怒っていた理由を、話すべきか?)


……傘を傾け、陽の顔を見る……。


氷室零

(いや――

コイツがおじさんと同じような人とは、限らないじゃないか……。

良子さんのような、最低な人間の可能性もある……)


……ジャージを、ぎゅっとにぎりしめる。


   ◇ ◇ ◇


おじさんの工場兼自宅で働くことになった日。

良子さんと握手し、おじさんからジャージをもらった後、

一度、作業場奥の居間へと戻った。


大森良子

「ここでジャージに着替えておいで。そこにいるから」


良子さんは外に出て、襖を閉めた。


氷室零

「わかりました」


……服を脱ぎ、ジャージを着た。

しかし……


氷室零

(あれ……)


……ジャージのジッパーが、上手く閉まらない。

……どうも、かみ合わせが悪くなってしまったようだ。


大森良子

「……そろそろ着替え終わった?」


襖越しの良子さんの影が、動いた。


氷室零

「あ……すみません、

ちょっと、ジッパーが上手く閉まらなくて――」

大森良子

「チッ」

氷室零

「……!」

大森良子

「これだから、犯罪者は――」

氷室零

「…………」


……つぶやくような声だったが、私の耳にははっきりと聞こえた……。

……それから、良子さんはことあるごとに、

私を激しく叱責するようになった。


大森良子

「またミスをしたの⁉」

「何回言えば分かるの⁉」

「そんなんだから、少年院に入るんでしょ⁉」

氷室零

「……すみません……」


……おじさんがいないところで。


   ◇ ◇ ◇


氷室零

(ダメだ、陽には言えない──

陽が、良子さんと違うなんて保証は、どこにもない……)


……最初のログハウスで、

彼のメグに対する態度は、しっかりと見ていた。

多少は、信用してやっても良いと思った。

今一緒にいることが、その証明だ。

しかし――


氷室零

(……犯罪者なのは、陽も同じ……。

でも、それでも、やっぱり……)


……ジャージをつかむ手が、震えた。

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