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【完結済み】The Safe House  作者: さかな煎餅
第1章「新たな使命」
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温かな食卓

女性

「男、二十五歳、無職、一人暮らし……

そんなヤツが人里離れた山奥の小屋に

幼い女の子を"助けたくて"連れてきた、か……」


女性はオレの頭から足元まで、じろじろ見てきた。


夢野陽

「………」


……刑事ドラマでよく見る「尋問」というのは、きっと、こういうものなのだろう……。


夢野陽

(でも、当然だ……。

さっき出会ったばかりのこの人からすれば、

オレは……

幼い女の子に手を出そうとしている、怪しい成人男性だ……)


こうして今、彼女ににらみつけられるまでには……

実に、色々なことがあった……。


   ◇ ◇ ◇


少女の母親

「恵ッ! 待ちなさい!」


オレは少女の手を引き、走った。

人ごみにまぎれ、駅に駆け込み、やってきた電車に飛び乗った。


夢野陽

(これから、どうする⁉ ……家に、戻るか?

あそこは山奥だ……。他に人はいないし、監視カメラもないだろうし……

……そうカンタンには、ばれないかもしれない……。

……帰りたくないけど、今は仕方ないか……)


少女とつないだ手に、汗がにじむ。

……それはオレのものなのか、少女のものなのか、わからない。


夢野陽

(そういえば……この子のお母様は、警察の人だ……!

じゃあダメだ、どこに逃げても、きっとすぐにつかまる……!)


少女

「……」


少女は不安そうな目で、オレを見上げた。


夢野陽

(いや……オレ、何考えてるんだ……。

ばれないとか、つかまるとか、えらそうに……。

……人としていけないことを、してるくせに……)


ガタンガタン……。電車の揺れる音が、耳を打った。


夢野陽

(……誘拐、なんて……

オレは……なんて、とんでもないことを……)


……いつのまにか少女はドアの窓にはりつき、外を見ていた。

彼女はどんどん遠ざかるビル群を、目で追っている……。


夢野陽

(……オレと一緒に逃げよう、なんて……

言わなきゃ、よかったかもしれない……。

……この子を虐待から救いたいなら、もっと他に、やりようがあったんじゃ……。

警察や児相に、もう一度相談するとか……)


……そもそも……彼女のことを知る警察官が言っていた通り……

少女の母親がしていたことは、ただの過度な「しつけ」だったかもしれない……。

オレはたまたま、「しつけ」が酷かった日を見てしまった……

その程度なのかもしれない。


夢野陽

(オレが、勝手に勘違いしただけなのかもしれない……。

あの女性がやっていることはまちがいなく虐待で、

この子は苦しんでいると、勝手に決めつけて……。

本人に、詳しく聞くこともせず……)

少女

「……」


少女はジッと、オレを見つめていた。

……乗り換えの駅で、電車のドアが開く。


夢野陽

「オレ、別の電車に乗るんだけど……

一緒に、来る?」

少女

「べつ……?」


彼女は眉をひそめた。


夢野陽

「……オレにつれてこられて、やだった?

……おうちに、帰りたい?」

少女

「!」


少女の肩が跳ねた。


少女

「え、えっと、その……」


彼女は目をさまよわせ、うつむいた。


少女

「……わ、わかんない、です……」

夢野陽

「……そうだよね。わかんないよね。ごめんね。

……帰りたかったら、いつでも言って?」

少女

「……」


オレは電車から降りた。

少女は浮かない顔で、オレの後ろについてきた。


夢野陽

(オレ、何言ってんだろう、帰りたかったら、って……。

オレが誘って、ここまで連れてきたくせに……)


電車を乗り継ぎ、駅から車に乗って山に入った。

山の中腹で車を降り、橋を渡って、林を歩く。


夢野陽

「…………」

少女

「…………」


林の中で少女は立ち止まり、後ろを振り向いた。


少女

「……」


……彼女は前に向き直り、暗い顔でこちらに歩いてきた。


夢野陽

(……不安、なのかな……)


……もし、そう思っているのだとしたら……当たり前だ。

……今、幼い彼女は見知らぬ男と

人気のない、暗い方へ歩いていっているのだから……。


夢野陽

(……本当にこれで、よかったのか……?

……でも、もう家の近くまで来てしまったし……今更だ……)


……林を歩き、少しひらけたところに……

オレの家である、ログハウスがある。


少女

「ほっ……」


少女は安心したように、息をついた。

ぐぅぅ~


夢野陽

「!」

少女

「あっ……」


……オレから発せられた音ではない。少女は顔を真っ赤にしてうつむいた。


夢野陽

「……お腹もすくよね、こんな夜中にたくさん歩いたんだし……。

今、家に入ったら、ご飯作るね」


家の鍵を開け、少女に先に入ってもらった。ドアを閉め、電気と暖炉の火をつける。


少女

「……」


少女はドアのところで固まっていた。


夢野陽

「ソファーに座ってていいからね」


少女はふらふらと歩き、ゆっくりとソファーに座る。

彼女はひざの上に両手を添え、背筋を伸ばし、ジッとオレを見つめてきた。

……その姿はまるで、置物のようだ。


夢野陽

(……緊張してるのかな)


オレはそっと微笑み、キッチンへと向かう。


夢野陽

「あっ」


オレはキッチンから顔を出した。


夢野陽

「食べられない物とか、アレルギーとかある?」

少女

「な、ないです……」

夢野陽

「わかった、ありがとう」


オレは冷蔵庫を開けた。


夢野陽

(……材料は少ないけど……なんとか、作れそうだ)


   ◇ ◇ ◇


夢野陽

「おまたせー♪」


固まっていた少女の身体が、ビクッと震える。


夢野陽

「あ、ごめん、驚かせちゃって。……大したものじゃないけど、どうかな」


料理を載せた木のトレイを、少女の前のテーブルに置いた。

おわんに盛ったパックごはん。

余っていた材料で作った豚汁と、かぼちゃの煮物。

それと、冷凍食品の唐揚げだ。


夢野陽

「多かったら、残していいからね。

……毒とか睡眠薬とか、怪しいものはいれてないよ。

って言っても、信じてもらえないか……

――!」


少女の目はキラキラと輝いていた。

その小さな口からは、だらだらとよだれが垂れている。


夢野陽

(……心配する必要、なかったみたい……)


オレは少女のヨダレを、ティッシュで拭く。

……本人は微動だにせず、目を輝かせていた。

少女は箸へと手を伸ばした……

かと思うとすぐに、手を引っ込めた。


少女

「あの……た、食べてもいい、ですか……?」


オレはうなずいた。


夢野陽

「もちろん! ……あ、あと、敬語はいらないよ♪」

少女

「は……う、うん。……い、いただきます……」


彼女は手を合わせた。


夢野陽

「はーい♪」


少女は箸を手にとり、唐揚げをジッと見た。

茶色いそれをひとつつまみ、

また、ジッと見つめる……。


少女

「……?」


彼女は首を傾け、唐揚げを、そっと口に入れた。


少女

「……‼」


その見開いた目からきらきら音を立てて、

星がこぼれ落ちそうだった。


夢野陽

(……気に入ってくれたのかな?)


彼女は唐揚げの載った皿に顔をうずめ、すぐに空にした。


夢野陽

(早っ……!)


彼女は他の器にも、箸を伸ばしていった。

…………五分もしないうちに、すべての皿が空になった。


夢野陽

(全部食べてくれた! 嬉しいなあ……)

「あ、ごはん、ついてるよ」


彼女のほおについていたごはんつぶをとった。


少女

「…………」


……少女の目から、先ほどまでの輝きがなくなっているように見えた。


夢野陽

「……どうしたの?

……もしかして、まだ足りない、とか……

嫌いなものを、ムリして食べたとか……?」

少女

「! ……な、なんでもないです……」


彼女はぶんぶんと首を横に振り、顔を赤らめた。


少女

「……ごはん、すごくおいしかったです。ごちそうさまでした」

夢野陽

「そっか、よかった……。

あとでお腹すいたーとか、何か困ったなーとかあったら、いつでも言ってね」


彼女はうなずいた。


夢野陽

(そういえば……この子の名前、知らないな)


オレは自分を指さした。


夢野陽

「名前、言ってなかったね。オレ、夢野陽っていうんだ。

気軽に、陽って呼んで♪」

少女

「し……白雪恵、って言います」

夢野陽

「めぐみちゃんかー。良い名前、」

恵の母親

「恵ッ!」


この子のお母様の声と、この子の怯えた顔が、

頭をよぎった……。


夢野陽

「…………」

白雪恵

「……?」

夢野陽

「……キミのこと、これからは、メグちゃん、って呼んでもいい?」


オレは静かに問いかけた。


白雪恵

「……? うん……」

夢野陽

「ありがとう。これからよろしくね、メグちゃん」

メグ

「よ、よろしくお……よろしく、よ……陽……」


帰りたくない、寒い……

いつもそう思っていた家が、今日は少しだけ、暖かく感じた。

……人として許されないことをしている、と分かっていても……。


   ◇ ◇ ◇


夢野陽

「オレ、二十五歳なんだけど……メグちゃんは、何歳なの?」


メグ

「五歳……」

(このひと、優しいな……

くれたごはんはおいしかったし、がつがつ食べても、怒ってこなかった……。

……でも、明日は何か、イヤなことをされるかも……)

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