自罰
夢野陽
「ここは──」
また、あの白い空間に、オレはいた。
夢野陽
(なんなんだ、いったい──)
??
「やっと会えたなあ」
夢野陽
「⁉」
後ろを向くと、……ぼろぼろのスーツ姿のオレが、立っていた。
夢野陽
「キミは……」
スーツ姿の夢野陽
「オレだよ。まあ、見ればわかるよな?
……お前はオレとも、初対面じゃないはずだ。
あのガキと同じでな」
彼はそう言って、にやにやと笑っている……。
夢野陽
「……この前ここで会った、
子どもの時のオレを知ってるの?
彼も、キミも……オレとは、何度も会ってる……?」
オレは目の前の自分を指さしながら、つぶやいた。
なんだかもう、わけがわからない……。
スーツ姿の夢野陽
「まあ、そんなところだな。
ここには、お前は何度も来てる。
起きてる時も、寝てる時もな。
今まで、お前の自覚がなかっただけだ」
夢野陽
「……たしかに、自覚は、ない……」
……こんな場所すら、来るのは二度目だと、ハッキリとわかる……。
スーツ姿の夢野陽
「そいで、オレとお前は、何度も顔を合わせてる。
お前とあのクソガキも、顔を合わせてる。
ここまではわかるか?」
オレはうなずいた。
夢野陽
(あの子どものオレと比べると、このオレは、ずいぶんと丁寧だな)
「それで……キミと、
あの子どもの姿のオレも、知り合い……ってことだよね」
目の前のオレは鼻で笑った。
スーツ姿の夢野陽
「ま、そんなところだな。
知り合い……なんてレベルじゃ、ねえけどな」
夢野陽
「……そうなんだ」
……これ以上は混乱しそうだから、うなずくにとどめておいた。
スーツ姿の夢野陽
「…………」
──スーツ姿のオレはちらとこちらを見た。暗く、冷たい目で。
スーツ姿の夢野陽
「なあ。なんで、オレが出てきたか、わかるか?」
夢野陽
「えっ? ……わからないけど……」
スーツ姿の夢野陽
「チッ……」
彼は突然、オレの胸倉をつかんだ。
夢野陽
「⁉」
スーツ姿の夢野陽
「こうするためだよ!
──この犯罪者ァ‼」
彼はオレの頬を殴りつけた。
夢野陽
「いっ⁉」
オレは床に転がった。
夢野陽
「いった……なにするんだよ、急に……!」
スーツ姿の夢野陽
「それはこっちの台詞だよ、このバカ野郎。
……共犯だ、ってあの女に言われて、
なに喜んでるんだよ⁉ このクズ!」
夢野陽
「そ、それは……!オレにも、わかんないよ!」
本当に、わからない。
……共犯と言われてうれしかったのも、
なぜ、もう一人の自分に、こんなことをされているのかも……!
スーツ姿の夢野陽
「ほんと、お前も、甘えたクソガキだな!
……ああもう! そのアホ面見てるだけで、腹立つ‼‼」
彼はオレの腹を足で蹴った。
夢野陽
「うっ‼」
じくじくと、腹が痛む。
夢野陽
(スーツの男の人に、蹴られた所を……‼)
スーツ姿のオレは髪を振り乱し、
般若のような顔で、オレの腹を蹴った。
スーツ姿の夢野陽
「ああ!腹立つ、腹立つ!
死ね!
死ね‼
死ねッ‼‼」
夢野陽
「うっ! ああ、ぐあっ、……やめてくれ!」
彼はオレの髪をつかんで、
ぐいと、自分の顔の前に引き寄せた。
彼の見開いた目に、オレの顔が写っている。
スーツ姿の夢野陽
「や・め・ね・え・よ。
この最低なクソ犯罪者。」
夢野陽
「……そんな……」
スーツ姿の夢野陽
「お前は、犯罪者になってでも、
ひとりがイヤか?」
夢野陽
「え?」
スーツ姿の夢野陽
「──そんなんだから、お前はダメなんだよ」
彼はオレの腹を殴りつけた。
夢野陽
「ぐっ!」
スーツ姿の夢野陽
「オレがいなきゃ!」
また、腹を殴られる。
夢野陽
「いっ!」
スーツ姿の夢野陽
「おまえは!」
また殴られる。
夢野陽
「たのむ、や、やめてくれ……」
スーツ姿の夢野陽
「生きていけないくせに‼」
殴られる。
夢野陽
「うああっ‼」
彼はまた、オレの顔の前で、ニヤニヤと笑った。
スーツ姿の夢野陽
「……なあ? そうだよな?」
夢野陽
(……なにを……言っているんだ……?)
……そう思ったが、もう口が、上手く動いてくれない……。
目の前のオレは、スッと無表情になった。
スーツ姿の夢野陽
「……喋んねえのもつまんねーな。もういいや」
彼はパッと、オレから手を離した。オレはまた、床に転がる。
夢野陽
「! ……げほっ、はあ、はあ……」
……オレは殴られた腹を押さえ、あえいだ。
スーツ姿の夢野陽
「まあ、また気が向いたら、ここに来いよ」
彼は後ろを向き、両手を水平に伸ばした。
そして、肩越しにこちらを見遣る。
スーツ姿の夢野陽
「また。遊んでやるからよ」
夢野陽
「はあ、はあ…………」
(また……? もうこんなの、こりごりだ……‼)
スーツ姿の夢野陽
「……そろそろ、現実に戻るころか……」
彼は天を仰いだ。
……すると、オレの意識が、また、遠ざかり始めた……。
スーツ姿の夢野陽
「覚えておけよ……
お前はオレなしじゃ、
ここまで生きていけなかった、ってよ……」
夢野陽
「──────」
その不気味な声が、頭に反響する。
──オレなしじゃ、生きていけなかった──
──オレなしじゃ──
彼は、笑い始めた。
──あはは、はははは──
──あははははははは──
……世界が、闇に落ちていった……。




