もう後悔したくない
メグ
「……陽!」
スーツの男
「ほら、帰りますよ」
メグは夢野に手を伸ばした。
小さな足をバタバタさせているが、引きずられているばかりだ……。
女性
(これでいいんだ……)
そう、これでいい。メグは実家に帰る。
そこで、幸せに──
女性
「…………」
泣きぬれたメグのほおには、濃いあざができている。
女性
(幸せに……?)
……とても、そうとは思えない。
女性
(でも──メグは、赤の他人だ。私がかつて、夢野陽に言った通り──
私の人生に、メグは、なにも──)
……白い棺……
……燃え盛る建物……
女性
「……‼」
(わたしは……また、目の前で命を失うのか⁉)
どくどくと心臓が鳴る。うるさいくらいに。
女性
(今──ここが、分かれ道だ……)
ヘリが下降してきている。もうすぐあのヘリに、メグが乗る……。
そして永遠に、私の前から──
女性
(いいのか? 本当にこれで、いいのか……?)
「ただ、生きていてほしい」
女性
「‼」
「生きる気力を! 取り戻してほしくて!」
……夢野陽の言ったことが、なぜか今、もう一度思い出された。
女性
「馬鹿野郎……」
(尊い命を失ったことのある私に、それを言うか……‼!)
……もう、二度と、後悔したくない。
女性
「……ふーっ」
私は頭をぐっとさげた。そして、
女性
「オラァ!」
私を羽交締めする男の顎に向かって、思いっきり跳ねた。
スーツの男
「ぐっ⁉」
……男の腕が緩んだ! 私はその太い腕から抜け出し、
女性
(陽が薪割りしている時に、見えた……‼)
倉庫に向かって駆けだした。
◇ ◇ ◇
メグ
「陽……!」
メグ
(そんな……陽、死んじゃったの⁉)
……私のせいだ……。
メグ
(私が、この男の人たちに、逆らったから……
でも……おうちに、帰りたくない……!)
ブロロロロロ───
??
「ぐああっ!」
遠くの方で、もう一人の黒い服の男の人が、何かに突き飛ばされていた。
メグ
「‼」
何かに乗った女の人が、陽を後ろに乗せた。
女性
「メグ! 手を!」
私は咄嗟に手を伸ばした。ものすごい勢いで、女の人が近づいてくる。
メグ
「!」
ぱしっ、と音がして、女の人に手を掴まれた。
スーツの男
「待て!」
そのまま、ふわっと身体が浮く。
メグ
「わっ──」
――気がつくと、ぐったりしている陽の後ろに座っていた。
メグ
「え? え?」
女性
「どこか痛むところはないか? 平気か?」
メグ
「え、あ、はい!」
女性
「ならよかった。……しっかりつかまってろ!」
女の人が手を動かす。周りの景色が、どんどん過ぎ去っていく。
私たちは林へと入っていった。
◇ ◇ ◇
女性
(なんとか、間に合った──)
……さっき、倉庫の空いた扉から、バイクが置いてあるのが見えた。
鍵が刺さっていて、無事に動いたのが幸いだった。
女性
(かなり強引だったが──すこし、気分がいい)
林を抜けると、崖に仮の橋が既にかかっていた。
女性
(ちょうどいい!)
工事の人
「あ! 住人の方ですか!」
こちら側にいる、作業着を着た男性に話しかけられた。
女性
「ああ、そうだ!」
私はバイクを橋へ走らせた。
◇ ◇ ◇
山を下り、道に出る。……幸いなことに、雨が降ってきた。
女性
(これで、ヤツらを撒けるか?
……いや……陽の傷にさわる……)
メグ
「陽……大丈夫なの……?」
バックミラー越しに、メグの暗い顔が見えた。
女性
「わからん。だが……なんとかなるかもしれない」
メグ
「え⁉」
女性
「腕利きの医者を知ってる」
私はバイクのスピードを上げた。背中には、ぐったりしている陽の温もりがある。
女性
(間に合ってくれ──)
コイツを、死なせるわけにはいかない。
女性
(もう、命が失われるのを見るのは、イヤなんだ………………)
医者へつながる、遥か遠くへ続く道を、睨みつけた。
女性
(別に、コイツのためじゃない。
私自身の、個人的な事情があるからだ。
それは……陽の目が覚めた時に、言わないとな)
そんなことを思いながら、私はバイクのスピードを上げた──。




