電車の中に首無し幽霊がいた件について
きさらは電車に乗って家に帰るのだが、電車に乗ると乗客みんながきさらの方を見てくる。
「・・・」
「・・・」
乗客みんな何も言わずにきさらの方へ視線をやり、目が合ったらすぐに逸らす。
恐らく、きさらの服装が巫女だからだろう。地元ではジロジロ見たりする人はいないが流石に公共の場では目立つ。
しかし、それは仕方がない。きさらは巫女なのだから常に巫女の格好をするものだと思っている・・・というか両親にそう言われて育った。
家に私服なんて無いし、きさら自身今更私服を買って町に遊びに行きたいなんて思わない。お洒落とか何だか面倒だし。
やがて乗客の目線が他へ行く・・・というより、きさらに飽きたのだろう。きさらも他人の視線が無くなりホッとしたところ変な物が目に映った。
それは首のない幽霊であった・・・。
幽霊とは事故物件や事故現場以外にもいる。特に霊道という霊の歩く道には沢山の幽霊がいる。
しかし、そういった幽霊はもっと普通の幽霊である。
今きさらの目に映る幽霊は普通ではない。首が無い幽霊なんてなかなかお目にかかれないレアな幽霊である。
服装も鎧を付けているところを見ると戦国時代あたりに斬首された者の幽霊だろう。
そんな戦国時代に斬首された悲しき幽霊が今きさらの目の前にいる。長年、幽霊として各地を彷徨っていたのだろう。ということは当然、時代の移り変わりも見てきたのであろう。
こういう悲しき幽霊は安らかに除霊してあげなければならないのだが、ここは電車内だ。電車内で大麻を取り出してブンブン振って除霊するのはなんか恥ずかしい。
みんなが見ている中で除霊するの恥ずかしいし目立つし、スマホで動画とか撮られたらめっちゃ恥ずかしい。
それ故に、きさらは見て見ぬふりをする事に決めた。
それにこの幽霊なら悪霊にならないで済むと思うから。
何故かって?この幽霊から悲壮な雰囲気を感じないからである。むしろ科学が発達したこの時代を楽しんでいるように見える。
こういった幽霊は悪霊にはならない。
悪霊というのは恨みつらみをいつまでも忘れずにいる幽霊がなるものだから。
今きさらの目の前にいる幽霊は悪霊ではなく浮遊霊で、各地をふらふらと彷徨っている霊だ。
基本的に悪意が無く、自分が死んだ事にも気付いていないマヌケな幽霊でもあろう。
こういった浮遊霊は悪さはしないが、写真にうっかり写り込んだりして悪意なく人々を騒がせてしまうところがある。
でもきさらの経験上この手の浮遊霊は全然怖くないし危なくないのでご安心を。