3 一人称小説は書いてて楽しい
小説家になろうに投稿して気づいたことを語るエッセイ、今回は一人称の話です。
一人称小説は、主人公が自分のことを語る小説です。あ、主人公とは限らないか。語り手が物語の主役である自分の友人を紹介する小説も、あるかもしれません。
いや、ありました! 超有名な小説が。あの『シャーロックホームズ』がそうです。主人公はホームズですが、語り手は友人であり助手のワトソン博士です。
って、私、ホームズそんなに読んでません。今(2024年2月)調べたら、Amazonの読み放題でたくさん読めるようです。
ホームズみたいに、語り手が主人公ではない小説も、いつか挑戦したいところですが、なかなか思いつきません。
本題に入ります。
日本語の一人称は、私・僕・俺・あたい・拙者・みども・わらわ・余・朕……この辺で勘弁してね。いつか「朕」が主語の小説を書いてみたい…… ダメだ、ド庶民の自分、何も思いつかない。
一方、三人称小説の語り手は、物語に登場しません。全てを知る神のような存在が、物語を進行させます。
私がネットで小説投稿をはじめたのは二年半前ですが、以前から小説的なものに憧れ、誰に読ませるでもなく小説をチョコチョコ書いていました。ただし、ちゃんと完結したことはありません。
前回のエッセイでは一人称の方が書きやすいと申し上げましたが、ネットにアップする前の未完成小説は、三人称が中心でした。壮大な設定に憧れていたので、雰囲気が出る三人称にしたのです。
数年に一度、小説の波がやってきて、勢いに載って書き始めるが、いつも途中で止まります。
三年前、その何度目かの波に載って、またこりもせず小説にトライします。ただしこの時、技量がないのに壮大な設定で書くから物語が完結しないんだ、だから今回は、身近な現代日本が舞台の恋愛小説にしよう、と決意を新たにして取り組みます。
その小説も、以前と同じように三人称で書き始めました。
しかしこの小説の舞台は、壮大な謎の異世界ではなく、現代の田舎町です。また恋愛小説のため主人公の内面描写が多くなり、「Aは思った。Aは考えた。Aは感じた」という文章が続きます。
書いていて煩わしくなりました。
Aは、暑いと思った。
より、
うわ、暑い~!
の方が書いてて楽です。数万字書いたところで、一人称に変えました。
いや~、一人称って、主人公の気持ちになって書けるから、楽しいですね。一気に筆が進みました。
一人称で書くとき、気をつけるポイントがあります。語り手がわからないことは書けません。
自分が運転するとき助手席の人がどれほど気になっても、表情を事細かく描写したら脇見運転になります。声色や視界の隅っこに映る雰囲気を描写するにとどめます。ま、脇見運転するぐらい気になった、というのはありかもしれません。
あと、「彼は思ったみたい」とは書けても、「彼は思った」とは書けません。人の内面なんて分かりませんから。ただ、現実でも他人の考えを断定することはありますので、「彼はそう思ったに違いない」というのはアリですかね。
その辺は気をつけて書いたつもりです。
が、一人称の恋愛小説を書いて、モヤモヤしたことがあります。
一人称恋愛小説だと、主人公の気持ちははっきりしていますが、相手の気持ちがわかりません。見えないゆえのじれったさが恋愛小説の醍醐味です。
でも恋愛小説だから、相手も主人公が好きというニュアンスを表現したいんです。私も、相手役が主人公の元彼に嫉妬するシーンを入れましたが……書きながらモヤモヤしました。
自分の好きな人が、元彼に嫉妬してるんですよ? 彼って私のこと好きなのね♪ ってなりません?
私は、次のように言われただけで「私のこと好きなのかな? てへ♪」と勘違いしました。
●三十代超えて大学の同窓会で、大学時代の片思い相手に再会。「そうか、さんかくさんは、今、一人暮らしなんだ」と三回ぐらい確認された。その時、夫と婚約中じゃなければ、自分、ガッツいてた。
●サークル仲間。どちらも四十代、既婚者。飲み会の帰り、送ってもらった夜道で「私女子力ゼロだし~」とウザイ発言したら、返しが「ひかるちゃん、可愛いと思うけど……ごめん酔ってる。これ以上は、やめとく」
もちろん紳士的に送ってもらいました。家族思いの人なので深い意味はないとわかってるけど……不覚にもドキドキしちゃったっじゃないか!
どーでもいいんですが、社交辞令発動するなら、独身彼氏なしの時にしてほしかったっす……。
話を小説に戻します。
書いた小説では、相手役の彼は上記のような社交辞令ではなく、好きだよアプローチしています。なぜ主人公は相手の気持ちに気がつかないんだよ~って、作者のくせにイライラしました。
主人公の不自然な鈍感力を自然に見せるにはどうしたらいいか、悩み中です。
もう一つ。一人称では、情景描写が難しいです。
三人称ならクールに描写できますが、一人称で三人称のノリで描写すると不自然になります。
最初の難関は、主人公の見た目の描写です。小説の冒頭で、いきなり自分のルックスを語るのって変ですよね?
私は、通勤中、事務所の窓ガラスに映った顔を描写する、という技を使いました。
自分のオリジナルの技ではありません。安部公房『方舟さくら丸』の冒頭に、主人公がビルの壁に映った自分の姿を卑下するシーンがあったので、拝借しました。
また私の主人公は、自分の見た目にコンプレックスを持っています。かつ、実際は中々の美人さんという設定です。一人称で美人設定を伝えるのは難しいです。なので他キャラに主人公のルックスを褒めさせました。が、褒め言葉を聞いても主人公はスルーするので不自然だったかもです。うーん、難しいなあ。
描写でもっと難しいのは、アクションシーンです。主人公が危機に陥っている時に、客観的に相手の動作を描写する余裕なんてありません。「痛え! やめろ! ぐう!」と叫ぶのでいっぱいのはず。このあたりも課題です。
以上、一人称小説について語らせてもらいました。
なお、今回取り上げた恋愛小説は、レーティングの関係で小説家になろうには載せられません。
まだこのエッセイは続くので、お付き合いくださると嬉しいです。
いかがでしたか? 次回はSFについて語ります。お楽しみに。