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それヤンデレではなくストーカーです、もう我慢しないでざまぁするシリーズ

メイドのマリーは10年つきまとわれた彼から本気で逃げ出したい

作者: 有栖 多于佳

美形のヤンデレに執着されるヒロインではありません。


もうほんとにいい加減にしてほしいわ。


はあー・・・

深いため息をこぼしてしまう。


「大丈夫マリー?さっきの人だれ?知り合い?」


「ええ、まあ、そうね。」


「何か親しげだったし、身なりも良さそうだったけど。」


「・・・」


洗濯室でたらいに水を入れつつ、同僚のローズにこれまでの顛末を語った。




私は王都に隣接した伯爵領の王都から離れている反対側の他領に近い小さな町で生まれ育った。


町といっても村に毛が生えた程度のもので、小さな店が数軒立ち並ぶ所が町の繁華街で、

あとは教会と治療院が一件づつあるような、のどかなところだった。


うちは大工の家で、父さんとじいちゃんが町のあちこち、ちょっとした故障箇所とか直してたりとしていた。

ばあちゃんと母さんは小さな畑で野菜を作ったり布を織ったりしてる町では普通なくらいの家。


私は三人兄妹の末っ子で、兄さん達の後をいつもついて回って、町の子達みんな走り回って遊んでたそんな子供時代。


町にある治療院に領都から家族連れが越してきた。


治療師は怪我や病気の治癒魔法で癒す貴重な職種の人で、

治療にはお金が必要になるからあんまり私たちは利用しないけど

大きな事故や災害の時に必要なので、領主様が派遣しているのだった。


そこの子は、私たちと同じ年くらいだったんだけど、丘の上の治療院に併設している邸宅にいて、

町中に降りてくることもなかったし、私たちは付き合いがなかったから顔も見たこともなかった。


十になると教会でシスターが子供達に聖書の読み聞かせをしてくれて、

文字と簡単な計算なんかをおしえてくれるから

兄達とか従姉妹とか、周りの子達とで毎週通った。


秋になるとバザーとかもあるから、みんなでシスターとか神父様のお手伝いをした。


バザーには町長とか町の人からの寄付の品とかもたくさん並べるし、

領都からの行商人とかもやってきてお祭りのようになる。

私たち子供もみんなで教会の寄付品の販売を手伝ったり、

珍しい品を探したりしてとても楽しんだ。


女の子は朝から髪をキレイに結ったり、ちょっと可愛いエプロンをつけたり。

おしゃれして出掛けるの。

うちのばあちゃんはとても髪を結うのが上手で、

私も従姉妹もばあちゃんに結ってもらってご満悦だった。


私が従姉妹と店番をする時に、見かけない一家がやってきた。

治療院の家族だって従姉妹に教えてもらった。


前にそこの奥さんが寄付品をシスターに渡しに来た時いたんだって。

ハットを被った小柄な男の人ときれいなワンピースの女性、

その女性に手をつながれている男の子がいた。

茶色の髪、茶色いちいさい目の顔立ち普通な小さな男の子。

子供ながら仕立てのいい小さな背広を着ていた。


「ねえ、それなに?」


ふいにその子が私に話しかけてきた。

舌足らずなボソボソした口調だった。


「え?どれ?」


私が聞き返すと、


「それだよそれ」


と、突然大きな声で怒鳴られた。


「あの、これは干し杏です。美味しいですよ」


従姉妹が代わりに答えてくれた。


「お前には聞いてない!」


フンッとそっぽを向いた彼を母親が手を引いて連れていった。


「なにあれー、やだねー」


私と従姉妹は顔を見合わせて文句を言った。



その次の教会の日、その男の子が机に向かっていた。


「ええーなんであいついんの?」


従姉妹があからさまに嫌そうな顔をして言うと、離れた席に私と座ることにした。


その子は領都では家庭教師が付いていたようで、

教会で私達が学んでいるようなことはとっくに知っていた。

私達がシスターにならって、聖書を読んだり、聖人の言葉を書く練習をしていると、


「そんなこともできないのか?お前いくつだよ」


と、私たちの席の前まで来るとまたモゴモゴボソボソと言ってきた。


「ほっといてよ、関係ないでしょ?」


従姉妹が口答えをすると、その子は真っ赤になって怒り出し


「お前になんか話してない。黙ってろよ、おいお前、お前に言ってるんだ。お前名はなんという?」


私を見下ろしながら言った。


「エドワード、そんなに声を荒げてなんですか。」


シスターが間に入ってくれて、


「仲良くしましょう。勉強の邪魔になるわ。席にもどりなさい。」


と言って連れていってくれた。


その日から楽しかった教会での勉強が嫌になった。

なぜか毎回やってきて、私に付きまとい、できないところを大きな声で指摘された。


「ほっといて。」


私が本人にそう言っても聞いていないようで、同じことを繰り返す。


兄が怒って


「お前、いい加減にしろよ。マリーが嫌がってるじゃないか!」


と追い払い、シスターも席を離してくれたけれど、今度は勉強が終わって教会を出ると私に付きまとった。


「ねえ、あっちに行ってよ。」


私と従姉妹が言うと、


「自分がどこにいこうがお前に指図される謂れはない!」


って怒鳴られた。


兄も周りの男の子達も


「マリーに付きまとうな」


と言って怒ってくれたけど、止める気配もなかった。


「ほんと変なやつだな、あいつ。」


町の子達はみんなそう言っていた。


教会の日は、勉強が終わるとみんなで全速力で走って帰るようになった。

その子は足が遅いから絶対ついてこれないし。


勉強中はその子にだけ神父様がついて教えるようになって私の席に寄れなくなっていたので、

絡まれることもなくなった。

この作戦が良かったのか、その後その子は教会に来なくなった。


そうするとまた教会に通うのは楽しくなって、その子のことはすっかり忘れていた。


ある教会の日、治療師の奥さんがその子とやってきて神父様に向かって


「うちの息子を不当に扱って、子供たちのイジメを止めないなんて神父にふさわしくない!」


と怒鳴り散らした。


その後うちの家にやってきて、私の両親に向かって


「うちの息子が親切で勉強を教えてあげてるのに、兄弟や従姉妹がうちの子をいじめるとはどういうこと!」


と言ってきた。


私も兄も、なんなら町中の子がその子が嫌みを言ったりバカにしたり、怒鳴ったりすることを

親や周りの大人にずっと言ってたし、私は会いたくなくて教会に通うのも止めようかと相談もしていた。


うちの母さんが、


「何言ってんだい!お宅のその息子が、うちの子にちょっかい出して嫌がらせしてたんだろうが!」


って、怒鳴り返して、


「一昨日来やがれ!」


って、塩をその母親にバサバサかけて追い払ってくれた。


狭い町だからその話はあっという間に広がって、町中の人が


「親が親だから子も子なんだな」


って口々に言うようになった。


治療院は高いお金がかかるから、私たち庶民は町の薬師のばあさんから薬草を買ってたし

もともと治療院とは接点もなかったので、町の人たちは更に遠巻きになった。


私は十二になると町の理髪店で見習いをすることになった。


ばあちゃんみたく上手に髪結いができるように。

実はばあちゃんは若い頃領都の大きな商屋でメイドをしていたことがあり、

その時髪結いを教わったらしい。


私もメイドとしてお屋敷に勤めてみたかったけど、その時は一人で町を出ることが決めれなくて

一軒だけの理髪店で手習いすることになった。

店主夫妻はうちの両親の仲の良い友人だし、年の近い子供もみんな友達だったから楽しく勤め始めた。


見習いの仕事なんて、手拭いの洗濯や店の掃除、たまに一番下の赤ん坊の面倒なんかだったけど

いつかは髪を切ったり、結婚式の花嫁の髪を結えるようになったりしたいなと夢見ていた。


ところが、そこにあの治療師の息子エドワードがやって来た。


エドワードはそれまで髪を切るのは自宅に雇っているメイドにさせていたはずなのに、

私が働くようになると足繁く通って来るようになった。


私は見習いだからできないと断っても、私を指名してくる。

しょうがないから肩に手拭いをかけたり、切った髪を払ったり、髭剃り用の泡を塗ったり拭ったり。


また楽しい毎日が苦痛になった。

前と違って今度はお客様だし、三日に一度は訪ねてくる常連になっていて無下にもできず


「お客だお客」


と唱えて、我慢した。


そうすると、お昼を誘ってきたり、店が終わるころ待ち伏せしたりして家まで送るとしつこく言ってくるようになった。


毎回理由をつけて断っていたけど、勝手に一緒に横を歩いて一人でなんか話していた。

町の人に見られるのも嫌だし、また走って逃げた。

家の近くに来ると、母さんが怖いのかいつのまにかいなくなるので、ホッと胸を撫で下ろした。


翌年やっとその治療師一家が領都に帰ることになったらしいと、理髪店のおかみさんから聞いた時は嬉しくて泣いてしまった。


エドワードは領都の優秀な学校に通うことになったとか。

その情報は全く要らない情報だなと、もう関わりたくないと心から思った。


町を出る数日前、治療師の親がエドワードと共に町長を連れて家にやってきた。


私との婚約の打診だった。


晴天の霹靂、とんでもないと震えた。


父さんも母さんもエドワードが私目当てで理髪店に通ってることを知っていたから、

変な目に会わないように店主夫妻にも言っていたし、兄達や従姉妹も目を光らせてくれていた。


町長は


「よかったな。マリーは見目が良いから大した玉の輿だぞ」


と大袈裟に言った。


「家としても本人がどうしてもと望むので、君で異論はない。もちろん結婚は息子の卒業後になるが。なんなら今回一緒に領都に来ても良い」


とその治療師の父親が非常識なことを言い出した。


「止めてください!お断りします。なんでそんな話になっているのですか?」


私は大きな声でハッキリと言った。


「お前こそ何を言ってるんだ、お互い昔から好きあっているのだろう?」


町長が言う声に被せて


「そんな事実はない」


父さんが怒鳴って言った。


「では、なぜ三日に一度も理髪店に通い、その娘に何かと心付けを渡していたのは、

阿波ズレ娘がうちの息子の心をもて遊んでいたのか!」


その父親も負けじと怒鳴る。


「三日に一度来たのはそちらの息子さんの都合でしょ?うちの子は心付けなんてもらってないよ、ね」


母さんが言い返した。


「もらってません。一度店でブローチを渡されたけど、もらえないと返しました。店主夫妻に聞いてもらっても良いわ」


私はしっかりハッキリきっぱりと言った。


「え?え?どういうことだ?あのたくさんの買い物代金はどうしたのだ?」


父親に責められて、ヤツはボソボソ自己弁護を言い出した。


どうやら私にいずれ渡すためと、ドレスや靴やアクセサリーを買っては家に貯めているらしい。

どうせ婚約したら使うんだからと。


「婚約しないわ!私はあなたのことが昔から嫌いだったのよ。もういい加減にして。」


「そうだ、そうだ。昔からうちの娘にちょっかいをかけて、嫌がらせして。婚約なんてさせるわけない。」


聞いていた話と違うと町長が目を白黒させながら治療師と息子を連れて帰った。


理髪店の店主夫妻からも話を聞いた町長が間に入ってくれて、しっかりと婚約を断ってくれた。


「ごめんなマリー。治療師の息子がずいぶんお前と仲が深まっていると言って来ていたんだよ。」


町長は、子供の頃は好きな子にイジワルしてしまう男心で仲違いしていたが、和解して付き合うようになったと思ったとか。


そんな事実は一つもないのだけれど、彼が語る話からそう思ってしまったらしい。

婚約の仲介を治療師の親からも頼まれたので、町を離れる前に婚約するのかと思ってやって来たらしい。


それは、治療師の父親も同じ意見だったそうだ。


毎回走って逃げる私を見てどうしてそんな妄想ができるのかとても不思議で怖かった。


その一家が町を出ていく日、町中に紙が貼られていた。


そこには、町の理髪店で一年間で50万ゴールドも払わされた、ぼったくられたと暴言が書かれていた。


「こりゃ、あの治療院のバカ息子の仕業だな」


町の人々は口々に言うとその紙を丸めて鼻かんで捨てた。


この町で高価な紙を何十枚もこんな馬鹿げたことに使うのはアレしかいないと皆わかっていて、呆れていた。


金額だってオーバーに言われてるし、勝手に店に来ていたのに、私のせいで誹謗中傷をうけちゃった理髪店の店主夫妻に謝ったけど、


「マリーが謝ることない。マリーこそ迷惑かけられた被害者だよ。」


と、私の不憫を嘆いてくれた。


店で一通りの業務ができるようになった頃、おかみさんの伝で王都にある貴族様のお屋敷にメイド見習いとしてお勤めすることになった。

まだ下女としての仕事しかしてないが、理髪店で勤めていたことでお屋敷の使用人の髪を切ったりと技術を認めてもらっているところである。


近々お屋敷でパーティーがあるとかで、人の出入りが激しくなっていた。


そんな中にアレ!あの、アレが、あのエドワードが!やって来たのだ。


「やあ、マリー。相変わらず可愛いね。」


突然手を捕まれ、引っ張られるとそこにあの面影のままのアレが居た。

背は私より低く小太りになっていたけど。

フォルム変化では変えられない気持ち悪いオーラがそのままだった。


ナンデ?アンタガココニイル?


急いで手を振り払い嫌そうに顔を背ける。


「今、王都の大商店に勤めているんだよ。今度店においでよ、マリーならサービスするよ。」


あの嫌らしいボソボソネッチョリしたあの声に鳥肌が立つ。


「仕事中だから。」


と、私はテーブルクロスを胸に抱いて、洗濯室に急いで走って逃げた。


もうアレを見たら走って逃げるのが定番だな。

というか、なぜ王都の商店で働いている?

治療師になるために領都の学校に居るはずじゃ?

やだ、怖い。

王都には父さんもかあさんも兄ちゃんも居ない。


洗濯室で震えて泣いている私に同僚のローズが声をかけてくれたのである。



これまでの顛末を聞き、思っていた以上にひどい様子に、


「そういうの、ストーカーって言うんだよ。妄想で殺傷沙汰とかになることもあるとか。」


ローズが怖いことを言ってくる。


「もうどうしたらいいか。怖い。町に帰るにしても、道すがらが怖いよ。」


「任せといて。力になるよ。私に考えがあるから」


ローズは自信満々に胸を張っていた。



その後、パーティーが催されたがアレに会うことはなかった。

その後もこのお屋敷にアレが来ることもなかったので、随分経ってからどうしたのかとローズに尋ねた。


「簡単よ、その大商会はここの旦那様の持ち物なのよ。だから侍女長にマリーの話をしたのよ、ストーカーが狙ってるって。

そしたら商会に問い合わせてくれて、まだ見習いだったらしいのよ。

アレの親に頼まれて置いたけどオーナーの屋敷のメイドに付きまとうとか見過ごせないって理由でクビになったのよ。」


へ!そうだったんだ。


「マリーにはしっかりと仕事を覚えてもらって、行く行くはお嬢様の髪を結ってもらいたいって。

その技術を見込んで来てもらったんだって侍女長も奥さまも言ってたわよ!。」


嬉しい。これからも頑張って働こう。


「ローズありがとう。」


私は心からの感謝を述べた。


後日、ローズがメイドネットワークを駆使して情報を入手してくれたことによると、

アレは領都の学校でも癇癪を起こしては授業の邪魔をするので退学になった。


私が王都に働きに出たことなぜか知って、王都に出てくることを模索。

親の伝で大商会に見習いとして預けられたがそこもクビになり、そのことを逆恨みして、

商会の誹謗中傷をし、得意の嘘でっち上げビラを撒きまくったらしい。


オーナーは貴族の旦那様なのだから、貴族に対する不敬罪ですぐ捕まったとのこと。

裕福と言っても所詮平民の世界だものね、親もどうにもできないらしい。



10年の恐怖の日々が終わったことに本当に晴れ晴れとした気分を味わえた。


どうぞ二度と関わらないでください。

大嫌いだよ、バーーーーーーカ!



<完>


お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


いいねなどいただけますと励みになります。


よろしければお願いいたします。

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[一言] マリーの悩みがざまぁされて、すっきりしました。
2024/04/18 02:35 退会済み
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