プロローグ
政府の出した統計によると、十八歳以下の子供の自殺率は年間五百人を超えるそうだ。
単純に計算すると一日に約一人と半分が好き好んで呼吸する権利を手放している事実が確かにそこにある。
…いや、好き好んでいるわけではないか。
生物である以上。
洞結節から房室結節へ、ヒス束からプルキンエ線維へ。
心臓の鼓動が、一定のリズムで刻まれる以上。
「死にたい。」なんて言葉はそう易々と口に出来るわけがない。
それはきっと生物である…異常。
もし本気で死にたいと、命を絶ちたいというのなら。
少し立ち止まって考えてみて欲しい。
母親から生まれて、この世界を一目見た瞬間に
「よし、死のう!」
とはならないだろう。というか、なってたまるか。
その思いは、君の物じゃない。
何かしらの外的要因によって植え付けられた、後天的なモノだ。
ハリガネムシに寄生されたカマキリが入水するように。
ロイコクロリディウムに寄生されて点滴に身をさらすカタツムリのように。
きっと死にたい人間は、何かに寄生されているのだろう。
それは家族か友人か。はたまた金かプライドか。
なぁ、聞かせてくれ。
これからの一年で命を落とす予定の、五百人の君たちは。
規制されて、使い潰される君たちは。
本当に、死にたいのだろうか。