またあなたとこんにちは
「こんにちは!」
私の体を小さな手が持ち上げる。
目の前にはにこにこと眩しい笑顔を向けてくる水色のワンピースを着た女の子。
そのキラキラした目には私が映っている。薄水色のふわふわした体毛に覆われた子供が握るのにちょうど良さそうなサイズのぬいぐるみ。けどその目つきや顔立ちは自分で見てもお世辞にも可愛いとはいえないうさぎのぬいぐるみ。それが私だ。
「おばあちゃんこれ買って!」
女の子は近くに居た「おばあちゃん」に声をかける。
声を掛けられたおばあちゃんは私を眺め少し複雑そうな表情を浮かべた。
「もう少し、可愛いのもあったんじゃないのかい?」
そう。よく聞く話。
子供から見たら可愛いのかもしれないが大人、買ってくれる側から見ると多分あまりウケない見た目をしている。
正直このまま売れ残るのは避けたいところだけど……
おばあちゃんの返答を聞いて女の子はムッとした表情をした。
「充分可愛いよ!? おばあちゃんの好みじゃないだけじゃない!」
「でもねぇ……」と複雑そうな表情を見せるおばあちゃん。
「あ、そうだ。あれ買ってあげるわ。マジカルなんたらってやつ!」
「いや!どうしてもこれがいいの!」
「しょうがないねぇ…」
女の子の訴えが通り私は女の子のぬいぐるみになった。
おままごとの相方役になったりミルクのおもちゃを口に押し付けられたり抱っこされたり、首に紐をつけられて引きずられたり……とても大切? に遊ばれていた。なんだかんだでとても楽しくて幸せだった。
でも女の子が遊ぶ歳じゃ無くなった後真っ暗な押し入れにしまわれていた。
今日は遊んでくれるかな? 明日かな? そんな期待も数日、1週間と経つと薄れていき、ああ…飽きて捨てられたのか……と諦めが過ぎった。
時間の感覚ももうなくこのままゴミに埋もれて最後は棄てられて燃やされるんだろうな……
そう思っていたある日。汚くなった体を小さな手が持ち上げた。もう埃やら何やらにまみれ、辺りの様子はよく分からない。
突然お湯に付けられ何かヌルヌルしたものをかけられたかと思うと全身を揉みほぐされた。……な、なんだ? 何をされてる??
埃が取り除かれ数年振り? 数十年振り? に周りを見られた。 目の前にはあの女の子によく似た大人の女の人。
隣にはあの女の子に似た女の子が笑っていた。
「いきなり押し入れから持ってきたから何かと思ったわ」
「なんかね? うさぎさんが泣いてるような気がしてね? ほら、綺麗になったら喜んでるみたい!
うさぎさん! こんにちは! これからよろしくね!!」
あなたと二度目のこんにちは。記憶より大人になったあの子とあの子によく似た女の子が昔と同じように笑った。