姉と同じ学園に通えるとワクワクしていたら、学園でお姉ちゃんが悪役令嬢になっていた件について
突然ですが、私アマリエ・ベルクールには、一つ上の姉がおります。
姉の名前は、リリアーナ・ベルクール。
身内びいきになってしまいますが、頭は良く、運動神経も抜群で、まさに才色兼備という言葉がぴったりな自慢の姉です。
そんな姉が、国の指定する学園へと入学することが決まった時は、寂しさのあまりに泣き崩れてしまいました。
でも、そんな私にも幸運の女神様が微笑んでくれたのか、私も姉と同じ学園へ通うことになったのです!
このチャンスを逃すまいと、私は日々勉学に励みました。
その結果、姉と同じく首席として合格することができました!
これで、お姉ちゃんとまた一緒にいられますね!
「おーっほっほっほ! 淑女たる者が、尻もちをついてはしたないですわね!」
そう思っていた時期がありました……。
「貴女ってば、本当に目障りなんですのよ? 珍しい魔力をお持ちの方は、品性まで変わっているのかしら?」
お、お姉ちゃんんんーーー!!
少し会わない間に、なんで悪役令嬢になってるんですか!?
しかもなんかちょっと口調変わってません!?
学園デビューでも果たしてしまったのですか!!
いや、そんなことよりも、まずはこの状況をどうにかしないと!
私は急いで駆け付けると、転んでしまった女性に手を貸します。
「だ、大丈夫ですか!? 立てますか!?」
私がそう聞くと、その女性は差し出した私の手を取り立ち上がりました。
そして、私が彼女の服についた埃を払っていると、姉が私に気づき、こう言います。
「あら! アマリエ! 先程の新入生宣誓では立派でしたわね!!」
そう言って私に笑いかけてくれる姉の笑顔は天使そのもの……ではなくてですね!?
何してるんですか、お姉ちゃん!?
なんでそんなに悪そうな笑みを浮かべてるんですか!?
「あ、ありがとうございます……」
とりあえずお礼を言っておきますが、一体どうしたのでしょうか?
まさかとは思いますが、私のいない間で悪い虫がついたとかじゃないですよね?
もしそうだったら許せませんよ!?
そんなことを思いながら辺りを見渡すと、周りの生徒たちの視線が私達に集中していました。
まるで、私とお姉ちゃんの一挙手一投足に注目しているかのようです。
「騒がしくなってきましたわね。アマリエ、わたくしは先に戻ります。後でゆっくりとお話しましょうね」
そう言うと、姉は私の返事を待たずに歩いて行ってしまいました。
それにしても、なんだか嫌な予感がします……。
「あ、あの……っ!」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこには先程まで姉に絡まれていた女性が立っていました。
「先ほどは、ありがとうございました!」
「いえいえ! 当然のことをしたまでですよ! それよりも大丈夫でしたか……?」
すると彼女は、少し不安げに答えます。
「え、ええ、まあ……」
そういえばまだ名乗っていませんでしたね。
このままでは失礼ですし、せっかくですから今のうちに自己紹介をしておきましょう。
「申し遅れました。私はアマリエ・ベルクールと申します。貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「わ、わたしは、ルミエール・サナタリーです。よろしくお願いします。」
ふむ、やはり聞いたことのない名前ですね。
しかし、随分と綺麗なお顔立ちをしていますね。
それにどこか気品があるような気がしますし……。
はっ! もしやとってもエライ貴族様だったりしませんよね!?
「ルミエールさんですか。いいお名前ですね。ところで、ルミエールさんはどこのご出身なんですか?」
私がそう尋ねると、ルミエールさんが何かを思い出したかのようにハッとしました。
「そ、そうです! わたし、先生に呼ばれているんでした! それでは失礼します!」
ルミエールさんは慌ててお辞儀をすると、校舎の方へと走って行きました。
……って待ってください!?
そんな大事なこと、なんで今思い出したんですか!?
露骨に避けられてるじゃないですか!!
お姉ちゃん、私の知らない間に、一体何をやらかしたんです!?
『今の見られましたか? 姉妹揃って……』
周囲にいる人達から聞こえるヒソヒソ話し。
違いますよ!! 誤解です!! 私、何もやってないですからーーー!!
その後、入学式が終わり、私は頭を抱えながら机に突っ伏していると、声を掛けられました。
「おや? アマリエ嬢は朝からお疲れの様子かな?」
顔を上げてみると、そこにいたのは次席入学者のクライヴ・アルタイルでした。
美少年で成績優秀で家柄も良い。
まさに完璧超人という言葉が似合う彼は、女子からの熱い視線を集めており、既にファンクラブが存在するほど。
それだけでなく、男子からも憧れの存在となっているのです。
ですが、そんな彼が私に声をかけた理由、それはおそらく……。
「クライヴさんも、もしかしてお姉ちゃんが絡んで来たのでしょうか?」
私がそう問いかけると、彼も同じように溜め息をついていました。
「出会って早々、『アマリエに取りつく悪い虫ね』と言われてしまってね。妹想いの良いお姉さんだね」
「あはは……クライヴさんにも迷惑を掛けてしまって申し訳ありません。」
私がそう言って頭を下げると、クライヴさんは笑いながら首を横に振りました。
「いやいや、気にしないでくれ。むしろ、僕としては間違いとも言えないからね」
「そうですか……? それなら良かったです」
彼が何を言っているのかよくわかりませんでしたが、ひとまず納得してくれたようで安心しました。
「しかし、噂は本当だったんだね。君はリリアーナ・ベルクールの妹さんなのか。通りで美しいわけだ」
「えっ!?」
突然のことに驚いてしまい、つい変な声が出てしまいました。
「ん? どうしたんだい、アマリエ嬢。顔が赤いけど、大丈夫かな?」
「な、なんでもありません! 大丈夫です! お気遣いありがとうございます!」
そう言って誤魔化しましたが、心臓の鼓動が早くなっているのがわかります。
うぅ……、やっぱり男性には、まだ慣れないです……。
「そっか。ならいいんだけど。じゃあ、僕はこれで失礼するよ。また会おう」
「はい、ではまた」
そう言って、クライヴさんは教室を出ていきました。
はぁ、これからどうなることやら……。
そんなことを考えながら、私は窓の外を眺めます。
花弁が舞い散る春の季節。
私は、ここ王立魔法学園の生徒となるのです。
そして、これからは姉と一緒に学園へ通えると思い、期待に胸を膨らませていましたのですが……。
「お姉ちゃん、一体どうしちゃったんだろう……」
とても優しくて、美しくて、私の自慢のお姉ちゃんだったのに。
突然、変わってしまった姉。
私はその理由を知るために、聞き込み調査を行う事にしました。
『リリアーナ様についてですか?そうですね、あの方は、学園の為に尽力されている方ですわ』
『生徒会や教師の方々ともよく話し合っておられるので、生徒思いの方ですの』
『誰にでも分け隔てない態度で接してくださるところも素晴らしいと思います』
あ、あれ……?
思っていた反応と違いますね……。
もっとこう、お姉ちゃんの悪口を言う人はいないのですかね?
『リリアーナ様は、常に学園のことを考えて行動されています。だから、私たちも安心して学園生活を送れるんです!』
『あの方のお陰で、この学園は成り立っていると言っても過言ではありません。尊敬致しますわ』
『よく屋上で高笑いをされておりますの。今では時刻を知らせる鐘の代わりになっていますわね。わたくしも一度拝見させていただきましたが、本当に楽しそうでしたもの』
……おかしい。
絶対に何かが間違っています。
姉はトンデモナイ悪党で、学園に悪名轟かせているはずなのです。
それなのに、どうしてこんなに皆さんから慕われているのでしょうか?
これではまるで、学園の人気者ではありませんか!
「お姉ちゃんの裏切り者ー!!」
私は思わず学園の屋上からそう叫んでしまいました。
こうなったら仕方ありません。
姉の婚約者に、伺うしかありません。
あの人ならばきっと、姉が悪役令嬢であることに気付いてくれるはずです!
そう思った私は早速、放課後に生徒会室へと向かいました。
「すみません! レックス様に用があって来ました! いらっしゃいますか!?」
婚約者の名前は、レックス・ギルモア。
この国の第二王子である彼と姉は、幼い頃から婚約を結んでおり、いずれ結婚する間柄です。
そんな彼の人柄については、私も知っています。
真面目で誠実な方でありますし、姉を任せられるのは彼しかいないと思うのです!
しばらく待っていると、扉が開き、中から一人の男性が姿を現しました。
「おや? アマリエじゃないか。僕に用事かい?」
「こんにちは! 突然訪ねてしまって申し訳ございません。実は、お聞きしたいことがあって参りました。お時間はよろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だよ。立ち話もなんだから、中へどうぞ」
「ありがとうございます!」
彼に促され、室内へ足を踏み入れると、そこは綺麗に整頓された部屋でした。
「すまないね。散らかっていて。少し待っててくれるかな?お茶を淹れてくるよ」
「いえ、お構いなく!」
そう言って、部屋の奥へと消えて行く彼を見送りつつ、辺りを見渡していると、机の上にあるものが目に留まります。
あれは確か、お姉ちゃんが持っていた本ですね。
手に取って見てみると、表紙に描かれていたのは、二人の女性。
どうやら恋愛小説のようでした。
(へぇ~、こういうの読むんですね。意外かも)
そう思いながらページをめくっていると、お茶を持ったレックス様が戻ってきました。
「待たせてごめんね」
「いえいえ! こちらこそ急に押しかけてしまい、申し訳ありませんでした」
私がそう謝ると、彼は笑顔で答えました。
「気にしなくていいさ。それより、聞きたい事というのは、なんだい?」
「あ、そうでした! あのですね……」
私は真剣そうな面持ちで尋ねました。
「お姉ちゃんってトンデモナイ悪者ですよね!?」
すると、彼はキョトンとした顔でこう答えました。
「うん? それはどういう意味だい?」
あれ? 違うのかな?
「あ、えっと、その、ですね。入学して早々に、お姉ちゃんが女性に対して酷い仕打ちをしているところを見かけてしまいまして……」
「ああ、なるほど。それで、リリアーナが悪い子になってないか心配になったというわけか」
「ええ、その通りです!」
私がそう言うと、彼は納得したように頷きます。
「私の知っているお姉ちゃんとは全然違うもので、なんだか別人みたいに思えてきて……はっ! このままだとレックス様との婚約も破棄されてしまうのでは!?」
「んーそれはありえないかな」
そう言いながら、彼は紅茶に口をつけます。
「こうみえて、僕は彼女に心底惚れているんだ。たとえどんなことがあっても、彼女を手放すつもりはないよ。仮にリリアーナが歩む道を外しかけたら、僕が止める。それが僕の役目だからね」
レックス様の言葉を聞いて、私はホッと胸を撫で下ろします。
よかったぁ。
でも、そうなると、姉はなぜあんな行動をしているのでしょう?
何か理由があるんでしょうか?
私は思い切って聞いてみることにしました。
すると、彼は少し考え込んだ後、口を開きました。
「もし、気になるのであれば、本人たちに直接聞いてみたらどうだい?」
「え?」
思わぬ提案に驚きました。
「いや、確かにその通りなんですけど、どうやって聞けばいいのかわからないというか……」
「シンプルに直接会って話せばいいじゃないか?」
「そっ、そんな!本人の目の前で『貴女は私の姉から嫌がらせをされてますよね!?』なんて聞けるわけ無いじゃないですか!!」
「でも、聞かなければわからないだろう?」
「うっ、それはそうですけど……」
「大丈夫。悪い方向に話が行かないことは、僕が保証するよ」
そう言われてしまうと反論できない自分が悲しいです……。
まぁ、たしかにこのまま悩んでいても埒はあかないですし……。
それに、本人に直接聞くことが一番手っとり早い方法ですからね。
ここは勇気を出して聞いてみましょう!
「わかりました! ありがとうございます! レックス様!」
そう言ってお礼を言うと、彼も満足そうな表情を見せていました。
それからしばらくして、私は幾度となく姉と会い、あの出来事について問いかけようとしたのですが……。
(お姉ちゃんが、いままでどおり過ぎて逆に怖いです!!)
何でしょうか!?
あのような出来事があったにも関わらず、普通に接してくるんですよ!?
私を気遣って優しい言葉まで掛けてくれましたし……。
モヤモヤを抱えたまま、私は屋上で一人黄昏ていました。
「ぐぬぬぅ~! 一体どうすれば良いのでしょうか!?」
頭を抱えながら唸っていると、誰かが近づいて来る気配を感じ取りました。
誰でしょう? そう思い顔を上げると、そこには意外な人物の姿がありました。
「やぁ、アマリエ嬢。奇遇だね」
なんと、現れたのはクライヴさんでした。
クライヴさんは、私が姉のことで悩んでいることを知っている数少ない人間の一人であり、相談に乗ってもらっています。
「クライヴさんも休憩ですか?」
「あぁ、そんなところだよ。そっちはどう? 解決出来たかい?」
「全然ダメでした……」
私がそう答えると、クライヴさんは苦笑いを浮かべました。
「そうか。やっぱり難しい問題みたいだね」
「はい。お姉ちゃんの行動原理が全くわからなくて……」
もうお手上げです。
一体、姉はどうしてしまったのでしょうか?
私が頭を悩ませていると、クライヴさんは何かを見つけたかのように笑みを浮かべながら呟きました。
「おや、噂をすれば影だね」
「ん? どういうことですか? ……あっ」
ふと視線を上げると、お姉ちゃんが校舎から出て裏手に歩いて行くことに気づきます。
その後ろには……ルミエールさんの姿も!
これはもしかしてチャンスなのでは?
「じゃあ、あとは頑張ってね」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください! 私まだ心の準備が整ってないんですけど!」
「大丈夫、大丈夫。アマリエ嬢なら出来るよ。それじゃあ!」
そう言って、そそくさと立ち去ろうとする彼の腕を掴んで引き留めます!
ここで逃がしてなるものか! という強い意志を込めて見つめ続けます。
「はぁ……わかったよ……。少しだけなら」
よし! なんとか引き止めることに成功しましたね!
それでは早速行きましょう!
覚悟を決めた私は、クライヴさんと共に二人の元へ駆け寄って行きました。
「お、お姉ちゃん! それ以上はダメぇぇぇ!!」
私は大声で叫びながら走り出し、姉の前に立ち塞がりました。
「あら、アマリエ。どうされましたの? そんなに慌てて……」
突然の行動に驚いたのか、姉は少し困惑気味な表情を浮かべています。
「何のお話かしら? ルミエール、貴女には妹の行動がわかるのかしら?」
「あはは……なんとなく予想はつきますね……」
「流石は、わたくしの親友ですわね!」
二人は何やら楽しそうに会話をしています。
「そんなことより! お姉ちゃん! 私の質問に答えてください!!」
私は強引に割り込むと、本題を切り出します。
「お姉ちゃんが極悪非道のワルに成り下がってしまったのは何故ですか? どうして、あんな他人を傷つけるようなことをしていたのですか?」
私の質問を聞いた姉とルミエールさんが顔を見合わせると、小さくため息をつきました。
そして、先に口を開いたのはお姉ちゃんの方でした。
「……やはり、バレてしまいましたか」
「リリアーナ様? よろしいので?」
「構いませんわ」
ルミエールさんがそう言った直後、姉の纏う雰囲気がガラリと変わります。
先程まで浮かべていた笑みは消え去り、真剣な眼差しが私に向けられます。
「アマリエ、これからわたくしが伝えることは決して他言しないようにお願いしますわ」
「わ、わかった!」
「そちらにいらっしゃる殿方も、よろしくて?」
姉にそう言われたクライヴさんが頷きます。
それを見た姉は、ゆっくりと語り始めます。
「……実は、ルミエールに無理を申して、わたくしの我儘に付き合ってもらっていたのです」
「それって、どういう……?」
「わたくしの婚約者が、レックス様なのはご存知ですわよね?」
私は頷きます。
「そのレックス様なのですが……わたくしに対して……とても恥ずかしくなる行為をしてくるのですわ!!」
私は思わず目を見開きました!
まさか、そんなことをされていただなんて!
クライヴさんも驚いているのか、目を見開いて固まってしまっていました。
「わたくし一人では、心の内に秘めておけなくなってしまいまして、親友のルミエールに共感して頂きたかったのです……」
そう言うと、姉は顔を俯かせてしまいます。
私はかける言葉が見つからず、ただ立ち尽くすことしか出来ませんでした。
「あ、あの、お姉ちゃん。一体どういう事をレックス様からされたのですか?」
「……丁度良いでしょう。そちらの殿方、お名前は?」
「え? 僕は、クライヴ・アルタイルで御座います」
突然名前を聞かれたからか、困惑した様子でしたが、すぐに名乗ると、彼女は満足そうに微笑みます。
「ありがとうございます。では改めてご挨拶を。わたくしはアマリエの姉のリリアーナと申します。以後お見知りおきくださいませ」
「こここ、こちらこそよろしくお願いします!」
「うふふ。緊張なさらなくても大丈夫ですわよ? それと、アマリエの事なのですが、少々勘違いをしているようなので、誤解を解く為にもお手伝いを願いたいのですが、よろしくて?」
「僕でよければ」
「では改めまして……アマリエ、そちらの壁に背中を合わせなさい」
そう指示され、素直に従うと、姉はそっと耳打ちをしてきました。
『今から行う事は、誰にも言ってはなりませんよ』と。
「クライヴ、アマリエの前にお立ちになられて下さい」
そう促されて、彼は戸惑いながらも従い、私と向かい合う形になります。
目と目が合うと、私達は少し照れてしまう。
「一体何をするつもりなの?」
私がそう問いかけると、姉はニコリと笑って答えました。
「アマリエには、私がレックス様にされた恥ずかしい事を経験して頂きますわよ!」
(こ、この状態で何をするつもりですか!?)
いや、きっとロクでもない事に違いないはず!
そう思った次の瞬間!
姉がとんでもないことを言い出しました!!
「さぁ、クライヴ。覚悟は宜しくって?」
「え? それは一体……」
「問答無用!」
「うおっ!?」
突如、姉はクライヴさんの背中を押す。
バランスを崩した彼は、そのままこちらへ向かい、壁へ激突する直前に腕を伸ばして私との衝突を避けてくれたのですが……。
「ク、クライヴさん……」
お顔が近すぎます!!
いえ、別に嫌というわけではないのですが、心の準備が出来ていないといいますか……その……とにかく近いですぅ!!
私は心の中で絶叫しながら、両手で顔を覆ってしまいました。
「さぁクライヴ! アマリエの指をどかして、顎をクイッと持ち上げるのよ!!」
「り、了解しました」
「ふぇっ!?」
お姉ちゃんの指示に驚くクライヴさん。
そんな私に構わず、彼は私の顎に手を当てると、クイッっと上に向かせてきます。
「ひゃっ! ク、クライヴさん! いきなり何をするんですかぁ!!」
心臓がバクバクいっていて、今にも爆発してしまいそうです!
目の前には美形の顔があって、さらにドキドキしちゃいます!
「す、すまない……」
クライヴさんは申し訳なさそうに手を離しますが、私の顔はまだ真っ赤なままです。
「ふぅ~。これで一件落着ですわね」
「どこがですか!? 全然解決していないですよ! お姉ちゃん!!」
「アマリエ、彼にしてもらった時の、素直な気持ちを言ってごらんなさい」
「え、あ、うぅ……心臓が破裂するかと思うぐらい、ドキドキしました……」
「こういった行為を殿方からされたなんて、誰かに告げられるかしら?」
「む、無理ですぅ……」
恥ずかしさのあまり、涙声になりながら答えたら、姉は小さく笑いました。
「わたくしも、最初は余りにも唐突で恥ずかしさで悶えていたのですわ。その内、一人で抱えきれなくなった時、ルミエールに相談したんですのよ? そしたら、彼女も似たような体験をしていたらしくて、二人で乗り越えることが出来たのですわ」
「なるほど。だから先程、僕にも協力するように仰ったんですね」
「えぇ。恥ずかしがっている場合ではないと思いましたので」
その言葉を聞いて、私はホッと胸を撫で下ろしました。姉が残虐非道のカリスマになった訳ではなかったのですから。
「ですが、まだ疑問は残っています! ルミエールさんに対して暴言を吐いていたアレは、なんだったのですか? 私には、全く理解が出来ません!」
「それについては、私から説明させて頂くわね」
ルミエールさんはそう言って一歩前に出ると、お姉ちゃんと目配せをした。
「私が呼んでいた恋愛小説に登場する女性に、相手の事が好きなんだけれど素直に慣れないって子がいるのだけれど、その子に感情移入してしまってね……」
確かに、私もそういった類の作品は大好きです。
「リリアーナがその子によく似ていて、愚痴を聞かされた代わりに演じてもらっていたの。そうしたら妹の貴女が現れて、本当に物語みたいなんて思いはしゃいでしまったのよ」
「そういうことでしたか……」
つまり、その物語のヒロインに見立てて楽しんでいたのだと……。
はあぁぁぁ……よかった。
姉は何も変わってなどいなかったのだ。もう心配する必要なんてない! そう思うと自然と頬が緩んでしまう。
「誤解が解けてなによりだわ、アマリエ」
「うん! お姉ちゃんは、やっぱり私の知ってるお姉ちゃんだったよ!」
「ふふっ。ありがとう」
私達姉妹はお互いに抱きしめ合い、愛情を確かめ合った……のだが。
「お、お姉ちゃん? 苦しいよ?」
「ふふふっ。アマリエ、先程お姉ちゃんに対して何て言っていたか、覚えていますわよね?」
そう言いながら、私の体を締め付けてくる! 痛い! とっても痛いよ!
「お、お姉ちゃん! ギブアップ! ギブアーーーップ!!」
「あらあら、悪役令嬢とか、ワルの中のワルとか言っていませんでしたか?」
「わ、忘れて! お願い!!」
もうこれ以上締め上げられたら、私死んじゃうからぁー!
クライヴさんとルミエールさんは、その姿を微笑ましく見守っています。
「も、もうダメ! んぎゃあぁぁぁぁ!!」
私の叫び声と共に、学園の鐘が鳴り始め、それは名物として語り継がれていくのは、また別の機会に。
悪い虫がレックス様ご本人だと分かったので、今度お会いしたら徹底的に抗議してやるんだから!!