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#1

「動画撮影?」


あまりに馬鹿馬鹿しすぎて私の聞き間違いじゃあないかと思った。

聞き返そうと思ったが私の目の前に居る、「サイトー」は私が発した言葉にかぶせるかのごとく、自分の素晴らしい"作戦"に対する解説を始めた。

「LINEで会話してるだけじゃあ、ツツモタセだとか、出会い系のネカマだとか思われても仕方ないじゃない。ここは一発!アンタの姿を撮って見せるのが一番手っ取り早いわよ!」

上から下まで真っ黒で、魔女のような特徴的なハットをかぶったその姿とはギャップを感じさせる、わきあいあいとした表情ではしゃぐサイトー。

サイトーは男性のトランスジェンダーであり、かなりの筋肉質だ。

そんなムキムキの彼がガッツポーズをとりながら

薄緑のパーカーにジーパン、くせ毛もしゃもしゃである、だらしない格好とも取れる姿の私に力説してくるその姿は

さながら不良少女(少女というのは語弊があるが)を指導する熱血体育教師とでも言うべきか(服装がアレだが)。

「じゃあ、私がアンタの大好きなタナカくんに今のあんたの姿、写真で見せたらどうする?」

「しばく。」

「こわ。」

にへらと笑いあいながら私達は顔を見合せた。

私達はとても仲のよい友人関係にある。

互いが互いに自分達の障壁を理解している。唯一無味の親友なのだ。

だからこそサイトーが真面目に私の相談に乗ってくれていることがよくわかる。

「でも今のままじゃあ、破局不可避じゃないの。」

「……他にいい案があるハズよ。」

「どんな?」

「あーー思い付かない!」

私は髪をくしゃくしゃとかきむしった。

元々くせっ毛な髪型がもりあがり、収拾付かないほどのくしゃくしゃ頭へと変貌をとげる。

たれさがったくしゃくしゃ前髪を手でざっと後ろにやると、

私は机の隅に置かれていたタバスコに手をやり、それを手前に置かれたナポリタンにぶちまけた。

まるまる一本ぶっかけてやる!

そうして出来上がったここ、レストラン「ジョセフ」の激辛のナポリタンを、ずるずるずるっとすすりあげる。

もうヤケクソだ。


なぜ今こんな話になっているのか、それは数時間前にさかのぼる。

私は多重人格だ。

正式名称は人格解離と言うのだけど…まあそれは置いておいて。

私は多重人格。だがそれは"彼"も同じである。

彼はサオトメ・リュー、それが名前。

私は彼の"裏人格"である。

彼の気付いていない、彼の体を共有するもう一人の人格なのだ。

そして私は主人格である、彼に恋をしている。


極めて珍しいことだと思う…うん。

でも好きなものは好きなのだ。何か問題でもあるのか!


でも体は共有してるわけだし、彼と直接会う・話をするなんてことはもちろんできないワケで……。

そこで彼の使い古したスマホを使って、彼との交流を試みたのだ。

結果は成功。彼は私に興味を持ち、いろいろなことを話してくれた。


でもそれもつかの間…。

半年ぐらいして、彼が私の存在に疑問を感じ始めたのだ。

「自分が話をしている相手は本当に実在するのか?」というとても自然な考えだ。

なにせ、私が初めて送ったラインの内容はこれだ。


「間違えて送っちゃった!でも私君に興味しんしん!是非ともお友達になってください!」

こんなのスパムだと思われて当然だ。

しかし彼は……。


「女の子ですか?ぜひ友達になりましょう!」

不審がることなく受け入れてくれた。

…分かってる。下心はバリバリだ。


そして今私は彼から私の存在の疑いをかけられ、唯一の交流を絶たれようとしてると…。


「はぁ…。」

なんだか悲しくなってきた。

意図していないとはいえ、

「あなたは本当に存在するのですか、まやかしではないのですか。」なんてライン貰ったら…。

凄くショックだ。彼に裏人格としての私の存在を否定されている気分になる。


「何かいい案は浮かんだの?」

目線の先はスマホだがサイトーが話しかけて来た。


「…ない。」

「じゃあ、どうするの?」

どうするべきか。本当に何も思い浮かばない。

これは早急に手を打たねばならない問題だ。考えれば考えるほど焦りにより手が汗ばむ。

……ここは仕方がない。いっちょ腹をくくって……。

「…しゃあない、アンタの案にかける。でも失敗したらアンタのこと、タナカにバラす!」

「は、はあ!?どうしてそーなんのよ!」

スマホに向けられていた目線がピキっと私の方へとスイッチングされる。

そのサイトーの目は困惑と怒りで満ちていて怖い。

だが私の心の隅に住む小悪魔がちょいとばかしおちょくってやりたい!と私の口を借りて言葉を連ねた。


「私たちの関係は互いの秘密。でもバレたら秘密じゃなくなるじゃない。

私だけバレるのはシャクに触るからアンタのこともバラしてやんのー!」

「冗談じゃあないわよ!」

声をあらげ、バンっと机を叩き立ち上がるサイトー。

何事かと店員・客が一斉にこちらの方へと振り返る。

凄く視線が痛い。

やばい、やりすぎた……。

サイトーにとってこのジョークはかなりきわどい……というか禁句なのだろう。


サイトーの恋愛対象は男だ。

サイトーは男友達である、タナカ(サイトー、タナカ、サオトメ・リューは共通の友達でもある)に片思いしている。

彼はゲイでもバイでもない。ストレートである。


サイトーは普段男として、男装姿で生活している。

無論、タナカもサイトーを男(深い意味のない)として見ているわけだ。


サイトーは前述したようにとてもゴツい。

ステレオタイプな女装家のイメージそのものだ。

性別の壁があり、なおかつムキムキボディであるわけだから、タナカに片思いするサイトーは悩んでいるのだ。


「あんたがうらやましいっ!」

前にそう言われたことがある。

私…まあリューくんはとても華奢なのだ。

それに加え、女顔で色白なジャニーズ顔負けの美男子。


私はとくに化粧や女物の服を着たりなどしない。

もちろん着たいが、服を着るには買わねばならない。

リューくんに姉や妹はいないから、バレない程度に拝借する……なんてこともできないのだ。

なので、勝手に金を使い込むのは気が引けるし…そもそも服を置いておく場所がない。

メイクしないのも同じ理由。化粧品を置いておく場所がない。


まあ今みたいに、カフェやレストランにはちょこちょこ金を落しているのだが……。(リューくんごめん!)


そんなワケでノーメイク・だぼパーカーが私の普段の格好である。

まあラフな格好した普通の少年……と思われるのが通常の反応だと思うのだが、

女言葉を使うからか、ふつーに女性として扱われることがよくある。


トランスジェンダーで言うところの、整形なしで女性に見える"完パス"っていうワケだ。

そこをとてもサイトーに羨まれる。


「…ウソよ。んなことするワケないじゃあないの。」

「…くだらない冗談ね。洒落になってないわ。」

はぁっ、と呆れた様子でそう言うとドスンと机に座り直すサイトー。

安堵する様子も伺えることから、本気で焦っていたことが伺える。

そもそもサイトーは自分の問題について相談に乗ってくれてるんじゃないか。

私の心の小悪魔が行過ぎたことをして大変申し訳ない。素直に反省しよう。


このまま無言になってしまうとなんとなく私達の友情にヒビが入ってしまいそうなので話を続けようと思う。

……そうそう、動画撮影するって話だ。


「……動画撮影っていうのは本気で言ったのよね?どーゆーふうに撮影すんの?仮面でもかぶる?」

「……バカ。化粧よ、お化粧するの!」

「…は?」

「アンタ、元がいいんだから、まともな女の子の格好すれば誰がどう見ても女の子よ。」

「……いやいや、女装しても自分自身の顔が目の前にバン!と出たらいくらなんでもバレるでしょ!

毎日鏡で向かい合せてる顔なのよ!」

「化粧ってかなり化けるわよ。

私だってこれでも元の顔とは大分違うでしょ?」

違うかあ~~……?

正直、元の顔を知っている私からすればあまり変っている様子は伺えない。

サイトーは、ノーメイクがバキの"範馬勇次郎"だとすれば、

メイクをし、着飾った今の姿がダンガンロンパの"大神さくら"である。

着飾った姿を見ればフェミニンさは確かに感じるが

その露出した美しい筋肉を見れば独特のオス臭さをそこはかとなく感じてしまう。


「とりあえずつべこべ言わずやりましょう!まず結果を見てから決めましょう!ね!」

「う、うん…。」


サイトーは私をメイクアップすると決まったからか、機嫌が直ったようだ。

ステップを踏みながら「早く早く!早く行くわよ!」と店を出ようという意思表示のため私の背中を押す。


あまり期待はできない。

化粧といえど、整形するわけじゃあないのだから、限界があるだろう。

別人になれるわけがない。

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