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魔法のシャボン玉  作者: 土竜健太朗
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『私の夢はお花屋さんで働くことです!後は……。運命の人に出会うことです!!!』


 僕は自分の席でただ聞き入るようにして、耳を傾けていた。自分とは違い言葉の隅々から自信が感じられる女の子。


 僕の隣にいつも座っている彼女はクラスでも人気者で勉強も出来て、誰とでも仲良く出来る。僕の憧れであり、最初の恋の相手でもある女の子だ。


「立派な夏花さんの発表に皆さん拍手をしましょう!」


 担任の先生が発表の終わりにそう促すと教室内は耳が割れそうな程の拍手の渦に包まれた。僕の時には、こんな華やかな拍手は送られなかったのに『やっぱり夏花ちゃんは凄いや』と思いながら、僕も力一杯に拍手を送る。


 多くの音に混じっているから別に僕の拍手の音なんて届きはしないだろうけれど、それでも、全力を尽くした。


 夏花ちゃんが歩いて席に戻ってくる頃にはもう次の発表者が準備を始めていた。


 僕の横の椅子が静かに引かれる。様子を伺うように隣を伺うと小さくため込んだ緊張を吐き出している夏花ちゃんの姿があった。運動も勉強も何でも完璧にすることが出来るから緊張なんてしないと僕は勝手に思っていたけれど、全然そんなことはないことを初めて知ったのだった。


「凄かったよ。夏花ちゃんの発表。僕には真似出来ないや。夢が叶うと良いね」


 隣にいるからといっても日頃からよく話をするかと言われると全くそんなことはない。挨拶はするけれど、それ以上の会話はなく。僕が抱えている気持ちなんて、微塵も勘づかれてない。


「ありがとう。秋博君の発表も良かったと思うよ。私、応援しているからね。秋博君の絵が好きなんだ」


 満開のヒマワリのように元気いっぱいの笑顔が僕の胸を擽った。何とも言い表せない気持ちに顔は真っ赤になっている。『秋博君の絵が好きなんだ』その言葉が心の中で何度も反芻した。


 僕が絵を描いているのは周りに上手く溶け込むことが出来ないからだ。誰かと一緒に何かをすることが得意ではなかった。グループを組んで進める授業は苦手だし、チームを組む必要のある運動は大っ嫌いだ。一人で黙々と進めることが出来ることが好き。だから、絵を描くことが好きになった。


 何時間でも、何枚でも、何回でも、周りなんて気にしないで真っ白な紙に自分の世界を描いていく。それだけが、僕にとって絵を描く意味になっていた。この日もう一つ僕とって絵を描く理由が追加されたのだった。


 まさか夏花ちゃんが僕の絵を見てくれていたなんて思ってもいなかった。更にその絵を『好き』だと言ってくれるのだから嬉しくないはずがない。


 僕の発表をしているときに聞こえた声は僕の絵を下手だといった。僕だって自分の絵を上手いと思ったことはない。100人が見てもみんな首を傾げてしまう物だと思う。それでも、僕が描き続けることは変わらないことだったけれど、一人でも僕の絵を好きと言ってくれる人が居るなら、他の人が僕をどれだけ指を指して嘲笑っても気にしないで居られるような気がした。


 そんな思いを持っていられるのは、あの事件が起きてしまうまでの3年間。



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