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魔法のシャボン玉  作者: 土竜健太朗
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「僕の将来の夢は画家になることですっ!」


 臆面も無く満面の笑みで語る少年がいる。


 一つの四角い部屋に集められている少年少女。それを偉そうに頷きながら眺める一人の大人。そこは何の変哲もないどこにでもあるような小学校の教室だ。


 今は学校の授業中のようで、一人の少年は黒板の前に姿勢を正して、緊張した様子で立ちながら両手で一枚の作文用紙を広げて、必至に読み上げている。


 内容としては将来の夢を伝えようというようなもの。だから、彼が話している言葉は何一つ間違えではない。


 それなのに教室に起きたのは小さな笑いだった。半数以上は声を出して笑った。笑っていない人は隣の子に小さくささやいている。そもそも、最初から少年の話など聞いていなかったらしい。そして極めつけは一人の男子生徒の声。


「あいつの絵、下手じゃん」


 夢とは何なのか?それを言葉にしただけで、こんなに酷い仕打ちを受けなくてはいけない物なのだろうか。


 作文用紙は震えている。少年は作文用紙を握る手にぎゅっと力を込めている。あたかも、この仕打ちを受けることはある程度想定していたかのように。


 その教室の中は完全に少年を嘲笑う空気が完成していた。それでも、少年は大きく息を吸い込んでから続きを読むために勇気を振り絞っていた。


 さすがに、この教室の様子を見ていられなくなった教師が二回手を叩く。


「はい!皆さん。人が発表しているのだから、邪魔してはダメですよ」


 まさに神の一言とでもいうべきだろうか。たったその一言で少年の言葉を止めさせた空気は消えて無くなっていた。


 教師というのは小学生からしたら、逆らうことが出来ない存在と言っても良いだろう。子供と大人の差を彼らは無意識のうちに理解しているからだろうか。


 静まりかえった教室は少年の声を待っているようだった。待っているといっても、叱りを受けた生徒達は形式上だけだ。話を聞く素振りなど一切ない。


『早く終わらせろよ』とでも言いたげなクラスメイトの視線が少年に突き刺さり続けていた。


「頑張ってっ!」


 そんな教室にも、一つだけ少年を鼓舞する視線が存在している。少年が作文の朗読が始まった瞬間からその視線だけは彼に向けられていた。


 少年もそれの存在には気が付いているようで、意を決して大きく息を吸い込んだ。


『またこれか……』


 心の中で俺が呟くと映像はピタリと静止する。


 気持ちが悪いくらいに鮮明に流れていた発表会の景色。教室に漂う空気。肌に感じた視線。少女が向けてくれた小さな声援。それら全ては今起きている出来事ではない。


 そうこれは全て夢の中の出来事―


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