69 人外過ぎる三つ巴
魔物の群勢がひしめき合う中を駆けていく。私に向かって攻撃を繰り出してくる者もいるが、全て無視だ。
このモノ達は騎士たちの獲物だ。私が横取りをするわけにはいかない。······いらないと言われそうだけど。
だから、私は一直線にオーガの群れに突っ込んでいく。その後ろには魔王様も付いてきているけど、本当に付いてくるんだ。
「『影捕縛』」
天中に差し掛かろうとしている太陽の光は、真下に濃い影を作り出している。それを鎖のように絡めて動きを封じて行動不能にしていく。オーガの群勢の動きを止めたことで、ゴブリンとオークの群勢から離すことが出来た。
普通のオーガなら完全に動きを封じることができる影捕縛だけど、巨体で頑丈な肉体を持つ上位種は流石に抜け出して、こちらに敵意を向けてきている。
「ザコは俺が倒してもいいのだな?」
隣にいる魔王様から声が降ってきた。雑魚?ザコ?·····ナイトオークはザコなのだろうか?
「かまわないよ」
そう答えると、魔王様は駆けて行った。一番先頭にいたナイトオークに呪われた大太刀を右下から左上に斬り上げる。バターを切るようにすんなりと刃が入っていき上半身と下半身が離れていく。
流石、私の肉切り包丁!いや、私のでは無かった。くっ!絶対にあの肉切り包丁より凄いやつを手に入れてやるんだから!
次々と地に伏していくナイトオーガ。およそ50体はいたかと思われたが、すでに半分ほどしか残っていない。そして、魔王様が通った後には燻ったオーガの骸と燻った大地が····?燻っている?
無双している魔王様の大太刀を見てみると黒い炎を纏っていた。なんて、禍々しい黒い炎。ギギギギと鳴いている大太刀に斬られたナイトオーガは死しても燃え続けていた。
「クククッ。ハハハ」
と、魔王様の笑い声がこの戦場に響いてきた。笑いながら無双している。
嫌な予感がする。私はあの呪われた大太刀に自我が芽生えてもおかしくはないとは言った。
あれは彼に忠告する意味でもあったが、私は彼が言っていた言葉を勘違いしていたと気付かされた。
『正気でいられる時間が長く感じる』と。
私はてっきり呪いに苦しめられているので時間間隔がおかしいとか、意識が飛んでいるとかそういう意味だと思っていた。まさか、あのモノと共存できるとは考えもしなかった。
私は身体強化を掛け、呪われた大太刀を振るう赤い髪のモノに向かって駆け出す。
左手に魔力を込めいつでも魔術を発動できるように準備をしておく。
立っているオーガはキングのみとなっていた。そのキングに向かって大太刀を振るう赤い髪のモノ。
「それは私の獲物だと言ったよね!」
そう言いながら、思わず飛び蹴りをくらわす。が、避けられてしまった。
左側には3メルはあろうかという硬そうな筋肉の塊の真っ黒いオーガキング。額からは大きな一本の角を生やし、ニヤニヤと見下した目を私に向けている。
右側には仮面を外し、鱗紋様が皮膚の上にうごめいており、深淵を覗き込んだような目をして、歪んだ笑みを私に向けている赤い髪のモノ。
そして、ドラゴンの如き魔力を持った私。
人外過ぎる三つ巴!!
ここに来て、キングと魔王と三つ巴になることは想定外過ぎる!あの彼が敵になるのか?未だにその手には黒い炎を纏った大太刀が握られている。あの切れ味は恐らく私の結界も斬ってしまうだろう。
「ヒサしいな。イオとルスにアイされたムスメ」
歪んだ笑みを私に向けながら、赤い髪のモノが話し掛けていた。その声は彼の声ではなく老人のように嗄れているようでもあり、子供のような幼い感じでもあった。声質が混じっている。
久しい?私はあのモノとは言葉を交わしたことはない。だから、私は答えない。
「クククッ。ワレにコタえるギリはないというのか?」
義理はないというか、私は術を構築していくので必死なのだ。まず私のやるべきことは、目の前の赤い髪のモノを鎮めなければならない。
それには、ニヤニヤしてこの様子を見ているオーガキングの横槍が無いことが前提なのだが、あれは私が動こうものなら、手を出して来るだろう。
ふーと息を吐き、呪を唱える。
「『寸刻の静止』」
魔力の使用量により止められる時間は変わって来るが、今回は1分有れば良い。
それでも時を止めるのだ。膨大な魔力を消費していく。私の4分の1の魔力量が消費されてしまった。
「『優しき刻は遥か彼方に置き去りにされた』」
目の前から『ほぉ』と声が聞こえてきた、所詮、私如きの魔術では、目の前にモノの時を止めることは適わない。
「『優しき眠りは幸せの刻を繰り返す。微睡みの揺蕩う夢に誘おう』」
私は目の前にいるモノに近づいていく。そのモノは武器である大太刀を手放し、全てを受け入れるように両手を広げた。
「『華鏡の夢』」
左の人差し指を目の前のモノの額に付け、術を発動する。が、ガシリと捕獲されてしまった。
うぇ?まだ、術が完成されていないので、指を離すことは出来ない。
「オボえておけ、リアとオマエはワレのモノだ。このヨウなジュツでワレのココロが、ニクしみが、カナしみが、イヤやされるとでも?このカワきがミたされるとオモっているのか?」
深淵を覗き込んだ目を私に向けて言い放った。そして、その目が徐々に閉じていき、力が抜けていく彼の体を結界で囲み、私は距離をとりオーガキングに向き合う。
丁度その時、術の効果が切れたようだ。1分ぴったりだ。私を見ていたオーガキングが私が居た場所から居なくったことで、ニヤニヤしていた笑みを止め、音が鳴るぐらいに勢いよくグルンと、こちらの方に首を向けた。地面に倒れた彼とその手前に立っている私に、視線を交互に向けて、苛立ちを顕にするように唸りだした。
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