26 千年後に
出かける準備が終わった私は家の扉を開けて外にでる。戦闘服に腰鞄を付けただけの身軽な洋装だ。腰鞄に何が入っているかといえば何も入っていない。亜空間収納を誤魔化すための鞄だ。
隣には相変わらず魔王然とした彼が立っている。微妙にお揃いの服装は見様によってはどこぞかの闇組織に所属しているかの様だ。
フェーリトゥール。もう少しデザインを変えてもよかったのではないのだろうか。
因みに私の格好を見た彼は『すごくいい』と言ってくれた。そして、フェーリトゥールにお礼を言わなければとも言っていた。何故、私の服装で彼からフェーリトゥールにお礼を言わなければならないのだろう。
結界の外に出て、木々が立ち並ぶ林の外まで歩いて行く。そして、私は立ち止まり振り返った。
右手に煙管を持ち、左手を前に突き出す。魔力を大きく広げ林を結界ごと覆う。ギギギと何処からともなく音がしてくると、空間が回転するように歪み始め、パシュンッと一瞬にして目の前の林が消えた。その奥にある結界も畑も家も全て始めから無かったかのように、岩と土の地面が広がっていた。
「もしかして、全てを亜空間に収納したのか?」
隣からそんな声が降ってきた。私は煙管を咥え、紫煙を吐き出す。
「そう。だから、町に寄らなくてもいい。あ、でも今の私の身の証明ができないから、近くの辺境都市で冒険者の登録をしていくけどね」
冒険者として登録をしておけば、ある程度問題を避けられる。町に入るときの通行料だとか、問題に巻き込まれたときに身分の証明証だとか。
身の証明ができない者とくらべれば、少しましと言うぐらいだが、あると無いとでは人の印象としては断然違う。
私は、再び歩き始め、長老をこの広い竜の谷から探し出す。まぁ、一番大きくて、赤い体はとても目立つから見つけやすいけど。
「長老。話があるのだけど」
寝ているように丸まっている大きな赤黒い鱗を纏ったドラゴンを見つけ話しかける。すると、瞼が開き大きな金色の目が私を捉えた。
『なんだ?』
「故郷から呼び出しを受けて、地竜討伐に行ってくる。それでさ、ここ最近変わったことない?例えば魔のモノとか」
『魔の物?それはどんな物か?人が名付けた名ではわからんな』
わからない。そうか、人が勝手に言っているだけで、ドラゴンたちには関係がない。
「150年前に世界を破壊しかけたモノとか」
『さてさてどれのことか』
もしかして、ドラゴン達にとっては魔竜王は脅威ではなかった?それとも、魔竜王と同じぐらいの存在があちらこちらにいるということ?
「そうですか」
『ここを出ていくのか?』
「ええ」
『青いのが寂しがるな。たまに顔を見せに来ると良い』
そう言って長老は瞼を閉じた。日が昇って間もない時間から声を掛けてしまってごめんなさい。
竜の谷の外に向かって歩きだす。この時間はまだドラゴン達はまだ活動しない。あちらこちらで、丸まっている色とりどりのドラゴンがそこら中で休んでいる。普通なら、寝ている所に人が入り込もうものなら、威嚇され排除されていることだろう。
私は彼らと良好な関係を築いているから、寝ているところを邪魔さえしなければ、大丈夫だ。だから、騒ぎ立てないように普通に歩いて行く。特に青いドラゴンに見つかると面倒なことがわかりきっているからだ。
「今日中には辺境都市に着きたいから、そこまで駆け抜けるけどいい?」
私は隣で歩いている彼に言う。疑問形で言ってはいるけど、私の中では決定事項だ。これで付いて来れないようなら、置いて行くだけ。出来ればそのまま付いてこないで欲しい。
「ああ」
了承と捉えられる返事をもらえたが、本気で竜の森を駆け抜ける私に付いてくるつもりなのだろうか。
『嫁!朝早くにどうした?』
あ。青いドラゴンに見つかってしまった。まだ、子供である青いドラゴンは遊び盛りで早起きだったようだ。ノシノシとこちらに歩いて来た。
「お出かけ」
『じゃ、付いていくよ!』
「今回は人の町に行くから駄目」
『え?人に戻るの?』
どういう意味だ?元々私は人族だ。
『そこの弱っちいヤツが来たからか?だから、人に戻ってしまうのか?』
「関係ないよ。故郷が大変な事になっているらしいから、帰るだけ」
『かえる?ここには戻ってこない?そんなの駄目だよ。僕の嫁なのに』
·······いや、だから私は人だからドラゴンの嫁にはなれない。それに遠くから白いドラゴンが私を睨んできているじゃないか!勘弁して欲しい。
「青いのはまだ子供だ。私は嫁にはなれないよ。そうだね····長老からこの谷から巣立っていいと許可をもらって、千年ぐらいいろんなところを見て、それでも私が良いというなら考えてあげる。いろんなところには白いのに案内してもらったらいいと思うよ」
そう私が言うと青いドラゴンは項垂れてしまった。その奥にいる白いドラゴンは目を輝かせて私を見ていた。
白いの千年の間に頑張ってくれ。
『うっ。わかった。早く成竜になる。だから、待ってて』
青いドラゴンは背を向けて去っていった。白いの、慰めてやってくれ。




