F5
「503 Service Unavailable」
真っ白な背景に黒い文字でそう記された画面をただ見ていた。
するとあなたが、
何してるの?
とたずねるので、
混んでるんだって。
とだけ返すと、
じゃあ待ってないで更新しなよ、ほら。
と長い指でそれを押した。
機械に詳しいあなたは、私よりも機械の扱いに長けていて、
こうした方が早い、とか、
こうしたらやりやすい、とか、
私と画面を見ながら色々教えてくれた。
私を見て、嬉しそうに微笑んで、
ね、出来たでしょ?
そう言って首をかしげた。
それだけで、何もかもわかってた。
あなたが私を大事にしていること、
優しくしたいと思ってること、
ありがとうと微笑んで欲しいこと、
あなたが私を、愛していること。
隣に立って笑っていた、それだけで―
まるでガラス細工を扱うように、
丁寧に、繊細に、優しく包み込むように。
ただ私の側に居てくれた。
幸せの塊みたいなその空間が好きだった。
時を止めて、失われることのないように、
蓋をしておきたかった。
「Webページの有効期限が切れています」
真っ白な背景に青い文字でそう記された画面をただ見ていた。
何してるの?
あなたが仕方なさそうにたずねた。
あ、えっと…
私がもごつくと、
そんなのこれ押せばいいじゃん、ほら。
と長い指でそれを押した。
いい加減覚えなよ。
とため息混じりの気配が背中から消える。
それだけで、何もかもわかってる。
あなたが私を避けていること、
面倒臭いと思ってること、
さようならと言って欲しいこと、
あなたが私を、愛していないこと。
頭を働かせていたパソコンが新しいページを開いた。
あの時私が閉じ込めておきたかったあの暖かな空間は、
きっともう、有効期限が切れてしまったに違いない。
そしてあなたは、
私が愛した長くて綺麗なその指で、
ためらいもなくそれを押すんだろう。
新しいページを開くように。
更新される、
新しい私たちに。
あの頃を忘れた私たちに。
愛しいあなたのその指が憎い