閑話1【少女探偵団①】
現代日本のお話です。蓮次郎のクラスメイト、南子の視点の話です。
「小豆ぉ、おっはよー」
「あ、おはよう南子ちゃああうぅいぃやぁぁ」
小柄でカワユイ小豆に後ろから羽交い締めに抱きつくと、小豆は可愛い声で小さく悲鳴をあげる。
「小豆は今日もかわゆいのぅかわゆいのぅ」
「ひあっ!?ちょっ、南子ちゃ…変なトコ、触らないやぁぁあ」
そんな小豆が可愛ゆ過ぎて、ついついぐりぐりモミモミしちゃうのだ。テヘッ。
ていうか、“小豆”って書いて“チト”って可愛くない?可愛くない?身長147㎝のミニマムガールで超似合ってるし、今時のJKなのにナチュラル黒髪のツインテがロリな感じで最っ高の、私の癒しマスコットなのだ。
ついつい抱きついてグリグリしちゃうけど許してね、小豆。
「よう “ナン子” 朝っぱらからレズプレイ見せつけてんじゃねーよ」
「やあ伊東クン、おはよう」
「いやああああぁ…」
「レズりながらサラッと挨拶してんじゃねぇよ。“アズキ” 嫌がってんじゃねぇか」
伊東クンは1年で同じクラスだったけど、2年は別で3年でまた同じクラスになった人。
1年の時、コイツが私をナン子って呼び始めてから、高校での私の呼び名はナン子になった。
「んで、今日はもうクラス全員に挨拶済ませたのか?」
「そうだった!!こんなことしてる場合じゃない!!小豆、またあとでね」
忘れてた!!私には今年の熱い目標があるのだ!!その為には始業前の朝のこの時間は1分1秒無駄にはできない!!
名残惜しいけど、小豆から手を離して、まだ挨拶してないクラスメイトを探す。
「マナちゃんおはよ!ユリおっはー!あ、山野ぉー!!おはよー!!」
女子は今年初めて同じクラスになった子でも、下の名前で呼ぶのが私のポリシー(キリッ)。一応、ちゃん付けはするけど。
ただ、男子は多少仲よくても苗字で呼ぶことが多いかな。下の名前で呼ぶ事もなくはないけど。
「お、男子の集団発見!!」
教室に来るまでに10人ぐらいの男子に挨拶してきたから、これで男子全員コンプいけるか!?
「佐々木クン、馬詰クン、浜口クン、中村クン、森クンおはよー!!っしゃー、男子コンプ…じゃない?」
あれ?
指折り数えた人数を、今の男子グループの数だけ戻してみる。
「佐々木クン、馬詰クン、浜口クン……」
「淀川…なにしてんの?」
「ちょっと待って…中村クン、森クン…あれ?まだ2人足りない?」
「淀川?」
新年度、私 “淀川 南子” は晴れて高校3年生になった。
3年生といえば最高学年。つまり、花のJKでいられるのもあと1年!!
だから私は、1人でも多く友達を残すために、今年は毎日クラス全員に「おはよう」と「バイバイ」を言う目標を立てたのだ。
昨日は朝はカンペキだったけど、帰りは危うく1人挨拶し忘れるところだっ……
「あ!!そうか、あの子だ!!」
「あの子って誰だ?“ナン子”」
はっ!!このセクシーな喉仏から漏れる、乙女の耳朶をくすぐる程よい低音のイケボは!?
背後から聞こえる声の主を想定して、私は最高の笑顔とワントーン高い声で振り返って挨拶する。
「恢クンッ、おはよう」
ああ!!やっぱり!!
私的学年ナンバーワンイケメン
身長183㎝のバスケ部キャプテン、哀原 恢クン(ハート×3)
ナン子って呼ばれるのはあんまり好きくないけど、恢クンなら私のことナン子って呼んでもウ◯子って呼んでも全然オッケー!!
同じクラスになったのは初めてだけど、恢クンと同じバスケ部の伊東クンを通じてちょっとだけ面識があった。
カッコいいなぁぐらいにずっと思ってたけど、昨日同じクラスになってちょっとキュンキュンしてる自分に気付いちゃった。
いやぁ、未だに同じクラスにいるのが不思議すぎて忘れてたよ。
あ、やば。ちょっとドキドキしてきた。
恢クンにバレないように、平常心、平常心……
「恢クンあのさ…」
「カイー、アンタ何で昨日既読無視してんのー」
むっ。私が話しかけてんのに割り込んで来るのは誰だ?
「あ?あー、そういや忘れてた。ウ◯コしようと思った時にお前のLINE来たからさ、ウ◯コしてから返事しようと思ってて忘れてたわ」
「はぁー?なにそれ?」
ああ、栗栖アカネちゃんだ。間延びした声でダルそうに喋る、時代遅れのザ・ギャルって感じの。
つーか恢クン、イケメンがウ◯コ連呼しないで(笑)
「アカネちゃん、おはよっ」
「はよ。てかさー聞いてよカイー。ウチのさー…」
ぬっ、サラリと躱されてサラリと恢クン持って行かれたぞ。ぐぬぬっ…。
しかもLINE知ってるだと!?チクショウ!!
私も今日中に恢クンのLINEゲットしよ。
「淀川、どした?」
拳をググッと握りしめる私に、モブの男子が話しかけるけど、ごめんちょっとの間意識の外に居てくださいお願いします。
キーンコーンカーンコーン……
お母さん曰く、昭和からずっと変わらないらしい学校のチャイムが、朝の始業を知らせる。
慌てて席に着くコもいるけど、お喋りに興じる生徒たちは気付いているのかいないのか、席につく様子がない。
まぁ、私もそんな1人だけど。
毎日クラス全員に挨拶するぜ企画が、2日目にして今日はまだコンプできていないのだ。
昨日帰り、ギリギリで挨拶した帰宅部エースの藤田くんが、今日はまだ来てない。
だから、廊下側で集まってるグループに入り込んで、藤田くんが来たらすぐに挨拶できるようにスタンバってるんだけど…
来ないなぁ。欠席だったらしょうがないけど。
「“古賀ちゃん” 遅ぇなぁ」
席に着いてない中の1人、私と同じように廊下の向こうを気にしている男子がいた。
いや、1人じゃないな。何人かの男子が、担任の古賀先生がまだ来ていない事を気にしてる。
健全な男子高校生なら、担任が遅れてくるのは寧ろウエルカムなんじゃないかって思うけど……まぁ、あの古賀ちゃんだもんな。
今年ウチらの担任になった古賀ちゃん…古賀先生は、まだ20代前半の小柄で可愛い女の子先生なのだ。
健全な男子高校生なら、首と鼻の下を伸ばしまくって待ち焦がれるのはしょうがない。
始業のベルから4〜5分が過ぎた頃、古賀ちゃんがその小ちゃい身体で一生懸命廊下の向こうから走って来るのが見えて、待ち焦がれていた男子達が騒つく。
う〜ん、くやしいけど可愛い。
元アイドルなんじゃないかって噂もあるぐらい、なんかこう一生懸命さが板についてるっていうか、とにかく可愛い。
小豆の次ぐらいに。
残念だけど古賀先生、私のナンバーワン可愛いは小豆なのだ。ゴメン。
さ、古賀ちゃんが来たから席に着くかな。藤田くんは今日は休みか遅刻か、どっちにしても今日はノーカンでいいや。
「ごめんなさい、遅く、なっちゃいました……ふぅ。ちょっとね、大変なことになっちゃったから」
教壇に立ち、上がった息を整えながらHRに遅れたことを謝る古賀ちゃんに、男子達や古賀ちゃんファンの女子が「いいよー」「大丈夫だよー」「大変なことって何?」と、声を掛ける。
「えー、今日のHRは、急遽体育館で全校集会になります。もしかしたら時間押しちゃうかもしれないけど、そうなったら順に授業時間が変わるので、またそうなったら誰かから話があると思います。とりあえず、みんな体育館に移動して」
え?体育館に移動?
何、そのニュースとかでしか見たことないレベルの事件っぽいフラグは。
私は無意識に、誰も座っていない藤田くんの机に視線を向ける。
そして、7年前のある事を思い出していた。
「……と、いうわけでして、今日から登下校時は出来るだけ2人以上での通学をするようにお願いします。それと、昨日の藤田君に関して、何か知っている事があれば、担任の先生、もしくは生活指導の山北先生に伝えて下さい」
教頭先生が、昨日から藤田くんが親戚の女の子と一緒に行方不明になっていると話す。
藤田くんを知ってる三年生の一部がちょっと騒ついたけど、みんな静かに聞いてた。
私は、それどころじゃなかったけど。
行方不明って聞くと、どうしても思い出してしまう。
今から7年前に行方不明になった、実の兄のことを。
あの時聞いた “噂”、それが確認できたら、もしかしたらお兄ちゃんの行方がわかるかも……。
自分から行方不明事件を追いかけて…てことまではしないけど、テレビで行方不明事件を見る度に、妙にスイッチが入って調べる癖がついた。
藤田くんが行方不明になったって聞いて、もうそれで頭がいっぱいになって、とにかくこの全校集会が終わったら、あの時の “噂” を確認しに行こう、それしか考えてなかった。
「教頭先生!!藤田くんが行方不明になった現場で、大きな紫の蝶々って目撃した人いませんでした?」
解散の合図と同時に、私はクラスの列から飛び出し、教頭先生の方へ走った。
「蝶々?」
振り返った教頭先生は、何のことかわからないみたいに首を傾げた。けど…
「紫……!?君、何か知ってるのか!?」
教頭先生の隣にいた、ジャージの男の先生…生活指導の山北先生が、めっちゃ怖い顔で……いや、近い近い!!
「知ってるっていうか…」
山北先生がめっちゃ迫ってくるから、その分私は後ずさる。
とりあえず、私は教頭先生と山北先生と、それから古賀ちゃんと一緒に校長室に行くことになった。
なぜ校長室?生活指導室じゃなくて?
「知ってることを、全部話してみて下さい」
校長室の、多分本当はどっかの偉い人とかが来た時に使うっぽい、高級感のあるソファで、校長先生と向かい合わせで座る。
いくら天真爛漫系天然お元気美少女(自称)の私でも、流石に緊張する。
「えっと、私が小5の時なんですけど、私のおにぃ…兄がコンビニの駐車場で行方不明になったんです。その時、大きな紫の蝶々を追いかけてたって目撃者がいたんです」
「…それで?」
「はい?」
「藤田くん関しては、何かご存知な事はありませんか?」
「あ、えっと…」
うん、実は私も校長室に連れて来られながら疑問だったんだ、それ。
私は、藤田くんの行方不明事件とお兄ちゃんの行方不明事件が、何か関係があったらと思って聞いただけなんだよね。
藤田くんの事は、昨日帰りに窓から「バイバーイ」って言っただけで、その先は何も知らないのだ。
「そうですか」
校長先生がそう言うのがちょっと申し訳無く思ってると、タイミングを計ったように山北先生が写真をプリントした紙を私の前に置いた。
「これは、警察から参考に届いた、現場にあった藤田のものと思われる遺留品の写真だ。本来、学校関係者でもまだ一部の者にしか公開が許可されていない」
目の前に置かれたプリントには、確かに高校生が使ってそうなカバンとその中身、それから、ナゾに葉っぱの多いクローバーが写っていて、それぞれの下に細かい説明が……
「紫の粉?」
よく見ると、クローバーの葉っぱにラメっぽいキラキラした粉みたいなのがついてる。
写真じゃ色までわからないけど、説明書きには “瞬間接着剤でつけたと思われる多葉のクローバー。内数枚の葉に材質不明の紫色の粉” って書いてある。
「この紫の粉が何なのか、今は鑑識の結果待ちらしいんだが……君の話が関係するならば、これは蝶の鱗粉の可能性もあるかもしれない。その紫の蝶について、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
マジか………
7年目にして、初めてお兄ちゃんの行方不明事件とリンクしたかもしれない。
なんて思ってた時期が私にもありました。
結局、私のわかる事はお兄ちゃんの行方不明事件だけで、しかも当時の目撃者の証言ぐらいしかわかることがないのだ。
その目撃者も、コンビニの駐車場でスマホいじってたオッさん1人で、コンビニの駐車場近くに住み着いてるノラ猫と一緒に、見たこともないデカイ蝶々を追いかけてたお兄ちゃんが、いつの間にかノラ猫と一緒にいなくなってたって事だけ。
つまりまぁ、さっき話した以上の情報は出てこないってこと。
生活指導の山北先生が、私が “紫の蝶々” って言ったのを、クローバーに付いてた “紫の粉” と結び付けて早とちりしたことで、校長室まで行くことになっちゃったってことだった。
「南子ちゃん、藤田くんのこと何か知ってたの?」
教室に戻ると授業中で、授業が終わるとすぐに小豆が話し掛けてきた。
「ううん」
「そっかぁ…」
私が首を横に振ると、小豆は残念そうに深く息を吐く。
「ほら、行方不明って聞いたらさ」
「あ、そっか」
小豆は中学からの付き合いだから、それだけでわかってくれる。
「結局、真相には繋がらなかったけど、今回は1㎜ぐらいは動いたかなぁって感じ」
「え!?うそ!!」
「藤田くんが行方不明になった公園に、紫の粉が付いたクローバーがあったんだって。それが蝶の鱗粉てわかれば、繋がる可能性があるかもって」
私がそう話すと、小豆の目が急にキラキラし始めた。
その目を見て、私も顔をにやけさせる。
「じゃあ、じゃあ、復活する?」
小さい体を小刻みに動かして、小豆が興奮気味に言う。
「うん。またやろっか、“少女探偵団” !!」
私達の中二病が再発した。
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