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第1章【親戚の幼女を見てるって言ったのに一緒に異世界に飛ばされて申し訳ありません】6

ジョージが出会った世渡り人について、矛盾が生じていたので3人→4人に訂正しました。物語の展開に大きな影響はありません。

第6話【おうちにかえりたい】




指方 丈司(さしかた じょうじ)


それが40年以上前にこの世界へと渡って来た、カーズやミッツたちの父親の名前だった。


彼は本名の “ジョージ” を名乗り、言葉も常識も通じないこの世界で、たった1人で生き延びて来たのだと言う。


やがてカーズらの母親と出会い、今いるこの家から山1つ越えた東の村で落ち着き、その後この場所を開拓して住むようになった。




カーズは、先ほどとは別の紙束のノートを持ち出して来た。こちらはジョージがこの世界で見聞したことを日本語で書き遺したノートのようで、ジョージがこの世界に来てからどのように生きて来たのか、他にも元の世界から此方へ渡って来た人がいたのかなども書かれていた。


「すごいな、ジョージさんて人は…もし僕がカーズさんやミッツさんと出会わなかったら、森の中で…あの猫みたいなのに殺されてたんだろうなぁ」


ジョージ本人が遺したというノートを見ながら、ジョージという男の偉大さに感心してる蓮次郎。


さっきカーズが見ながら話していた方のノートは、カーズ達向けにジョージが作った日本語のテキストのようなもので、カーズもそれを見ながら、カタコトで一生懸命に日本人だった父ジョージのことを語ってくれる。


蓮次郎は、よくわからないながらも、同じ境遇だったジョージのことを語るカーズの話に、一所懸命に耳を傾けた。


それらのことからわかったのは、ジョージは所謂 “チーレム” を実現させようと頑張っていたようだ。


その辺りの価値観は、まだ色々と経験不足の蓮次郎にはピンとこないが。


蓮次郎と同じように、ジョージも早くから魔法の存在には気付いていて、自身でも使いこなしていたようだ。


“チーレム” を目指すジョージだったが、この世界に来てすぐの頃はこれといったチート能力がなかった。


なのでまずは レベルアップのためにモンスター狩りをしまくったという。


この世界では、モンスターを倒すとレベルアップできるらしい。


といっても、“レベル” という概念はなく、ジョージ曰く「倒したモンスターの魔力が俺に宿る!!」だそうだ。


つまり、魔物を倒せば倒すほど、魔力がアップするのだという。


チートと言えるかどうかはわからないが、そうやってこの世界で強者として認められるほどの戦闘力を身に付けると、次はハーレムを作るべく精力的な活動を始めたのだが……


この世界で広く信仰されている宗教により、この世界では一夫一妻制が常識らしい。


もちろん、隠れてやる奴はいるのだろうが、原則的に浮気や不倫の類は強くバッシングされる。


地域によっては死刑やそれに準ずる罰則を受けることもあるそうだ。


とにかく、現代日本以上に厳しい一夫一妻制にも関わらず、ジョージはハーレム作りを頑張った。


結果、極度の浮気性のレッテルを貼られ、誰1人としてジョージの元には残らず、大量の謝罪を求める文書と殺害予告書だけが残った。


「何やってんだ、ジョージさん…」


「ねぇ、れんにいちゃん」


ジョージの話に夢中になっていた蓮次郎の服の裾を、みゆがツンツンと引っ張る。


「どうしたの?みゆちゃん」


この家に来てからずっと大人しくしていたみゆが、不安そうな顔をして、引っ張ったその手のまま蓮次郎の服の裾を握っていた。


「まだ、おうちかえらないの?」


「あ、えと…」


幼女の一言に、蓮次郎の表情が固まった。


みゆの問いに言葉が詰まる。


そして、現実逃避をしていたことに気付く。




そうだった、帰らなきゃ。




次から次へと起こる衝撃的な出来事に、頭の整理が追いつかないことから、蓮次郎は「帰る」という目的を、すっかり失念していた。


むしろ、安全に保護してもらえそうだと安心して、異世界生活を受け入れ始めてすらいた。


みゆが何も言わずに大人しくしていたのをいいことに、都合のいい方へと意識が逃げていたのだ。


まだ6歳のみゆが、この人数の始めて見る大人たちに囲まれたら、萎縮して口数を減らすのは当たり前だった。


「ママ、おかいものたぶんもうおわってるよ」


「そ、そうだ…ね」


「おうちかえろ、れんにいちゃん」


おうちかえろ、と言われても、帰る手段が……


蓮次郎は、さっきの森の出来事を思い出す。


公園と繋がっていた穴が閉まったことで、異世界間を繋いでいた空間が、ただの森の空気になった。


魔法を使えたことで、ここが生まれ育った世界とは異なる別世界だと確信した。


その結果、諦めの早い蓮次郎は、元の世界に帰れないと思っていた。


困り果てた蓮次郎は、カーズの方を見る。


カーズは「どうした?」と言うように眉を動かし首を傾ける。


この辺のリアクションが本当にアメリカ人ぽいなーと、蓮次郎は思う。


カーズを見ていると、ここは異世界じゃなくて1880年代ぐらいのアメリカフロンティアなんじゃないかと思えてくる。


だとしたら、船で日本ぐらいならなんとか帰れそうなのだが…


カーズがアメリカ人だろうが異世界人だろうが、カタコトで語る日本語は知っている単語を並べるだけの簡単なもの。


蓮次郎とみゆの2人の会話から、カーズが蓮次郎の困り顔の訳を察することは無理だ。


「あ、その、」


当然、蓮次郎も日本語でしか伝えられない。しかも元々コミュコミュニケーション自体が苦手なのもあり、頭の中は「どうしよう」だけがぐるぐる巡る。


日本に帰るにはどうしたらいい?


その簡単な問いですら、言葉が通じないと伝えられないのだ。


ジェスチャーも試みるが、「異世界から日本へ帰りたい」を、どう表したらいいのか思い付かず、困り顔で奇妙な動きをするだけの蓮次郎。


すると、ミッツが、木板と木炭の欠片を持ってきた。


狩りをしていたミッツは、言語を持たない動物の感情の動きを読むことに長けているのだろう。その応用か、蓮次郎の困った様子から何かを察したようだ。


木板と木炭を渡された蓮次郎、ミッツの言わんとするところは理解できた。これに書いて説明しろということだ。


暫く考え込むと、家と森を木板の右3分の1ぐらいのところに描いて、左3分の1のところに丸を描き、簡単な東アジアと日本を描き込む。


日本が中国並みにデカいおかしな地球だが、今はそこが問題ではない。


2つの絵の間に、家と森の方から地球の方へ向けて矢印を描いて「ニホン」と地球の日本の部分を指差して説明する。


家と森は、今いるこの家と、ミッツと出会った最初に来た森なのだろう。


カーズ、ミッツ、そしてアリルも蓮次郎が木板に描いた絵を覗き込む。


「ニホン?ニホンジン※※※?」


カーズが何かを確認するように蓮次郎に語りかけるが、ニホンとニホンジン以外はよく聞き取れない。しかし蓮次郎はなんとなく首を縦に振り「YES、YES」と答える。


「YES」という英語は通じないが、その反応を見てカーズたちは何やら相談し、未だ蓮次郎の手元にあるジョージのノートを寄越すようジェスチャーする。


蓮次郎がノートを渡すと、カーズは1番最後のページを開いて蓮次郎に見せた。


そこには、ジョージがこのノートの内容を締めくくるようにこんな文章が書かれていた。




『幸か不幸かこの世界へ迷い込んだお前に1番大事なことを伝える。


俺はこの世界で30年以上生きてきて、10人以上の世渡り人の素性を知って4人と実際に会った。だが、俺を含めた全員が、結局元の世界へ帰ることなくこの世界で命を終えることになった。ユキはまだ若いが、この世界で生きて行くことを既に決めている。


世渡り人と呼ばれる地球人は他にももっといるのだろうが、元の世界へ帰って行ったという話は聞かない。世渡り人の子孫達の中にも、俺たちの世界へ行こうとした奴がいるみたいだが、方法は見つかっていない。


俺ももう長くない。残りの時間で帰る手段が見つかるとも思えない。だから、お前がこのノートを見るまでに誰かが元の世界に帰れた、行ったって話を聞いたなら、ここに書き加えておいてくれ。


帰還の方法を求めて俺を訪ねて来た奴がいたら、すまん、謝る。残念ながら今はその情報はない。あとは、お前の運を祈ってるよ。


頑張って生きろよ。』




蓮次郎は、何度も何度も、ジョージのノートの最後のページを読み返した。


時折、前のページを開いては、帰還の方法のヒントぐらい書いていないか探したが、帰還について触れているのは最後のページだけだった。


蓮次郎は、静かにノートを閉じてカーズに返すと、みゆの頭を優しく撫でながら言った。


「みゆちゃん、今日は()()()()から、ここにお泊まりしよ」


「おうち、()()()()()の?」


帰らないのではなく、帰れないのだが、今はまだ蓮次郎はそれをみゆに言うつもりはなかった。


言う勇気がなかった。


さっきまでは異世界で暮らす方へ意識が行っていたが、みゆに現実を突きつけられて少し冷静になった今、帰れないという事実が重くなり、逆に受け止めきれなくなっていた。


「うん。今日は、このおじちゃんたちのお家にお泊まりさせてもらうんだよ」


30歳のカーズはともかく、25歳のミッツは見た目はアレだがおじちゃん扱いはちょっと失礼だ。日本語が理解できなくてよかったかもしれない。


それはさておき


「ヤダ、みゆおうちにかえりたい!!」


ついに、感情を爆発させたみゆは、大きな声で叫ぶ。


ここまでずっと我慢していたのだろう、不安な気持ち、ママに会いたい寂しさ、れんにいちゃんがいることで少しは和らいでいたのだろうが、見知らぬ人に囲まれている幼子の恐怖心は大人には計り知れない。


眉間に皺を寄せて、瞬き一つすれば涙が溢れそうに瞳を潤ませて、蓮次郎の服の裾をしっかり握っている。


こんな時どうしていいのか、蓮次郎にはわからない。


蓮次郎でなくとも、高校3年生の男子が、親戚の幼子を連れてたった2人きりで異世界に迷い込み、帰れなくなったことを幼子に納得させるなど、無理であろう。


「ごめんね、みゆちゃ…」


「やだ!!おうちにかえる!!」


優しく諭そうにも、感情的に叫ぶみゆ。


蓮次郎は狼狽えることしかできないかった。




蓮次郎が帰還の方法を探し、ジョージのノートで帰る方法がないと知ったことは、カーズらにも伝わっている。


そして、それをみゆに話したところ、帰りたいと騒ぎ出したのだろうことは、言っている言葉がわからなくとも、カーズたちが察するのは容易だった。


特に、母性を持つ女であるアリルが、荒れるみゆに手を差し伸べようとして近づく。


しかし、みゆは警戒の眼差しでアリルを睨むと、蓮次郎の陰に隠れてしまった。


「れんにいちゃん、おうちにかえりたい。ママのとこ、行きたい…うわぁ〜〜〜ん!!」


アリルに怯えたのか、みゆは蓮次郎にしがみついたまま、涙声で訴え、ついには号泣しだした。


蓮次郎は、どうしていいかわからなかった。






蓮次郎とみゆが居なくなった元の世界では、その日の夜、2人の捜索願いが出された。


2人の消息が最後に確認された公園の隅で、置き忘れられた蓮次郎の鞄と、瞬間接着剤でつけたと思われる5〜12枚の葉のクローバーが警察により発見された。


現場には、成分不明の紫の粉がそこかしこに薄く撒かれていたという。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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