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第2章【この世界に来たばかりなのに魔法を使いこなして申し訳ありません】4

第4話【魔法使い】




「光系って珍しいんでしょ?親父が聞いたことがあるのだって世渡り人の1人だけって、それ以外じゃ私しかいないって言ってたし。2人とも使えるなんて、どうなってんの!?」


レンとミーユが光魔法を使ったことに、同じ光魔法の使い手であるミルクは、驚きと興奮を抑えられない。


「どうだろう、希少属性とは言っても、そもそも魔法を使える人口自体が少ないはずだ。たまたま今のところ少数しかいないだけかもしれないぞ」


そんな妹に対し、冷静に切り返す兄カーズ。


カーズの言い分は最もだ。


世界中を旅した父ジョージですら、出会った世渡り人は僅か4人。故人も含め情報だけを知れた人数でも10数人しかいない。


その中で、最も古い記録は今から120年程前だというので、世渡り人達の子孫は100人〜200人程度と見積もっていいだろう。


もちろん、ジョージが情報を得ることができなかった世渡り人もいるはずだし、伝聞で伝わっているだけで本当かどうかわからない情報もある。また、魔法を使える者でも、自身の先祖が世渡り人かどうか知らない者もいる。


ミーユのように、幼い頃に転移したのなら、別の世界へ来たとは理解できなかった者もいたかもしれない。


それでも、世渡り人とその子孫の正確な数こそわからないが、この世界の人口に対し、決して多いわけではないことはわかる。



とは言ったものの



正確な世渡り人の情報や確率がどうのこうのは、今のミルクには関係ない。腑に落ちる様子もなく、1人でなにやら喚いていた。


女は理屈じゃないのだ、気持ちなのだ。


きっと、自分がレアな存在であることがちょっとした自慢だったのだろう。それが突然降って湧いた世渡り人の兄妹が、2人とも光魔法をサラッと使えたのだ。軽めのパニックを起こしていても仕方ない。


レンとミーユは兄妹ではないが。




その後、気を取り直して八属性を全て試したところ、レンは火、土、光の3属性で、ミーユは風、光に加え、水、雷、凍のなんと5つも属性を持っていた。


「5属性なんて、親父の話でも聞いたことないぞ」


ミッツが髭面を震わせて言う。


「しかも2人とも、希少属性の光魔法が使えて…」


同じくカーズも細面を歪ませて言う。


「なんか、私達凄い子たちと出会っちゃったのかな」


ミルクは目の前で起こっている出来事を、どこか遠くの世界の話として感じているように、気の抜けた顔で呟く。


『れんにいちゃん、ねむい』


で、当の本人たちはというと


カーズらの会話が聞き取れないため、ひと通り魔法を使ったそのままで、何をするでもなく立ちすくむレンと


立ったままフラフラと頭を揺らし、片手は目をこすりながら、もう片手はレンの服の裾を掴むミーユ。


『ちょっと疲れたね。僕もなんか力が抜けちゃったみたいな感じするよ』


そう言いながらレンがミーユを抱っこすると、ミーユはすぐに眠ってしまった。


その様子を見て、カーズとアリルが何やら相談するように二言三言交わすと、アリルが家の中へと入って行き、ミルクがそれについて行った。


「魔力を使いすぎたのだろう。レンも一緒に少し休むといい」


と、カーズ。


家を指差し、眠るジェスチャーをしたので、レンもカーズの言いたい事がわかり、ミーユを抱いたまま家へと戻った。




「なぁ、兄貴。この先どうするつもりだ?ちょっと俺たちでは重荷になるかもしれんぞ」


「それは、マーサーとアークが来てから考えよう。元々今日はその予定で全員を呼んであるんだ。むしろその前にこれだけのものが見れて良かったと思うよ、俺は」


ミーユを抱えて家に入って行くレンを視線で見送り、ミッツは少し真剣な面持ちで兄カーズに言う。


カーズは、弟の言わんとしているところを察したのか、冷静に返す。


「ああ、そうだな。そう考えればいいか」


兄の言葉に納得はした様子だが、まだ表情は崩さないミッツ。


そして、そんな弟の言いたいことを察していたカーズは、その核心に迫る。


「お前が思ってんのはアレだろ、この前村の若い衆が言ってた…」


「“魔法使い狩り” は、俺たちも他人事じゃねぇからな」



“魔法使い狩り”



彼ら自身もその対象になるが、何も知らずにこの世界へやって来たあの2人も、魔法が使えるとわかってしまった以上、放置するわけには行かなくなってしまった。


もっとも、彼らの父であるジョージの遺言で、世渡り人、特に “ニホンジン” を見つけたら保護しろと言われているので、そうでなくても匿うつもりはあったが、その重みが変わって来るのだ。


彼らは、自衛も考えながら、2人の保護をしなくてはならない現状を、重く受け止めていた。




「おーい、カーズ兄ぃー!!ミッツ兄ぃー!!」


カーズとミッツが話しているところへ、2人を呼ぶ、どこか軽い調子の声が響く。


2人がその声の方、農園の広がる西の方へと目を向けると、対照的な2人の若者の姿が見えた。


大きく手を振りながら小走りする、どこか軽いノリを感じるのが、ミッツと似た赤茶けた髪の三男マーサー。


その後ろからついて来るように歩く、カーズと同じ黒髪で仏頂面をした四男アーク。


2人とも、体型はカーズとそう変わらない感じの、やや痩せ型だ。


「あれ?ニホンジンは?」


着くなり辺りをキョロキョロして、ニホンジンらしき姿が見当たらず兄たちに問いかける三男マーサー。


「ああ、今家のなかで寝てる」


応えるのは次男の熊男ミッツ。


「は?まだ寝てんの?」


「さっきまでここで魔法の検証をしていたのでな、魔力の使いすぎで休んでる」


もうすぐ昼になるというのに未だに寝ているのかと驚くマーサーに、カーズが今あったことを簡潔に説明する。


「へー、魔法使えるんだ」


その説明に軽く答える三男マーサー。目の当たりにしたカーズ達はあれほど驚いたのに、マーサーはあまり重大に感じていないようだ。


四男アークは無表情でそのやりとりを聞いていた。


4人並ぶと、ミッツが飛び抜けて大きい他は、そう変わらない。マーサー、カーズ、アークの順で数センチずつ違う程度か。


体型も、全員が農業や狩りを生業としているので程よく引き締まっており、これもまたミッツのみが大柄だった。


彼らの母方の祖父が大柄なことから、ミッツだけがその血を色濃く引いたのだと、昔母親がよく言っていた。


その母親は、カーズが20歳になる少し前に、ジョージの浮気が原因で出て行ってしまったのだが。




世渡り人の2人が寝てしまったので、今後のことについて話し合いながら、全員でガルダ料理の準備をすることになった。


獲ってきた本人のミッツと、普段からよくミッツに付いて狩りに行くアークが、ガルダの腸抜きから、毛抜き、解体までを進める。


その間にアリルとミルクが他の食材の準備をして、カーズとマーサーは竃の用意をしていた。


ガルダは寒い季節であれば、数日屋外に吊るしてしっかり血を抜いた方が美味くなるのだが、今は季節も暖かいし、慣れた彼らにかかれば獲れてすぐのガルダでも美味しくいただける。


何より


「おし、じゃあアーク、頼む」


「ん」


出来上がったかまどの上に、ひと抱えほどある大きな石の塊が乗せてある。そこに四男アークが両手を当てて魔力を込める。


石は粘性の物質が自ら意思を持って動いているように、徐々に形を変えて深底の鍋のような形になった。


「出来たぞ」


「よしっ、じゃあ次は俺だな」


土魔法で石の形を変えたアークが、次男の熊男ミッツに声をかける。


応えたミッツが、アークが作った鍋に片手をかざし魔力を集中させると、その掌から水が現れ鍋へと注がれる。


「準備できたぞ、兄貴」


「おし、じゃあ火を付けるか」


そう言ってカーズは竃に、火炎放射のように魔法の火を当てる。


基本は、細かく切ったチップに火を付け、だんだん大きな薪へと火を移すように大きくしていくのだが、魔法を使えば丸太に直接着火することもできる。


最後は、より燃えやすいように三男マーサーが風魔法で風を送り、高い熱効率によって普通よりも数倍早く湯が沸く。


食材を順番に入れて味付けをすると、再びアークが鍋に手をかざす。


さすがに煮えたぎっている鍋なので、触れることはしないが。


アークの土魔法により再び形を変える石鍋は、高くなった縁がゆっくりと中心へと包み込むように動き、小柄なミルクの小指の先より小さな穴を残してほぼ密閉される。


圧力鍋の完成だ。


もちろん、この世界の知識ではない。


父ジョージより齎された異界の知識と、兄弟全員がそれぞれ属性の異なる魔法を扱うことができる彼らだからこそ、成せる技である。




「魔法使い狩り?」


そのまま玄関先での昼食となり、三男マーサーがガルダの圧力煮に貪りつきながら、カーズが言った話に反応する。


「ああ、少し前に村の若い衆が来て言ってたんだが、どうも “町” の方でそんな噂が立っているらしい」


「よくわかんねーな。魔法使いを狩って何をしようってんだ?」


マーサーの反応にカーズが返し、再びマーサーが問う。


「わからん。村の若い衆が言うにも、町の方でそんな噂が立っているから、俺たち兄弟も気を付けろってことらしい。それ以上のことは今はまだなにもわからん」


村の若い衆は、そのことを言うためだけに、わざわざ山を一つ越えた村から来てくれたというのだ。


言葉としての情報はそれだけだが、村の若い衆の行動から、高い信憑性と緊急性が伺える。


カーズ達もたまに町へ行くが、村の若い衆も定期的に村で採れた農作物を町へ持って行き、日用品や珍しい道具などと交換して貰ってくる。


そうやって、村の生活は潤い町は食料を確保する、ギブ&テイクの関係を築いている。


その時に、村の若い衆は “魔法使い狩り” の噂を聞いたそうだ。


「…サラとユキさんが心配だな」


四男アークが、煮汁を啜りながら呟く


「ああ、そうだな」


ミッツがチラッとカーズを見て、アークの呟きに応える。


「一応、その件も手紙には書くつもりだ。町に住んでいるユキさんなら何か知っているかもしれないしな」


ミッツの視線の意味をどう捉えたのかわからないが、カーズは町に住む知人にも、既に気を回していることを話す。




その後兄弟たちは、どちらにしても “魔法使い狩り” に関しては情報が少なすぎるので、また何かわかってからということにして、2人の世渡り人に関して話し合った。



2人の世渡り人、レンとミーユ。



昨日ミッツが森で保護し、今日魔法が使えることがわかり、そしてその魔法の威力がハンパではないこともわかった。


全部で8属性が確認されている魔法を、レンは3種、ミーユはなんと5種の属性持ちだということが判明した。


通常、世渡り人で2〜3種、世渡り人の子孫は基本1種の魔法を使えるという。5種の属性持ちは世渡り人を父に持つ彼ら兄弟妹でも聞いたことがない。


しかも、希少属性と言われる光属性を2人とも持っているのだ。


彼ら兄弟妹の存在も、この世界的に見れば十分希少なのだが、そんな彼らが驚くほど、レンとミーユは異常な存在であった。


更に


「レンだが、全力でやらせた火魔法と、他の光魔法、土魔法の威力がまるで違っていた。まるで試すようにそっと力を使っていたように感じる」


と、カーズが言う。つまり、カーズの見立てでは、レンは魔力をセーブしているように感じたそうだ。


「魔力のコントロールをしてたってこと?じゃあ、もう随分前から魔法を使えていたってこと?」


マーサーがそんな兄の見立てに見解を述べる。


「いつ魔法を身につけたのかわからないが、あの様子では他人に教わったのは初めてだろう。それに、言葉も習慣も全く馴染んでいない様子だった。考えられないが、この世界に来てからまだ数日のはずだ」


「え?ちょっと待って、じゃあ自分1人で魔法を覚えたってこと!?」


カーズは昨日と今日見ていた2人の様子から、まだこの世界に来て日が浅いはずだと言う。


それにマーサーが驚いた反応を示す。


「ニホンジンの世界には、魔法がないんじゃなかったのか?」


アークも、この世界に来てから日が浅い魔法のない世界から来たニホンジンが、どうやって魔法を知り得たのか謎のようだ。


「親父の話ではそうだったし、他の世渡り人も同じことを言っているらしいな」


つまり、カーズの見立てでは


魔法のない世界から突然この世界へ転移した少年が、その日か数日の内に自分で魔法という概念を見つけ、使用し、力の加減まで出来るようになっているというのだ。


そして、森で2人を見つけたミッツは


「俺が最初にあいつらを見つけたのは、魔物の森で人型の魔猫に襲われそうになっていた時だったんだが、俺は不自然な風を感じて、様子を見に行ったら2人が襲われそうになっていたんだ」


と、その時の様子を語る。


「最初は、あいつらの近くに他に魔法使いがいないか…それこそ、マーサー、お前が来ているんじゃないかと思ったぐらいだ。だが、2人以外に誰もいないし、魔猫以外の魔物もいなさそうだったし、あの時点で2人が魔法を使えていたのは間違いない」


「火魔法も、最初自分からやって見せたわ」


ミッツに続いてアリルが言う。


「木板に魔法を使ってる様子の絵を描いて、そのあと…そういえばあの時もとても小さな炎を出していたわ」


その時の様子を思い出し、実際にレンが魔力をコントロールしていたことに気付くアリル。


「なんてこった…」


そう呟いたマーサーの様子を、レンが見ていたらこう思っただろう。


『オーマイガッ、て言ってるみたい』

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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