召喚の儀式
敵の要塞を陥落させたカロラインは、敵の亜空間移送装置の作動で謎の光に包まれてしまう。果たして彼女の運命やいかに!
広い海洋に、幾つかの島が浮かんでいる。中でも、南方に一際大きな島がある。立憲君主国、シュタール王国の本島である。その島には、山を切り拓いて建てられた、アンチマジック・バリアの張られた堅牢な石造りの王城が聳え立っている。下方の港町を見下ろすその外観は、支配者の威厳を民衆に充分に知らしめていた。
夕暮れ時の王城のバルコニーで、一人の女性が港町を眺めている。
この王国の主、ジュディ・シュタール女王だ。
彼女は大きなヒップをバルコニーの椅子におろすと、ハイヒール を履いた長い脚を組み、更に豊満な胸の前で腕組みをし、両方の長い上下のまつ毛を重ねる。彼女の茶色の髪は、夕日でオレンジ色に染まっている。
長い時が経ち、夕日が地平線に隠れようとした時、彼女は口を開く。
「召喚の儀式か・・・」
「召喚の儀式」とは何か。それは去年に遡る。
王国の地下遺跡で、太古の資料を入手する。「異界古文書」と呼ぶことになったこの古文書は、所々解読が不能なところがあったものの、有益な記述があった。それは「魔神召喚術」である。
なんでも、魔神という圧倒的な力を誇る存在を召喚することの出来る術らしい。
必要な供物、杖の種類、術を行う際の気候等が細かく記されたそれは、魔族の侵攻に悩むこの国にとって、棚から牡丹餅であった。
魔族とは、人を超える身体能力を持つ人外の生命体のことで、ヒト型のもいれば、翼の生えたもの、龍の姿のもの、植物型のものまでいる。
人類と魔族の違いは、形態に限ったものではなかった。魔動(大気中の分子を操る上位超能力)を使えるか否かでもある。超能力と上位超能力の魔動の違いは、やはりその規模だろう。現在のところ、超能力は石を浮かべて飛ばす規模が精一杯なのに対し、魔動は掌から火炎放射をしたり、氷塊を作り出す、地を剥がしてひっくり返す大技まである。わかりやすく言うなら、超能力を発展させたのが魔動である。魔族は、人を超える身体能力に加え、魔動を使えるため厄介なのだ。
ちなみに、人間でも魔動を使用できるものは少数だが存在する。人でありながら魔動を使用できるその者らは昔より恐れられ、敬われ、この国では貴族や高級軍人といった支配階級にある。王族は特に魔動の力に長けており、現女王のジュディは、歴代国王の中でもトップレベルの魔動の実力を持つ。
夕食を済ませた彼女は、火炎魔動で沸かされた風呂に入り、その後、書斎で明日の儀式の段取りを確認するため、分厚い本に目を通していた。
「供物を全て揃え終えた後、私がイマジナリーステッキ(魔動を使用する際に使う道具の一種)を斜め66度の角度で月に向かい掲げ・・・」
「更に、供物一つ一つに・・・」
「薬草の液を含んだ水を貯めた水槽を・・・」
パタン!
こんなものでいいか?
疲れた彼女は本を閉じ、寝室に向かう。
豪華なベッドに横になった彼女は、明日の儀式に備えて深い眠りにつく。
翌日の深夜、召喚の儀式の為に山を削って造られた平地で、女王は儀式を執り行っていた。
平地には四角形の巨大な深い穴が掘られており、その中を薬草の汁を含んだ湧き水が満たしていて、その右奥には儀式用の、新築の屋敷が建てられている。供物は港町で半年に消費する食料が丁寧に、魔動を増幅する「魔動増幅文様」の上に置かれていて、その奥には一際大きな文様がかかれている。ここに魔神を召喚するのだ。
彼女は月の方に向かってステッキを掲げ、呪文を唱える。
「万物に宿る波動の精霊よ!我に血の盟約に基づき大いなる力を貸し与えよ!!」
更に呪文は続く。彼女はステッキを握る手に力を込め、はっきりとした口調で唱える。
「オーエス・ダブルユーハンドレットスリーヲセンタク・アイディー・ゼロゼロセブンゼット・バイオニンシキコード・スリーフォーフォー・シュタール・アタックモードサドウ・ウエポンコード・エススリーワン!」
この呪文が何を意味するのか、女王である彼女ですら知ら深くはない。魔動を使う者たちはステッキを用いるが、他の人間がステッキを持っても、魔動を使用することはできない。それは現在魔動を使える人間の祖先が、古の精霊と血の盟約を交わし、ステッキがその魔動発現の仲介役となっているのだとある学者は言うが、実際のところ、魔動自体が未だに未解明の部分が多いのだ。
バリバリバリバリバリバリ!
「魔動増幅文様」に、空は晴れているのにも関わらず雷が落ち、闇夜を切り裂く。そして眩しい光にあたり一面が包まれた。
武東・カロラインは、光に包まれた視界が徐々に晴れてゆくのを認識した。風が吹いて霧が晴れるかの様に、視界がクリアになる。
「は!?」
彼女は困惑した。先程まで要塞の上にいたのに、周りの様子がまるで変わっているのだ。
周りが高い木に囲まれているのを観る限り、ここは山を切り崩して作られた平地だろうか。大甲冑の足元には謎の紋様が円状にかかれており、魔法陣の様だ。その近くには、見慣れないが高級そうな服装の、背の高い女性が一人。遠くには、それを見守っているのか、体を縮めてこちらを警戒している、鎧を着た兵士が数名。
(一体どう言うこと?コイツらは何者よ!時代錯誤な装備なんかして、気でも狂ったのかしら!?)
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