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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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隠せど、暴け

「痒っ、痒いぃぃぃ〜〜〜。」


体をボリボリと掻く青年、ビクトルはヒョウからかゆみ止めを貰うとたっぷりと手に取り塗り塗りと体に塗りまくった。


「いつもすまねぇな、ヒョウ。」


「いえ、これぐらいのことなら。」


ビクトルは鮫肌で、アトピー持ちだ。だからこうやってヒョウが処方した薬をよく貰いに来てる。


「お前が来るまで毎日痒くて仕方なかったからな。」


「そりゃあ、良かったです。」


「ふぃー、さてと。仕事に戻るとするかな」ビクトルは肩をクルクルと回しながら気球の方に歩いていった。


ここは地下室。地下世界にある南の城の地下室だ。そこには秘密裏に気球開発に全力を注いでいる若者たちがいる。


その一人に、あのビクトルもいるのだ。

彼はただのアトピーではない、気球に乗るための台座や、布、そしてエンジンまでもを手掛けたものすごい職人アトピーなのだ。


「やぁ、お疲れ様みんな。」

ドアを開けたのはここの頭首、南だ。

職人たちは皆手を止めて、頭を深々と垂れた。

ヒョウもワンテンポ遅れてそれに続く。


「気球の出来はどうだい?」


「いい出来上がりです。そろそろ実験をしてもいい頃合いかも知れません。」


「そうかいそうかい!……それは、……ふぅ〜、嬉しいねぇ。」

感極まって出たため息に職人たちも思わず笑顔になる。


「あと数日で飛ばせるでしょう。」


「楽しみにしてるよ。」

ヒョウも火傷を負った職人の手を冷やしながら微笑を浮かべた。


(なんか、いいな。)

過酷な地下の世界にも関わらず、皆が一丸となって地上を目指す。


『大人の青春』のようでヒョウはドキドキした。



✱       ✱

その次の日、ヒョウはビクトルに呼ばれて地下室に向かった。


そこにあったのは、ボロボロになって壊れていた気球だった。


「………ひどい。」

誰か一体こんな事をしたのだろうか。

先に来ていた南の頭首は静かに皆に命令を出していた。


そしてヒョウの存在に気がづくと彼は駆け足で近づいてきた。


「ヒョウくん。ちょっと話があるんだ。」あまりの真剣な表情に生唾を飲み込みながらヒョウはコクリと頷いた。




「君は、誰かに気球に話したか?」


「え………。」


「いや、疑っている訳ではないんだ……確認しておきたいだけだ。」


「いえ、誰にも…………あ。」


そういったあとに、イザヤとの会話が瞬時に思い出した。


『「地上に出るんだろ?南との話でも出たんだけど………どんな方法で出るんだったっけ?確か……えーっと………。」


「気球だ。空気入れて浮く風船みたいなやつ。」


「そうそう、それだ。4文字なのになんか名前が覚えられないよな。」』



「…………あぁ。」


「えっと……ヒョウ君、まさか……。」


「イザヤが南さんからヒョウが地上に出ることを知ってる的な言われて……話してしまいました。……すいません!」


怒られる……いや、運悪ければ処される。ヒョウは必死に、頭を下げる。

南は……


「あぁ、西か。なんだ良かった。」


「え、お、おん……。」


思っていた反応と違って変な返事をしてしまった。


どうやら西の穴から気球を飛ばすためにイザヤには元々話す予定だったらしい。ヒョウが話してくれたおかげで手間が省けたと逆に褒めてくれた。

どこか誇らしい気持ちになる。


「でも、イザヤがやったっていう可能性は無きにしもあらずだから、確認しておかないと……。」


「………すいません。」


「いいよ、彼は詐欺師だからね。でも次は騙されちゃ駄目だよ?」


「……あの、こんなことしてしまった身で頼むのは本当に申し訳ないと思うんですけど。」


「なんだい?何でも言ってごらん?」


「イザヤが気球を壊したかどうか、俺に確かめさせてもらえませんか?」


自分の穴は自分で拭きます。


✱       ✱

彼との最後の別れからどうやっても西に行くのは難しかった。


気球の件で行くはずなのだが、ヒョウは純粋にイザヤと会う口実ができて嬉しかった。


どんな話をしようか。なんと言って声を掛けようか。想像するだけで胸が膨らむ。


連絡は入れておいたはずだが西の城に彼はいなかった。


ヒョウはカズからの情報を便りにあの西のスポットライトのある陽の光の場所に向かう。本当はショウや運び屋の少女とも会いたいが、生憎こちらには時間が限られているので、諦めることにした。


イザヤは、光が照らす柔らかい砂の上で寝っ転がっていた。

まるでヒョウのことを待っていたかのように。


「イザヤ。」

ヒョウは彼の顔を覗き込む。

寝ていたように目をつぶっていたからはパチリと目を開けると面白い物をみたかな笑みを浮かべた。


「まさかとは思ってたけど、マジで来たんだな。」


「……久しぶり。」 


「おう、久しぶりだな。」

彼は目を細め、ヒョウの髪をワシャワシャと撫でた。



✱      ✱



「お前……ちょっと背ぇ伸びたんじゃねぇの?」


「だね、君が小さく見えるよ。」


「うるせぇ。つかお前今いくつだ?身長伸びるってことはまだ未成年だろ?」


「……17か18ぐらいかと思うけど。忘れた。」


「ギヤハハ、ヒョウらしいな。」


「君はいくつなんだ?見た感じは俺と変わらないが。」


「……言っとくけどな、俺はアンタがガキくらいの時にはもう頭首になってんだぜ?」


「……こんな奴が年上なんて、世も末だな。」


「俺は年齢で偉ぶる奴は好きくないゾ?」 


「偉ぶってない、嘆いてるだけだ。」


「じゃあ、許そう。」


ヒョウも彼にならって隣に腰を下ろした。そしてさっそく本題に入る。


「………地上に行くための気球が何者かの手によって壊された。」


「………え、まじかよ。」


「南の頭首は気球の存在を知っていそうな奴に片っ端から聞いて回っているそうだ。」


「………つまり、俺だと?」彼の貼り付いた笑みからは表情を読み取れない。


「いや、俺はそう思っていない。半分はそれを証明するためにここに来た。」


「へ〜……、もう半分は?」疑ってんの?と言いたげな様子で彼は問う。


「君に会いに来た。」






「………それだけ?」


「それだけだ。」


イザヤはポカンと口を開けると、くすぐったそうに笑い始めた。


「アハっ……アハハハ!!律儀だなぁお前。絶対将来ハゲるぜ!?」


「………今モサモサだからいいんだよ。」


彼は笑い過ぎて出た涙を拭いながら空を見る。

ヒョウは静かに黙っていた。


「もし、俺の指示で気球を壊したって言ったらアンタは……怒る?」


「君に壊すメリットがあるとは思えない。」早く否定してほしいと願いで早口気味で言う。


イザヤは頭が切れる奴だ。

もし気球を壊してそれが南にバレてしまえば西と南の友好関係が壊れるに決まっている。(ただでさえ危ういのに)

それを南も分かっていて『彼じゃない』と言い切っているのだ。


「お前は昔、地上について話してくれたよな?美味い食い物に、怪我しても病気になってもすぐに治る技術があって、銃声と血に怯えて眠りにつくことはねぇ場所だって。」


「………あぁ。でも今はどうでもいいだろう?」

よく覚えているものだと思った。


「俺はね、アンタが羨ましいよ、ヒョウ。」


「イザヤ、そんな話をしてるんじゃない。君はやってない。そうなんだろう?」

「やった。俺がやった。」


嫌な汗が止まらない。ヒョウは彼がそんなことしないと分かっていた。分かっていたからこそ理屈で否定する。


「さっきも言ったようにそれをすると南との関係に亀裂が入るだろう?それに君は俺が地上に行くのを快く協力してくれた。役に立ったかは微妙だけど。でも本当に地上に行くのが羨ましいと思っているなら俺はここで生きていないだろう?」


「お前を会った時に引っ掛けたのを忘れたのか?お前らだけで地上に出ようったってそうは行かねぇんだよ。」


「…………。」


「それに俺はもうすぐ頭首替えをするんだ。十年間の約束だからな。『あいつ』も待ちくたびれているだろうし。」


「違う!!君は!そんか感情一つで動くやつじゃないだろうが!!」


つい、罵声じみた声が出てしまった。それでも彼は表情一つ変えない。


「ごめんな。」 


絶対違うと分かっているはずなのに、今のヒョウには何も言うことが出来なかった。


「………帰る。」

ヒョウは彼に立ち上がり、彼に背を向けた。



「ヒョウ。」


イザヤ声がする。


自然と立ち止まり、振り返る。


彼は美しい笑みを浮かべていた。


「何故君はすぐ笑顔を作るんだよ。」


何十回も何百回も何万回もそうしてきたかのように、芸術品な笑みで彼は笑う。


やめろよ、その笑顔、やめてくれよ、なんですぐ隠す。いつもそうだ。すぐその貼り付けた笑みで全部を隠すんだ。

 

イザヤは驚いた顔をして、また、自分が嫌がるような綺麗な笑みを作った。


「………っ。」


知っているのに。こんなことを言っても彼には伝わらないことが、彼には響かないことが、自分がそう言ってしまえば望まない事を嫌がらせのようにしてくるのは明白なのに。


ヒョウは顔を前に向け、あるき出す。もう前に向けるつもりはない。彼は何ともないような口調で話し出す。


「会うのは最後になりそうだから、最後に一つだけ聞きたい事があったんだ。」


「………。」


振り向かない。でも足は止まる。


「アンタは、俺の事好きか?」






(なんで……なんでこのタイミングで聞くんだろう。)


思わず足が止まる。

ほんっとタイミングの悪すぎる男だ。


彼はどういう顔をしているのだろうか、振り向かなければ分からない。でも今のヒョウはどうしても彼を許せなかった。


「嫌いだ。」


「……アハハッ、……やっぱりぃ?」


彼の声がする。


ヒョウは振り向かない。


再び歩きだす。

ヒョウはまっすぐと前を向き、こう言った。


「嫌いになりたいのに、好きだ。」


驚いた彼の声がする。でも振り返らない。

ヒョウにはやるべきことができたからだ。


ヒョウは違うと信じている。彼がやってないと思いたいのだ。だから、探す。


彼が嘘で隠すのなら、ヒョウは暴くだけだ。



全く、なんて面倒くさい奴を好きになってしまったのだろうか。


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