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彼は嘘を愛し過ぎている  作者: さもてん
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再会

イザヤは『ある依頼』を果たすためにここにいた。

だからこうしてつまらない大男達と一緒に待機しているのであった。


「……あのさぁ?もう少しまともな会話ないわけぇ?人と人との会話の保ちってコミュニケーションからなんだヨ?」

イザヤは沈黙に飽き飽きし、二人の男のうちの片方に話す。

もう三日間もコイツらと一緒だ。


「えっと……最近の情報なんスけど、花街で見かけた女がこりゃまた」


「あー…もういい。そうゆーのじゃねーから。」

聞く気になれなかったイザヤは理不尽に止めた。 

もう一人の、眼鏡をかけた大男は当然のように全て無視なので、こちらから話しかける気力も起きない。


理由は、棒国の面倒臭い人の部下だから。こりゃまた面倒臭い。しかも1番若いイザヤが『ここ』にいるのがどうも気に食わないらしい。


(俺は年齢だけで偉ぶる奴にゃなりたくないね。)


チラリと、もう眼鏡の大男の方を見る。

目を合わせるだけでレンズの奥からゴミを見るような目で自分をみてくる彼は、もう本当……好き。

冗談はそこまでにしておいて、そろそろ仕事を始めなくてはならない。


「んまぁ、雇われたからにはそれなりの仕事ぶりを見せないと、なっ。」

イザヤは二人の大男に指示をだす。


「お前は西に回ってってそのまま裏をかけ。その間眼鏡くんはまぁ、ちょっ~と危険だけど前線でバシバシやっといてくれるかなぁ。まぁ、これぐらいは仕方ないよな。」


「了解ッス。」「……。」


二人が見えなくなると、ため息をついた。


(あー…面倒くせぇ。)


仲間は10人(俺も含め)向こうは15人。そんな圧倒的不利な状況でイザヤ達は敵を散らさなくてはならなかった。

『ある事情』とはこれのことだ。

今日、突然東の軍が西に攻めきたのだ。これはこの地下の国でもどう考えても違法だ。

そこで急遽、西国がテキトーなギャングを雇って凌いでいます~という状況だ。

イザヤは頭の回転が速いので、指揮監督をしている。あの眼鏡くんもそれをプンスカ怒っていたに違いない。

若くて、賢く、そして綺麗顔をしている。

…そりゃあジェラシーされても仕方ない。


(でも1個おかしいのがさ。あの眼鏡も『東の軍』なんだよな。)


(わざわざ敵を討つ為に仲間を送り込むか?普通。)


あの眼鏡の男は西国と東国の重要な取引を円滑にする為に前から連れてこられた東のギャング内の一人なのだ。眼鏡君はこんな奇襲を知らないと言っていた。


(しかも眼鏡くんは東の下っ端じゃなくて頭首の側近。ギャングの位で言えば上の方の奴だ。)


そんな大事な奴らをこちらに奇襲を仕掛けるときに渡すだろうか。

そもそもとして、今の時期に攻撃を仕掛けるか。せっかくこれから東と西の利害が一致している取引を行おうとしているのに。


(いや……逆に考えて、裏切りを覚悟で俺達が寝ている内に眼鏡が東軍に色々情報を渡していた可能性がある。)


だが、それは不可能だ。西の頭首は客人でも警戒する。それはイザヤもよく知っている。なので24時間、交換体制で眼鏡君を見張っていたのだ。

そのときの彼に特に怪しい様子はなかった。

一応人手が足りないから、戦力にいれたのだ。本人もヤル気だったし。

だが、もし彼が向こう側の戦力で…もし、裏切ったら。


(…まぁ、予備線張ってるしいいか。)

イザヤ少しは思考し、そして結論を出す。

チラリと奥で待機しているスパイナーを見る。さすがは西だ。用意周到。全てはいい感じに事が運んでいる。

これは…『勝てる戦だ。』

あと少し踏ん張れば勝てるだろう。


(俺もここを踏ん張れば、タクサン金が貰えるしな。)


さて、何度指示を出して、どれくらい時間が経ったときだろうか。

呑気に考え事をしていたイザヤは、気の緩みからか、後ろから感じた気配に気づくのは少し遅すぎた。


「動くな。」


いきなり誰かに後ろから抱きつかれ、首筋に何かが当てられてた。突然の出来事に驚いたイザヤだが、何度も修羅場を乗り越えていた彼はすぐさま落ち着き、目だけ動かして当てられた物を確認する。

それは注射の針だった。


(おやおや…。)


イザヤはそれだけでこの人物を察した。



「ヤッホー、オヒサ?ヒョウちゃん。」


*    *

ヒョウは震える手を隠しながらイザヤの首筋に注射を当てる。時計を取り返しにきた。ただ、それは死ぬつもりで来たわけではない。生き残る気で来たのだ。


「話がある。」


「やだ、なぁに告白?」


「ついてこい。」

無視かよ、とイザヤは会ったときと変わらないような軽い態度を取る。


誰もいない倉庫の中でイザヤを椅子に座らせて、紐でくくりつける。

「…痛っ…もっと優しく結べよ。」


「…あ、ゴメ…」

「いや、なに謝ってんだよ。」


バカか?と言う目で見られ、ヒョウはまた

「ゴメン。」と繰り返した。

イザヤは初めて複雑そうな顔を見せた。


「…なんか、やっぱりアンタ苦手だわ。」 


「単刀直入に言う。時計を返してくれ。」

イザヤのペースに飲み込まれない為に、情けをかけないために、極力彼の話を無視する。


「……すてちったヨ?」


「捨ててない。君の仲間の一人から聞いた。」


ヒョウは表情を変えずに淡々と言う。


(全く、どこの裏切り者なのだろうか)とイザヤは呆れた。おいそれと見知らぬ奴に仲間の情報を渡すだろうか、普通。


「んで?それを渡さなかったら?俺はそのお注射で逝っちゃうわけ?」イザヤは表情を崩さず言う。


「そうだ。」


「…でもそれ麻酔だろう?」イザヤがヒョウの持っている注射を見てプププと笑う。


「違う。」

じゃあ、何が入ってるのさという感じにイザヤは肩をすくめた。


「トリカブト。君の仲間の一人が銃で撃たれていたんだ。それを手当てしてやった時に、全部聞いた。」


ヒョウは続ける。 

「時計…君の家にまだあるハズだ。どこにある?」服を上から触って確認したが、なかった。


「じゃあ逆に聞くぜ?俺が嘘の情報を教えてアンタに殺された時はどうするつもりだ?場所知っているのは俺だけなんだぜ?」


「探す。君が死んでも、探す。」

ヒョウは目を見開いた。せっかくここまで来たのだ。


「わぁ、こっわ~い。………でも別に時計なんざいらなくねぇか?目的は金か。」


「……君に教える義理は…」

「まさかだけど地上に未練でもあるのか?」


「…………。」

なんでこう、勘が鋭いのだろうか。


疑問が解けてスッキリしたの顔のイザヤは考えを揺らがせた。

「……でもそっかぁ。地上ねぇ……。俺も死にたくないしなぁ。…んー、分かったいいぜ。防護服の下にシャツに着込んでるからそのポケットの中だ。」

ヒョウは急いでイザヤの防護服の中の(どおりで見つからないはずだ)シャツを確認するとポケットには何やら固い物があった。それに手を伸ばそうとすると、


……ゴッ!


鈍い音が辺りに響き渡る。

ヒョウは痛みに後ろに後ずさった。

イザヤに頭で頭突きされたのだ。


「……~~ッ!」ヒョウは痛みをこらえ、覚悟をきめて注射器で刺そうとしたときには、彼は椅子からいなくなっていた。

後ろから気配がする。


「……!」


後ろを振り向いた時にはもう遅く、ヒョウを下敷きに押し倒される形でバタンと倒れてる。立場逆転だ。


「持ち物検査はしないとダメだぜ。ヒョウちゃん♡」


イザヤの手にはカッターの刃のようなものが握られていた。きっと何処かにかくしてヒモを切ったのだろう。



「1個イイコト教えてやるよ。」


ヒョウは抵抗しようと、動こうとするが、

注射器はイザヤが蹴飛ばして倉庫のはじにあり、首にはカッターの刃があたっていた。下手に動けない。


そしてイザヤは口を歪めて、言った。


「俺がウェストだよ。」


…ウェスト……ウェスト……ああ、かの危険な西のギャングの長…。


ウェスト……が、…イザ…ヤ…?


「嘘つけっ!」とつい大声を上げてしまった。


「嘘じゃない、俺嘘言った事ないもん。」


「嘘つけ。」


「本当だって。」


ヒョウは一瞬絶句してから

「……罪人はみんな家族でもなんでもなかったし、根がいい奴らでもなかった、君は親切心で動いて俺を助けたわけでもなかったし、案内役でもなかった。


………今までから考えてどこをどう信じろと?」と早口で恨み言のように言った。


イザヤは視線を明後日の方向に向ける。

そしてため息をついて、

「ま、信じなくてもいいけどな。」と言った。


「……じゃあいい。もし仮に君がそうだったとしたら、自分のことを自分で俺に警告していたと言うことになる。」


「そうだ。」

イザヤは得意げに笑った。

じっとりした視線で彼を睨み付けた。事実なら、自分を心配してくれているあの青年もやはり全て演技だったことが証明される。


「なにが容姿がいいから人を惹きつける、だ。」


「間違ってないだろう?」

 

「……………自分で言うか普通。」


「噂をそのまま伝えただけダヨー。」


イザヤは肩をすくめ、ヘラリと笑う。ヒョウは強がってはいるが内心とても焦っていた。

この状況も危ないのに、この男が《かの西のギャングの長》だと?


ヒョウはイザヤを見つけてから策を練っていた。ヒョウの見た感じではイザヤは西のギャングの雇われ兵。働きもせずにずっと突っ立っていたからけしてそれ以上高い位ではないと踏んでいた。なぜなら部下が周りにいなかったからだ。(大体権力がある奴は護衛をつける。)

でも実際は違った。

部下がいなかったのは『必要がなかったから』だ。

味方とのやり取りは全て味方が持っている笛一つで行い、指示は高い所にいる仲間に手振り一つで自分の居場所は突き止めさせない。

つまり、自分は絶対に襲われる心配はないと踏んで護衛なしで任務に挑んだのだ。

むしろ護衛がいない方が頭首だとバレにくく、狙われにくいらしい。


ヒョウにとって指揮官がいなくなって西の国が負けてしまうよりも時計の方が重要だった。だから笛が鳴り終わり、指示を受けた高い所にいる部下が見えなくなった所…イザヤが孤立した状態で攫ってきたのだが………。

イザヤがただの雇われ兵ならまだしも、ウェストとなると話は変わってくる。



(逃げるべきだろうか。)

交渉が炸裂した今は状況が不利だ。

ヒョウは時計を頭から切り離す事が出来ず、最後のチャンスだと思ってここにいるのだ。これで無理ならもうスッパリ諦めるつもりだった。命は懸けられない。

けれど、首に刃物があてられている。

この状況での逃走は無理だ。


(殺す……べきだろうか。)

ふと、そんな恐ろしい考えに至った…。

だって仕方がないではないか、死にたくないのだから。


イザヤはフッと真面目な顔になった。

「……俺には分かるゼ。アンタには俺を殺せない。」まるで心を読んだかのようなタイミングで彼は言った。


「…は。」


ヒョウは顔がこわばる。今、イザヤとヒョウがここでこうやっていることの意味が問われる話だった。


イザヤは続ける。


「殺している奴は匂いで分かる。俺もギャングだからな。どんなに洗っていても、血はかすかに臭うんだよ。でもアンタからはそれはしない。つまり、


…アンタはここに来るまで人を殺していない。」


ヒョウはブルッと体が震えた。

ヒョウにとって、イザヤは自分がここに来るまで何もしていないことを証言してくれているような物だったんだ。



でも実際は違う。

アンタには殺していない。だから俺を殺さない。殺せない。と言っているのだ。

つまり、イザヤは自分の勝利を確信していることを表している。


ヒョウの正直過ぎる性格を掴んだ上での合理的な推理だった。確かに、今のヒョウには無理だ。

遠くで聞こえる銃声でさえも震えてしまうのに、持てるハズなんてない。


(でも……昔の俺ならどうだ?)


ヒョウは考えた。全神経を頭に集中して、何か手助けになるような記憶を漁る。

クリーンな頭には当然ここ最近の事しか浮かんでこない。当たり前だ。

だが、ヒョウは頭から湯気が出るほど思い返そうとした。

何度も何度も、透明な過去の壁にぶち当たった。

 

一色 ヒョウ 


職業 医者


母 父 妹がいる。

(きっと地上で生きている。)


好物 何でも 


嫌いな物 アレルギー トリカブト(最近入ってきた)


どうでもいい事ばかりが浮かんでくる。

これじゃないんだ…。


(俺が今、ここで何も言えなかったら、俺は…きっと死ぬ。)


何度も何度も何度も、自分の得た最低限の情報から考える。

 

一色 ヒョウ 


職業 医者





……なんの?


(…あ。)

全身のうぶ毛が立つほどヒョウは大切な事を忘れていた。

そして今、それを思い出した。


いや……思い出してしまった。

 


「…………あーぁ…。最悪だ。」


思わず小さなため息交じりの声が外に出てしまった。イザヤは怪訝そうにヒョウを見つめる。


(この記憶が嘘なら、俺は死ぬ…。)


ヒョウは目をゆっくりと、しっかりと開けてイザヤを見た。

イザヤはニヤついた表情でヒョウを見た。


「西の頭首は他人に見られちゃならねぇんだ。悪いなヒョウ。」


そんな殺害宣告をお構いなしに、ヒョウは彼を見つめたまま片手でポケットから『アレ』を取り出した。


(ここからだ。)ヒョウは唇を噛みしめた。


そして

グサリッ……とイザヤに刺した。




イザヤが出てきた時の自分のテンション

ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ

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