1.戦闘中であっても変身タイムは邪魔が入らないものらしい。
はじめまして、かなやです。
初投稿なもので、至らない所が多々あります。
親切に助言、誤字脱字等の指摘をしていただける方がいらっしゃいましたら、ご連絡下さい。
今夜は月がいつも以上にデカい気がする。
ストロング系の缶チューハイを啜り、夜空を仰いだ。
社会人3年目。全てを投げ出したい衝動に駆られて、コンビニで買った缶チューハイを片手に公園のベンチに座り込んだ。
大学時代にバカやってハメを外した友人達は、いつの間にか大人になって付き合いも無くなり、皆が羨むような優良企業に就職した俺の手元に残ったのは過剰な量の仕事と、計算の合わない残業代。
このままこうして生きていくのだろうか。
趣味といえるものは、いつの間にか消え失せた。
学生の頃はあんなに熱中していたゲームも今やテレビの横に埃をかぶって転がっているだけで、去年の大掃除には手入れすらしなかった。
新しい事を始めようにも、気力と財力が追いつかない。
「もう何もしたくねぇよ。」
酔いが回って輪郭がぼやけてきた満月に向かって、アルコール度数9%の溜息を吐きながら呟いた。
子どもの頃、将来の夢は何かと聞かれて当時は何と答えただろうか。スポーツ選手?お笑い芸人?戦隊ヒーローとかにも憧れたなぁ。
日曜日の朝、親よりも早起きしてまだ放送時間のずっと前からテレビの前に張り付いて、ニュース見たがってる親父をよく困らせたっけ。
あの頃の俺が、あのか細い腕で悪党を退治できると信じてやまなかったあの頃の俺が、今の自分の姿を見たら何と言うだろうか。
カッコ悪いと言うのだろうか、悪党のアジトはちゃんと調べたのか?早く戦いに行かないのか?公園で酒飲んでる場合じゃないぞ!なんて言ってくるんだろうか。
ヒーロー、ヒーローねぇ。
「なれるもんならなりてぇよ。」
毎日自分を殺して会社に行って、上司の怒号に怯えて、媚び諂って、死んだように生きてる俺のどこがヒーローだ。
いかん、会社の事を考えると酔いが覚めてくる。缶の中に残ったチューハイを一気に呷ると、2本目のチューハイに手を伸ばした。
その刹那
「うぉっ!?」
夜風が強く全身を吹き付ける。急に吹き出した風は一向に止まず、先ほどまで辺りを照らしていた満月は厚い雲に覆われ、外灯の灯りだけとなった公園は、まるで別の場所に居るかのような錯覚さえさせた。
「なんか気味悪いな・・・」
轟々と吹き晒す風は街路樹を揺らし、ざわめかせる。異様な雰囲気に気圧され、いい加減帰ろうとベンチを立ち、帰り支度をする。
『・・・げてっ!』
ん?なんだ?風に混じって何か聞こえる。
『早く逃げてっ!!』
なんだ、誰かいるのか。
声のした方向に振り返ると、そこには1人の少女がいた。
しかもその少女、宙に浮いている。
いや、正確には飛んでいた。なにかを必死に叫びながら、俺に向かって。
「なっ!?」
理解が追いつかない。状況を理解しようとすればするほど体は固まり、空から少女が滑空してくると言う目の前の事実しか頭に入ってこない。
そんな一瞬で少女はもう目の前まで迫っていた。
「おわっ!?」
飛んできた勢いをそのままに少女は両手をいっぱいに伸ばし、俺を突き飛ばした。
「いってぇ・・・」
突然の出来事にうまく受け身が取れず、ぶつけた後頭部を押さえながら顔をあげると、俺を突き飛ばした少女は空中で静止していた。
黒い槍状の物に体を貫かれた状態で。
背中から鳩尾にかけて、少女を貫いている4〜5mほどの黒い槍のようなものは、先ほどまで俺が座っていたベンチにまで到達していた。
どこから飛んできたんだ、この槍は。この子が俺を突き飛ばしでなければ、アレが、俺に・・・?
「何なんだよこれ・・・」
空中で静止していた少女の体は、肉体を貫いた槍ごと、糸が切れた人形のようにボトリと地面に落ちた。
「おいっ!大丈夫か!」
思わず駆け寄る。
槍の突き刺さった傷口からは、どくどくと血が溢れ出しており、傷口を押さえても止めどなく流れる。
「き、救急車っ・・・」
慌ててスマホを取り出すが、血に濡れた手はガタガタと震え、うまく操作が出来ない。
「くそっ!くそっ!」
早く!早くしないと!
『助けたい?』
ハッとして辺りを見回す。少女の口は動いていない、そもそも息をしているのかすら怪しい。
「君はそこの女の子に助けられたんだ、助けたいと思うのが当然だよね」
「誰だ!?何処にいる!」
「君の前にいるよ?」
「え?」
足元から聞こえる。視線を下げるとそこには見た事のない生き物がちょこんと座っていた。
ぬいぐるみが喋っているのかと勘違いするような顔、頭部の長い耳が一見ウサギのようだが、ウサギには似つかわしくない、ネコかネズミのような長い尻尾が違和感を引き立て、その体は動物の毛並みとは思えない複雑な模様が、赤く全身を覆っていた。
「お前が喋ってるのか?」
「今は一刻を争う、あの子を助けたいなら力を貸してあげる。」
「力を貸す?」
「君はヒーローになりたいんじゃないの?記憶のログから読み取ったけど。」
さっきの独り言の事を言ってるのか?
「このままじゃ君はヒーローに助けられた一般市民Aじゃないか。」
「だったら何だってんだよ!この状況を説明してくれよ!早く救急車呼ばなきゃこいつ・・・」
「救急車なんか呼んだってこの子は助からないよ。怪我の話じゃない。[紡ぐ者]の呪いを受けてしまった。」
「紡ぐ物?」
「そうだ。詳しい説明は省くけど、君は彼女が飛んでいるのを見ただろう?彼女はただの人間ではない。魔法少女だ。」
「魔法少女?」
「そうだ。僕の魔力を彼女に与えて、魔法少女という形で戦ってもらってる。」
魔力を与える?ますます状況が飲み込めない。
「彼女のように宙を舞えたり、爆発を起こしたり科学の力では到底実現不可能な効果を生み出すエネルギー、それが魔力だ。」
「お前が何か力を与えてるっていうなら、それで彼女を治せないのか!?」
「無理だ。僕は供給源であって消費者ではない。ましてや消費者が無意識だと魔力を消費させることはできない。」
そう言うとピンクの生き物少しだけ俯いた。
「さぁ!君はどうするんだ、時間はもう無いぞ!彼女を助けるのか、助けないのか!」
全く意味が分からない。状況が把握できない。目の前で起こってる事が夢のような気がしてならない。
だけど、1つだけわかる事がある。
「助けたい。助けられたんだったら、迷惑かけた分、力になりたい。」
「よく言ってくれた!」
ピンクの生き物の雰囲気が変わった。声色は高らかになり、先程の魔法少女のように宙に浮き、赤いオーラのようなものを体に纏い始めた。
「そこにある傘は君のかい?」
「ん?あぁ。」
今朝、大雨が降るとニュースで言っていたのでコンビニで買った傘だ。結局降らなかったが。
「ちょうど良い、それを持ってて。」
「わかった。」
返事をして傘を手に取った途端、突然周りが強烈な緋色の閃光に包まれた。
夜に包まれた公園を、夕焼けのように明るく照らす。その光は自分の体から発しているものだと気付くのに、さほど時間はかからなかった。
「その傘が君の武器になる。大切なのはイメージと想いの強さ。自分は勝てると信じる事が強さに繋がる。」
そう言い終わると、発光が止まった。
発光していた体の変化は特に無く、強いて言うなら少し体が軽い気がする。そして、
「何だこれ?」
膝や踝、腰や肘と言った体の節々にフリルが施されたサポーターのようなものが巻きついていた。
「それは君の体の補強だ。何もかも急ごしらえだったから全身の補強は行えなかったが、それがあるだけでも手助けにはなる。」
「確かに少し体が軽い。」
フリフリが邪魔ではあるが。
「体に合ってよかった。そしてここからが本題だが・・・」
「これで彼女を治せるんだろ?」
「紡ぐ者を倒さなければいけない」
「は?」
「紡ぐ者はあそこにいる。彼女を貫いたのは、アレが放った〔紡ぎ手の糸屑〕と言われるモノ。」
闇夜の上空、なにか像のようなものが見える。女神像のようなものが。
「紡ぎ手の糸屑に刺されその呪いが全身に回ると、魔力回路を全て塞がれ、魔法を行使した瞬間、魔力回路がパンクして爆発する。」
「いや、戦うってなんなんだよ!傘がどうとか言ってたけど、あの槍投げてきた奴と戦うってのか!?」
「ヒーローになるんだろ?」
「無理だろ!どう考えても!!」
格闘技とかした事ないし、部活は学生の頃やってたけど、陸上だぞ?
「必用なのは格闘技の経験でも、技術でもない。イメージだ。」
「イメージ?」
「そう。今の君の体は、僕が大量に増設した魔力回路が張り巡らされている。」
人の体になんてことしてくれやがる。
「その魔力回路の廻りは君のイメージによって増幅する。空を飛びたいだとか武器を強くしたいという思いを形にするのが魔力だ。魔力回路がうまく機能すればする程、魔力は力を増す。」
「その魔力はどっから注入してんだよ。」
「僕が今も供給し続けてる、無線で。」
「Bluetoothかよ。」
「そう認識してもらって構わない。覚えて欲しいのは、お互いの距離が近ければ近いほど多くの魔力を供給できて、逆に遠ざかると供給が困難になる。」
そう言うと、ピンクの生き物は俺の肩にちょこんと乗った。
「何やってる、ウサギネズミ。」
「ウサギネズミ?何のことだい?」
「お前の事だよ、ウサギネズミ。変な寄生虫持ってそうだからさっさと降りろ。」
「まぁ、僕の事は何と呼んでもらっても構わないけど、君の肩に乗っているのはココが魔力の供給にベストな位置だからだよ。心配しなくても、戦闘の邪魔にはならないさ」
本当に戦うのか?そもそもどうやって攻撃すればいい?
「取り敢えずその傘投げてみれば?」
投げる、やってみるか。
届くかどうかは別として、槍投げの経験はある。その要領で・・・。
「ほっ!」
軽く投げてみた傘は手を離れた瞬間、放物線を描くどころか、空へと真っ直ぐ伸びて行き、さらに勢いを増していく。
「嘘だろ!?」
みるみるうちに傘は女神像に向かって加速し、遂には衝突した。
(ガンッ!!)
地上にいても聞こえるほどの衝撃音を響かせた傘は、先端をピッタリと女神像にくっつけて静止した。
そして、
(ドンッ!!)
「おわっ!?」
先程までただのビニール傘だったものは、赤い閃光を周囲に放つと、花火でもみた事ないくらいの勢いで爆発した。
「やるね、キミ。」
ウサギネズミの声は耳に入らず、只々唖然としていた。
「どうなっちまったんだ・・・俺。」
風で煙幕が流される。煙幕の先にいたのは、爆発を受けたにもかかわらず、損傷1つすら見受けられない女神像が、先ほどと変わらず宙に浮かんでる姿だった。
「やっぱりね、外からの衝撃ではまるで歯が立たないや。」
「マジかよ!どうやって倒すんだよこれ!」
「それより今はその傘で身を守って!」
女神像のへそ辺りの位置から、まるで四次元ポケットのように黒い槍がするするとその鋒を表す。
「どうなってんだよアレ!どうやって守るんだよ!傘なんて二本も持ってきてねーぞ!」
「さっきから質問が多いなキミは!!傘ならもう持ってるじゃないか!」
いつのまにか、俺の掌は先程と同じビニール傘を握っていた。
「キミの傘は魔力コストが極めて低い、幾らでも生成可能だ!さぁ早く!」
守るイメージ、守る・・・
何となく子どもの頃傘でチャンバラをした時のことを思い出し、傘を開く。
シールド!っつってな。
「本当にコレで防げるんだろうな!?」
「さっきの爆発を見てもまだ信じられないのかい!?」
ビニール傘なんかで人体を貫通するモノを防ぐなんて、想像がつかな過ぎる。
「・・・マズいぞ」
「どうした?」
空を見上げると、女神像の周囲には先程同様の槍が今度は大量に浮遊していた。その数は優に100本以上はあるだろう。
「信じられない・・・あそこまで高出力が可能なのか」
「何なんだあれ!どうすりゃいい!?」
「君のさっきの攻撃を相当の脅威と判断したんだ!確実に潰しにくる!」
紡ぎ手の糸屑は疎らに浮遊した状態から感覚を均等に空けて密集し、鋒をこちらへ向けた。
「くるぞ!」
まるで剣山のように、紡ぎ手の糸屑が一斉に放たれる。
「畜生!!」
怖い、逃げたい。今ならまだ避けられるかもしれない。そうだ、防ぐなんて不確実な事やめて、逃げてしまおう。この体なら可能にしてくれるはずだ。
しかし、少女はどうなる?自分を庇ってくれた少女を見捨てる?それがヒーローのやる事か?
「そうだ、ヒーローだ。」
怖い、逃げたい。気持ちは全く変わらないが、一つ思い出した。俺は今ヒーローなんだ。ヒーローはこんな所で逃げないし、負けねぇ。
畜生、怖えな。けど、やってやる。
「かかってこいやぁ!!」
叫ぶと同時に全身に力が廻るのが分かった。その力は傘の握る両手へと終着し、一瞬で傘の柄を握り潰した。
(ドウッ!!)
初めは、時間が止まったかと思った。風は止み、周囲から音が消え失せた。ウサギネズミが口を開くまで、俺は体を硬直させていた。
「いやぁ、思ってた以上に君は魔力との相性がいいみたいだ。」
「何が起こった?」
「君がイメージしたからこうなったんじゃないのかい?」
「いや、何をイメージしたのか、全く覚えてない。」
「見てみればわかるよ。」
空に女神像の姿は見えなかった。女神像や紡ぎ手の糸屑が存在していた場所には黒い塵のようなものが漂っているのが辛うじて見え、満月を覆っていた厚い雲にはポッカリと丸い穴が開き、そこから月明かりが真っ直ぐ自分を照らしていた。
「爆発的に作動した君の魔力回路は、傘を媒体にして一気に魔力を放出した。急ごしらえとはいえ、媒体を消し飛ばす程常識外れの出力で行使された魔力放出は槍や女神像を一瞬にして消しとばし、紡ぎ手の張った結界に大穴を開けた。直にこの結界は崩壊するだろう。よかったね、結界の中で。もし、結界なんて張ってなかったら次元を歪めてたよ、君。」
「なんで、そんな・・・」
「新米の魔法少女にしては、ちょっと張り切りすぎたね。」
「は?魔法少女?」
「そう、魔法少女。」
「ヒーローじゃないの?」
「魔法少女はヒーローに入るんじゃないの?」
何言ってんだ?このネコ野郎。ヒーローはヒーローだろうが。
「いや、そんな事は今はどうでもいい!」
彼女の治療が先決だ。
「あぁ、彼女の事かい?それなら心配には及ばない。」
「は?」
横たわる彼女の腹部から紡ぎ手の糸屑は消失し、空いた風穴は、まるで見えない誰かが高速で外科手術を行っているかのように、見る見るうちに塞がっていった。
「そういえば紹介がまだだったね。」
そういうとネコネズミは肩から降りると、傷が完治したばかりの少女の傍らに立ち、こう言った。
「僕の名前はにゅんぺぃ、そして彼女はアカリ。この街で魔法少女をやっている。」
「さっきから何なんだよ魔法少女って。」
「さっきから言ってるだろう。魔力を行使して戦う戦士の事だ。そして君には…おっと、そっちが限界だったか。」
「なにが限界だって?俺には何だって…言う……」
突如訪れる違和感、気分の悪さ。中断された会話を問い返しきる事はできず、むせ返るような感覚に思わず咳き込む。
口を押さえていた右手は、肺か何かの組織が混じった鮮血で真っ赤に染まっていた。
今回ばかりは流石にSAN値が持たず、そのまま意識が遠のいた。
どのくらいの投稿スピードが良いのか、まだ分かりかねていますが、勝手ながら自分の仕事の都合上、毎週1話くらいを目処に更新していけたらと思っております。