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根暗男の迎春誌  作者: 青色蛍光ペン
6/7

6:積み重ねられた違和感

永井の言葉を合図に、全員がじっと黒木に注目する。多分1番頭が切れる黒木の推理が1番期待されているのだろう。それをひしひしと感じながら、黒木は説明を始める。


「俺は、木山は多分、本気で川野に告白した、という結論に至った」


永井は即座にペンの蓋を開け、『本気の告白説』とホワイトボードに書き込む。


「木山はある日川野に一目惚れしてたんだと俺は考えてる。だけど木山みたいな奴がそんな簡単に川野に近付けるわけもなく、友人の高橋に相談した。高橋は木山のために川野の事を調べるべく、川野に近付くが、川野からすれば急にサッカー部副キャプテンのイケメンが絡んでくるようになったんだ。高橋の事をうっかり好きになっても不思議じゃない。そしてあの日、木山は高橋に背中を押されて告白する決心をして告白しに行ったが、川野はよりにもよって相談していた高橋が好きだった。もちろん木山はショックで落ち込んだだろう。だが、友人関係ってのは多分直接喧嘩でもしない限りはそう簡単に切れるものではない。だから未だに木山と高橋は友人関係を保てているし、この前ショッピングモールで高橋と川野を見かけた時、高橋が微妙に川野に距離を置いているように見えたのも納得が行く。友人が好きな相手なのだ。自然と気まずくなるんだろうな。…とりあえず、俺のはこれで全部だ」


「…つまり、木山君がダメ元で告白していた、というところから間違えてたって事ですか?」


「まぁ、そうなるな」


黒木達は最初から間違っていたのだ。木山だから本気で告白していたわけない、と全員が決め付けていたが、現実はそうじゃなかったのだ。それに、木山がダメ元で告白したものだと多分噂を聞いた全員がそう思っているため、あれはダメ元なんかではなく、本気で川野な事が好きだったから本気で告白して無惨にも振られました、だなんて噂が立てば、たちまち話題が掘り返されるだろう。それを嫌って木山は真実を隠していた。


「決まりだね。絶対それが正解だよ」


「俺もそれで納得だな。まぁ木山の事を考えて、この件は誰にも話すつもりはないけどな」


氷川も上月もこの推理が正しいと判断したらしい。だが、上月も話したが、木山の身を案じてこの件は誰にも話すべきではない。とりあえず、木山にも捜査は終わったがオカルト研究部だけの秘密にしておくと話さねばならない。それは明日にするとして、時計を見ると下校時刻ギリギリになっている。


「じゃ、今日は解散ですね」


永井の言葉を合図に、その日は解散となった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


翌日、昼休み。

木山に捜査終了を知らせるべく黒木はA組の前に来ていた。中の様子をちらりと見ると、木山と氷川が話しているのが目に入る。捜査は終わったというのに、熱心だな、と感心する。それにしても、よく木山とあんなに話せるな。俺だったら一瞬で追い払われるだろうな、と頭の中で苦笑いする。だけど氷川はまるで警戒されていない。まるで友人のごとく。


「いや、待て…」


突如、黒木の頭の中で警鐘が鳴り響く。氷川はもしかしたら元から木山と親しかったのではないか? そんな考えが頭をよぎる。仮に氷川が木山と友人関係では無かったとしても、流石に高橋と木山が友人関係である事ぐらいは分かっていたのではないだろうか? だとすれば氷川は木山と高橋の関係を隠したのだろうか。氷川は自分で言っていた通り、お世辞にもオカルト研究部に貢献したわけではないが、貢献する必要が無かったのだとしたら?さらに、氷川がオカルト研究部の協力関係になったのは確か木山にコンタクトを取った金曜日の後の月曜日。黒木と永井の話を聞いて興味を持ったと言うのも、A組とD組という離れたクラスで、しかも黒木と永井が時間について話していたのは主に教室だったというのに、その話をどうやって聞いたのだろうか?

氷川の存在を怪しいと一度思ってしまうと、様々な小さな違和感が噴水の如く出てくる。とっさに近くにいた生徒に声をかける。


「木山と氷川って仲良いのか?」


「え? 君誰…? あー、そうだな。去年の冬ぐらいから急に仲良くなったってクラスの奴らも不思議がってたな。多分木山の唯一の友達なんじゃね?」


「…ありがとう」


困惑する男子生徒の話を聞くとすぐに黒木は教室に駆け戻り、永井の席に向かう。


「永井、今日の部活は中止だ」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


夜、風呂から上がった黒木は勉強机の上でルーズリーフを眺めている。氷川は木山と元々仲が良かった。ならなぜ氷川は木山と他人のふりをしてわざわざオカルト研究部に紛れ込んだのだろうか。


「木山と氷川の仲がいい事がバレると都合が悪かったのか?」


つまり氷川はなんらかの形で木山の川野告白に絡んでいるのだろう。そして、仲良くなり始めたのは去年の冬から、という男子生徒の情報。木山が川野に告白したのも去年の冬。かなり大雑把ではあるが時期が一致している。なら、なぜ氷川は木山に近付いたのだろうか。黒木は男子なので女子の心境なんて分からないが、少なくとも黒木は木山に正直友人としても、恋人としても魅力を感じられない。ならば何か別の理由があって近付いたのではないだろうか?


「…高橋颯斗か」


消去法にはなるが高橋の名前がここで浮かび上がってくる。確か高橋もかなりモテるとか氷川が話していた気がする。とすれば氷川も高橋に近付こうと、高橋と仲のいい木山に近付いた。


「木山は氷川と高橋がくっつくのを手伝った…という事なのか?」


ならなぜ木山は川野に告白する必要があったのだろうか。ここまで来れば答えは簡単だ。


「高橋と川野は両想いだったのか…」


そして、木山は川野と付き合う事で高橋と川野の両思いの関係を断ち切ろうと試みた。多分これが事件の全容だろう。ほとんどの条件をクリアできているし、木山が想像よりも優しすぎる、という違和感を除けばほぼ完璧と言っても間違い無いだろう。だが、氷川と一緒に下校した時の彼女が木山が優しいと静かに肯定したのを踏まえると、多分木山は本当に自らの高校生活を懸けて川野と高橋を引き離そうとした、という事だろうか。


「…なんというか、凄まじい人間ドラマだなこれは」


改めて自分の推理を振り返り、ため息をつく黒木。この推理通りだとすれば、木山は壮絶な冬を過ごしたという事になる。そして、木山の手口にも感心する。まさか重要人物をわざわざこちらの味方につけるとは。それこそ映画とか小説の頭脳派の犯人がやる手口ではないか。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


翌日の土曜日、午後3時過ぎ。

木山は氷川に呼び出されてショッピングモールのフードコートに来ていた。目の前でドーナツを幸せそうに頬張る氷川を頬杖をつきながら眺めていた木山だったが、目的もなく呼び出されたため、少しばかり不機嫌な様子である。


「あのなぁ、そろそろ俺がここにいる理由を話して欲しいんだが」


「理由ならもうすぐ分かるよ。あ、きたきた! みんな〜、こっちだよ〜!」


突然立ち上がって誰かに手を振り始める氷川。何事かと氷川の向く方向に視線を向けると、そこにはオカルト研究部の姿があった。黒木、永井、上月の3人は真っ直ぐに氷川達の席に向かって進み、そのまま氷川達の席に座ってしまう。


「…氷川、これはどういう事か説明してもらえればありがたいんだが」


「ごめんね。黒木君達、思ってた以上に鋭くて…」


申し訳なさそうに謝る氷川。まさか全部バレたという事か? いや、流石にそれはないだろう、と木山は自分に言い聞かせる。氷川や高橋ならともかく、こんな赤の他人に木山の捻くれた性格や行動が読み取れるはずがない。

一方、黒木に連れてこられた永井と上月も困惑しているようだ。


「おい黒木、別に俺達まで来る必要あったのか?」


「そうですよ。もう全部分かったんですから、あとは黒木君が捜査が終わった事を木山君に言いに行くだけって…」


「いや、あれは真実じゃない。…だから別の答えを作って答え合わせをしにきた。今から俺が話す物語の大半は憶測だ。だからこれが正解なのか否か木山に教えてほしい。もちろん正解にしろ不正解にしろ、これを公表するつもりは無いから安心してくれ」


どうやら彼らは仮に真実に辿り付いていたとしてもそれをネタに注目を浴びる事を目的に動いているわけではないらしい。まぁそれならとりあえず一旦は安心できるか、と木山は安心する。


「…ああ、なら話してくれ。ネクラマンサーがたどり着いた真実ってやつを」

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