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根暗男の迎春誌  作者: 青色蛍光ペン
5/7

5:アンサー・タイム

5月29日の放課後。

オカルト研究部による捜査は完全に停止してしまっている。というより手がかりが途絶えてしまったのだ。黒木の机の上にはルーズリーフが乗っているが、そこに書かれている内容は以前ショッピングモールのフードコートで書き足した時から変わっていない。


「はぁ、何も進まないですねぇ」


何度黒木が事件の内容をまとめても、木山が川野にダメ元で告白したが、川野は高橋の事が好きなため木山を振った。振られた木山は過剰に落ち込んだ。という別に普通と言われれば普通の内容に落ち着いてしまう。友達との罰ゲームで嫌々告白したという説、友人のために好きなタイプを聞きに行ったという説も浮上したが、いずれにしても木山に友達が存在する事が条件となる。そして木山には友達がいない。

依頼人の上月や協力者の氷川もちょくちょく部室に顔を出してはいるが、彼らには悪いがろくな情報が入ってこないのが現状だ。


「…完全に塞がってしまったな」


「なら捜査は終了、なのかな?」


「いや、まだ諦めきれませんよ!」


諦めの方向に向かけている黒木と氷川を永井が励ましていると、ドアが勢いよく開かれる。全員が注目する中、そこに立っていたのは息を切らした上月だ。


「はぁっ、はぁっ、朗報を持って来たぜ…!」


何か情報を掴んだらしいが、とりあえず椅子に座らせて落ち着かせる。また「木山の好物はコッペパンだ」みたいなどうでもいい情報の可能性も無くはないため全員あまり期待していない状態だが、上月の口から出て来たのは今黒木が最も欲しかった情報だ。


「木山には友達がいる。それも、サッカー部副キャプテンの高橋颯斗って奴だ。昼休みに話してるのを一回見かけてまさかな、とは思ったけど、その後も数日おきに教室で話してるのを見たんだ」


「その時の様子はどんな感じなんですか?」


「うーん、面倒くさそうに頬杖ついて話してるけど、嫌がったり追い払ったりしてる感じは特に無かったな」


「…なるほどな」


決まりだ。本当に木山と高橋は友人関係なのだろう。こればかりは上月の手柄だ。木山に一度も関わっていない上月だからこそ、変な行動を取らない限りは完全に警戒の外から木山の事を観察できたのだろう。


「うわぁ、私全然気付かなかったよ。多分その時大体トイレとか係の仕事で席外してたかも」


「確かに、氷川さんの姿はその時見かけなかったよ」


氷川と上月の言葉に、なるほど、と黒木は考え始める。ルーズリーフの木山と高橋の名前を線でつなぎ、友人、と書き加える。これで、木山は高橋と友人関係、川野は高橋に好意を寄せている、という風に人間関係が繋がった。


「とりあえずこれでかなり進展するだろうな。とりあえず一旦みんなじっくり考えるとして、明日また各自出した案を出し合おう」


「それがいいですね。たくさん仮説があった方がいろんな方向に考えれますし」


話はまとまり、その日は一旦解散となる。帰り道を歩いていると、氷川がぱたぱたと走り寄って来る。


「ごめんね、まさか木山君と高橋君がそんなに親しいって思ってなくて…」


「い、いや、別に構わない。氷川は悪くない。多分木山は警戒心が強いから、氷川の事もちょっと怪しんでたんだろ」


「うん…、それでも私、全然役に立ってないよね」


「そんな事はない。何かあった時にそれに気付けるのは氷川だけだからな」


「あはは、黒木君は優しいんだね…」


夕焼けに照らされる氷川の笑顔を見てドキッとしそうになるが、それを誤魔化すように目線を逸らして言葉を返す。


「そんな事ない。どうせあの木山って奴の方が根は優しかったりするんだ」


「…確かにそうかもね」


氷川は黒木の問いに対して、小さく答える。

あれ、今氷川さんに遠回しに罵倒された気がする。木山と一緒にするなとも言ったし、木山の方が優しいと自分で言った事ではあるし、疲れているのも分かるのだが、もう少し否定してくれてもいいじゃないですか。と言いたいがそこまで社交的ではない黒木は、そのまま何も話さずに氷川と道が分かれるまで静かに歩き続けた。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


氷川との気まずい帰り道を歩いた翌日の放課後。黒木、永井、上月、氷川の4人はそれぞれ一晩考えて仮説を立て、それを持って集まった。


「それでは、これより推理披露会を始めます!」


パチパチ、と永井の拍手がUFOの模型が新しく吊り下げられた部室に虚しく広がるが、お構いなしに永井は進行を続ける。


「まずは私から発表して、次に氷川さん、上月君、最後に黒木君、の順で考えた推理を話し合って、その後に皆さんが出した案を基に考え直します」


「おお、進行役っぽいね!」


いかにも会議っぽいな雰囲気を作り出す永井に、氷川は関心の声を上げる。永井は私こういうの得意なんですよ、とピースして見せるが、すぐに真面目な顔つきに戻り、ノートを取り出す。


「では、私が考えた推理を発表します。私は、『木山君が選ばれちゃった説』を推します」


百円ショップで急遽購入した小さなホワイトボードに『木山君が選ばれちゃった説』と書き込み、永井は話を続ける。


「木山君はある日、友達に『川野さんって俺の事どう思ってるのかな』と聞かれます。もちろん木山君には川野さんの事なんて何もわからないので、木山君が聞きに行くことにしました。だけど、川野さんは『木山君みたいな人が好き』と答えます。しかし、木山君は川野さんに微塵も興味がないし、友達が実質振られちゃったので、ひどく絶望しました」


そこで永井は話を終わる。「どうでしょうか」と黒木達を見ているところを見るにどうやらここまでらしい。確かにこれなら木山は告白とは別の目的を持って川野の元へ行った事になっているし、目的とは違った答えを返されて酷く落ち込んだという条件とも合っている。だが、やはり穴が多すぎると黒木は感じた。


「確かに、これなら一部の条件をクリアできるな。だけどそもそも川野が木山の事を好きだってことにすると、ショッピングモールで川野が高橋にベタベタしていた理由が無くなる。後、そもそも見た奴が振られたって言ってたんだから、多分木山は確実に川野に振られたんだろ」


「うーん、やっぱり難しいですねぇ」


「い、意外と厳しいんだね…」


黒木が思ってた以上に厳しいと感じたのか怖気付く氷川だが、小さく咳払いをして氷川の説を話し始める。


「私の説は、『罰ゲーム説』だよ」


ちらりと黒木が永井の方を向くと、永井はホワイトボードに『罰ゲーム説』と書き込む。


「木山君と高橋君は多分何かしらの勝負をしてたんだと思う。例えばジャンケンとか。それで木山君が負けて、罰ゲームで川野さんに告白って形になったんだと思う。そしてもし断られたらご飯奢り、みたいな条件付きでね。それで木山君は川野さんに告白しに行ったら、まさかの川野さんが好きだった相手は高橋君。おまけに振られちゃったからご飯も奢り。このダブルショックで激しく落ち込んだんじゃないかな?」


「…確かに一見無さそうな話ですけど、全部のつじつまが合ってる気がしますね」


これには黒木も同意見だ。氷川の説ならば、大体の条件に当てはまるし、激しく落ち込んでた事にも納得できる。だが、やはり穴はある。


「つじつまは合ってるかもしれないが、たかが罰ゲームでの告白でこの世の終わりみたいな落ち込み方をするとはやっぱり思えない。あと、そもそも木山がそんなゲームに乗るとは思えないな」


氷川の意見も一刀両断である。しかし確かに、と全員が納得する。一応全員木山と話したり木山を観察したりして来た人間ばかりだ。木山がジャンケンに負けて罰ゲームで告白、しかもそれに失敗したらさらに飯奢り。いくら高橋が友達でも、そんなはっちゃけたゲームに木山が乗るとは到底思えない。


「じゃ、次は上月君の番ですよ」


「ああ、俺の番だな。だけど悪いが俺のは永井さんのとほとんど同じなんだ。同じような意見が2つあってもややこしいし、俺のはボツって事で、黒木の案に行こうぜ」


「残念ですね、私上月君のも聞きたかったんですけど…。まぁ、そういう事なら仕方ないです。皆さんは大丈夫ですか?」


「私は大丈夫だよ」


「俺も異論は無い」


「では、最後に黒木君の推理を発表してもらいます。ではどうぞ!」

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