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根暗男の迎春誌  作者: 青色蛍光ペン
3/7

3:彼は拒絶し、彼女は歩み寄る

ネクタイの女子が昼休みにやって来た日から2日経つた金曜日。木山は今日もなんの変哲もない日常を過ごし、いつも通り帰宅しようと校門から出る。しかし、歩き出そうとしたところで左肩をポン、と叩かれる。後ろを振り向くと、真面目そうな男がそこに立っていた。誰だこいつ、と考えていると、男は肩から手を下ろすと突然話を始める。


「君が木山か」


「…あのネクタイの関係者か」


「鋭いな、D組の黒木だ。まぁ分かっているなら話は早い。あの告白について話を聞かせて貰えないか?」


自分の名前を知っている時点で以前昼休みにやってきたネクタイの女子の仲間だとすぐに分かった。どんだけ物好きなんだよ、と呆れ返りながら、かつて何回も繰り返してきた答えをそのまま男に向かって返す。


「だから、ダメ元で告白したって言ってるだろ。いい加減しつこいぞ」


これでまた追い払えるかと思っていた木山だが、目の前の男はまるでその答えを分かっていたかのような口ぶりで迷いなく言葉を返して来る。


「ダメ元なら、なんで木山は死ぬほど絶望した?」


「なっ……!」


どうやらこの目の前に立つ男、ただあの告白になんとなく興味が湧いて軽い気持ちで聞いて来ているわけでは無いのかもしれない。


「友達すらいない木山がダメ元で告白したのなら返される答えは分かっていたはずだ。だが木山はこの世の終わりみたいな顔をして絶望していたらしいな。まるで『こんなはずではなかったのに』とでも言うように。多分木山が思うこんなはず、ってやつは川野と付き合う事ではない。俺たちオカルト研究部はそう踏んでいる」


「…帰る」


どうやらオカルト研究部に所属しているらしい黒木の解説を聞くが、木山は何も返さずにそのまま立ち去る。黒木は追ってこないが、この短い会話で木山の中に小さな焦りが生まれる。木山が川野に告白した件はかなり話題になったらしいが、木山と氷川雪菜ひかわ ゆきなの件に関しては木山と高橋と氷川しか知らない。そしてそれは他の人物には決して知られてはならない。木山が氷川の事を好きだった、そして氷川もまた木山に好意を寄せている。そんな事が公になれば、好奇心の塊みたいな高校生達だ。木山はともかく、氷川の身が危なくなるかもしれない。

しかし、黒木と名乗ったあの男はどこまで分かったのだろうか。少なくとももうただダメ元で川野に告白しました、で通じる相手ではなさそうだ。ならば他の理由を考えるか? いや、それも違う。ここは、なんとしてでも最初の嘘を現実だと思い込ませて諦めさせる事が大事なのだろう。しかしどうやって?

黒木は多分頭が切れる人間だ。そう簡単には騙せない。考えに行き詰まりかけるが、黒木との会話を頭の中で反復するうちに閃く。

…いや、黒木は1つ見落としている事がある。そこを突くしかなさそうだな、と考えがまとまり、木山は安心したのかふぅ、と息を漏らす。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


土日を経て、月曜日の放課後。黒木と永井はオカルト研究部の部室でいつものように考えている。金曜日に木山と接触を図った黒木は、木山の反応を見るに絶対に何かあるという事は間違いないと確信している。やはり依頼人の上月と隣で考えている永井の勘は正しかったという事だ。


「しかし、本人から直接聞き出せない、となるとかなり厳しくなるな」


「怖いですよねぇ、木山君」


「怖い? それは間違いなく永井の聞き方が悪かったんだろうな」


「えー、私普通に質問したはずですよ?」


何も進展が無く、世間話に話がずれて行きそうになったところで、部室の扉がノックされる。上月が来たのだろうか。だとしたら何かしら進展があるかもしれないなと考えながらも扉を開くと、そこには小柄な女子が立っている。髪は明るい色のセミロング。不安そうな顔でその女子は話を始める。


「えーっと、私は氷川雪菜。昼休み教室通りかかったら面白そうな話してたから興味持っちゃって。私も仲間に入れて欲しいんだけど、ダメかな?」


「と、とりあえず入ってくれ」


黒木は永井以外の女子との会話が苦手だ。早く永井に繋げるべく、とりあえず氷川と名乗った女子を部室の中に招き入れる。色々聞いてくれ、と永井にパスを回し、自分の椅子を机から少し遠ざけた場所に置き、そこに腰掛ける。永井と氷川は黒木が使っていた机を挟むようにして対面する。


「私は永井春香です。…えーっと、仲間に入れて欲しいって言ってましたけど、どういう事ですか?」


「そのままの意味だよ。私、木山君とは一緒のクラスなんだけど、やっぱりあの木山君がいきなり別のクラスの子に告白しちゃうとは思えないんだよねぇ」


「普段の木山君を知ってるんですか?」


「話した事ほとんどないからあんまりわかんないけど、内気、って感じかな? 多分友達いないし、授業で当てられた時以外じゃ喋ってる所見た事ないかも」


確かに、と黒木は心の中で相槌を打つ。会ったのはあの一件だけだが、木山は多分「こちら側」なのだろう。黒木も、木山も友達を作らずに孤高を生きる。言うなれば陰気なぼっちってやつだ。


「それに、木山君の事クラスメイトなのに全然知らないから、これを機会に少しでも分かってあげればなって思ってる」


「それは素晴らしいですね! 仲間に入れてあげましょうよ、黒木君!」


「…そうだな。俺たちはもう完全に怪しまれてるからな。しかも同じクラスならあんまり警戒もされないだろうし」


「じゃ、決まりだね。私頑張って木山君の情報集めちゃうよ」


「怪しまれない程度にな」


あまり深く考える事なく、黒木は氷川を協力者として引き入れる事を許可する。しかし氷川の挙動は危なっかしい。張り切るのはいいが、いきなり突っ込んで行って警戒されるという一番最悪なパターンになりそうな気がする。だが心強い味方が増えたのもまた事実である。少し考えて、黒木は氷川に指示を飛ばす。


「とりあえず、木山とコンタクトを取ってもいいんだが、深追いはするな。普通に世間話を振るだけでいい。それで話しているうちになんでもいいから気になった事があれば報告してくれ。あと、俺たちと関わってるって事は何があっても言うなよ」


「うん、分かったよ」


「じゃ、氷川さんも入った事ですし、状況を整理しましょうか」


永井の言葉を合図に、全員黒木の机に集まる。そして黒木はルーズリーフを取り出して机の上に置き、そこに新しく氷川、と名前を書き足す。


「とりあえず、今のところ手がかりはほとんど無いと言ってもいいだろう。だから考えるべきは、なぜ木山が振られたときに過剰に落ち込んだのか、だ。だが、これに関しては考えても答えが出て来るようなものじゃない」


黒木は淡々と説明しながらルーズリーフの「木山絶望」と書かれた部分の隣に保留と書き加える。


「だから情報収集が鍵になりそうだが、木山には友達がいないため、木山以外からは情報を得るのは難しいだろう。つまり、氷川の得る情報を基に考察する必要がある、という事だ」


「あれ、もしかして私結構大事な役目背負ってる感じ?」


黒木の説明を聞いて氷川はおずおずと手を挙げながら質問する。まさか仲間に入れてもらってすぐにここまで重要な役目をやらされるとは想像もしていなかった、という心の声が表情に浮かび上がる。


「大丈夫ですよ。期限とか無いですから、気楽にやりましょう!」


「確かに焦りは禁物だ。うっかり俺たちに関わってる事を知られでもすれば、それこそ終わりだからな」


「分かった、焦らず頑張るよ!」


オカルト研究部のネクラマンサー、だなんて呼ばれている黒木と話すのは正直少し怖かったが、思ってたよりは良い人たちだな、と氷川は胸を撫で下ろす。

一方、木山と同じクラスの氷川が仲間に加わり、ようやく謎が動き始める手応えを感じている黒木だが、まだ黒木は木山の頭の回転の早さを舐めていた。

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