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根暗男の迎春誌  作者: 青色蛍光ペン
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1:謎は春風と共に

こんにちは、青色蛍光ペンと申します。

この小説は以前投稿した「やさぐれ男の越冬記」の続きを書いた作品となっております。短いお話ですのでもし宜しければそちらも読んで頂ければこの物語の内容も分かりやすくなると思いますので、是非一度目を通してみてください!

春。それは始まりの季節である。高校に入学したり、高校を卒業したり、学年が上がったり。それらのイベントは大体春に行われる。何故1月ではなくわざわざ4月に行うのか。それは少なくともこの春高校2年になる黒木拓真くろき たくまには分からない。桜が春に咲くからなのか、それとも年越しは忙しいからなのか。どんな理由があるのかは知らないが、黒木はあまりこの季節が好きではない。一見入学はおめでたいイベントに思えるが、友達を作ったり、部活に入って頼れる先輩を作ったり。それに必死にならなければならないのもまたこの春という季節である。

そして、黒木はそれらに失敗した人間の1人だ。友達はできず、入る部活も間違えたらしい。

黒木が入部したのはオカルト研究部だ。部員は少ない方が深い関係にもなれると踏んで入ったが、結局先輩はほぼ活動せずにそのままほとんど話さないまま卒業してしまい、残されたのは黒木ともう1人、同じクラスの永井春香ながい はるかだ。ちらりと隣を見ると、永井はしきりにこちらに目線を向けてきている。紺色のロングヘアーと朱色のネクタイがトレードマーク(自称)である。黒木が通っている四季高校では女子の制服にはネクタイではなくリボンが付いているのだが、永井は頑なにネクタイを外そうとはしない。その性格は元気いっぱいの女の子、というのが1番当てはまるだろうか。しかし話す時はなぜかいつも敬語である。か弱い乙女、いや、か弱い男子である黒木がそんなヘンテコな人間相手に主導権を握れるはずもなく、いつの間にかオカルト研究部の活動内容は心霊現象、UFO、未確認生物などではなく、学校内で起こるおかしな現象を調査する、というものにすり替わってしまっている。


「何か面白いことないんですか?」


部室に漂う沈黙に痺れを切らしたのか、永井が口を開く。俺が読んでる本はかなり面白いぞ、なんて冗談を言えるほど社交的ではない黒木は、ゆっくりと本を閉じて永井の方を向く。


「無い。というかこの部活意味あるのかよ」


「ある分にはありますねぇ。そのうちきっとまた面白い事が起こると思いますよ」


先輩が部活を引退してから今日まで数ヶ月とあったが、ただ部室で本を読むだけの部活になりかけているのが現実だ。永井は「また」という言葉を使ったが、以前起こった「面白い事」というやつも正直黒木には微塵も面白さを感じられなかった。その内容は「消えたノートを探せ」というやつだ。冗談じゃない。このままだとただのお悩み相談部である。


「…このまま何も起こらなかったら、俺辞めるからな」


「ええっ、そんな事言わないで下さいよぉ」


きっぱりと言い放って再び本を開くと、永井が泣きついてくる。だからなんで敬語なんでこいつは。気持ち悪い、というのは流石にかわいそうだが、やはり一年経っても違和感が消えない。

それと同時に下校時刻を告げるチャイムが鳴り響く。ちょうど残り半分ほどまで読み進めた本を閉じ、カバンの中に放り込んでそのまま部室を出る。永井はそれにぴったりとついてくる。廊下を歩き、職員室に立ち寄って部室の鍵を返し、靴箱に向かう。こんな部活でも部室を所持している事がもうすでに奇跡だと毎日のように思う。校門を出ると、永井が律儀に挨拶してくる。


「では、また月曜日に会いましょう」


「そうだな。起こると良いな、面白いことってやつ」


「はい!」


黒木としてはそろそろ何かしら活動しないと部室を没収されかねないので言ってみただけだが、この一言をきっかけに大規模な謎解きが起ころうとしていることを黒木はまだ知らない。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


四季高校のクラス分けはAB組が理系、CD組が文系となっており、それぞれ成績が上位の者がA組とC組に集められる。そして基本的にクラス替えは無いため、1年生の時点で3年間共に過ごすクラスメイトが確定するのだ。別に勉強が苦手では無いが、クラス分けのための入学試験はやる気が起きなかったため黒木は2年D組だ。しかし、毎回試験は本気で臨むため成績自体はC組の上位生徒に引けを取らない。また、いつも本を読んでおり、おまけにオカルト研究部に所属しているためか、黒木は2年生の中で「ネクラマンサー」なんて呼ばれている。


「黒木君起きてください! 部活行きますよ!」


ゆさゆさと乱暴に揺らされて目を覚ます。どうやらホームルームが終わったらしく、みんなぞろぞろと部活しに行ったり帰宅したりで教室から出て行っている。授業と読書を繰り返す学校生活は別に悪くは無いが、目が疲れるので黒木はいつもホームルームを居眠りして過ごしている。しかし永井はそんな事情お構いなしに黒木を揺さぶり続ける。


「…分かった、分かったから。頼むから揺らさないでくれ」


「事件ですよ、事件!」


しきりに事件と叫ぶ永井に半分引きずられるように部室に向かい、数分ほど経つと部室の扉がノックされる。はいはーい、と永井は扉に小走りで向かい、ゆっくりと扉を開く。そこには、なんというか地味な男が立っていた。とっさに黒木はその男のタイプを考察する。髪は黒で文字通り黒木と同じような普通の髪型をしている。制服を着崩しているわけでもないため、多分真面目な性格なのだろうかと考えかけるが、彼の緊張の中に混じる抑えきれない好奇心を表情から読み取ると、永井と同じタイプか、と小さくため息を漏らす。


「この人が事件を持ってきてくれた上月風馬うえつき ふうま君です」


「よろしくな」


笑みを浮かべて挨拶をしてくるところを見る限り、多分黒木よりははるかに社交的な性格なのだろう。よろしく、と小さく挨拶し返すと、2人は黒木が座っている机に椅子を持って行き、腰掛ける。オカルト研究部の部室には教室にあるような机が2つだけあり、それを1つずつ黒木と永井で使っているのだ。そしてこうした話し合いの時だけ黒木の机に集まるようにしている。というか黒木が動かないから自然とそうなってしまった。

きょろきょろと周囲を見渡し、「オカルト研究部って割にはなんも無いんだな」とやや失礼な感想を述べていた上月だが、全員が椅子に座ると持ってきた事件とやらについて話し始める。


「まず最初になんだけど、木山蓮きやま れんって人は知ってるか?」


突然出てきた人物名に、永井はコクリと頷くが、黒木は首を横に振る。


「誰だそれ。俺あんまりテレビとか見ないから有名人とか分からないんだ」


「いや、有名人ではないですよ。確か去年の冬に川野咲かわの さきさんに告白したって人ですよね」


「そうだ。俺が真実を明かしたい事件もそれに関係する。というかそれがその事件なんだ」


いまいち黒木は話について行けていない。とりあえず、その木山という人物は去年の冬に川野という人物に告白したらしい。不意にあ、と黒木は思い出す。確か去年の冬に永井が川野に告白した人物がいるらしい、みたいなことを言っていたような気がする。その時は対して興味が無かったため「それはすごいな」と1ミリも思っていない感想を適当に述べただけだったが、今回のも多分それで間違い無いだろう。

しかし、告白するだけで事件にまで祭り上げられるなんて、その木山とかいう奴はかわいそうだなとつくづく思う。それともその川野とかいう奴は人間国宝か何かなのだろうか。それか触れてはいけない禁忌の存在なのだろうか。気になった黒木は、上月に質問を投げかける。


「別に告白するぐらい良いだろ。それともなんだ、川野咲ってのはそんなに凄い奴なのか?」


「いや、…まぁ凄いのは凄いか。成績優秀で優しくて可愛くてサッカー部のマネージャーやってるらしい」


「凄まじくハイスペックなんだなそいつは。それでも別に告白するぐらい良いだろ」


「いや、問題は木山のほうにあるんだ。木山はいつも教室の隅で1人で本読んでるような奴らしい。おまけに木山はB組、川野はA組だ。接点は無いと思う」


「…なるほどな。確かに接点ない女子にいきなり告白ってのは妙だな」


チャラい男ならやりかねないかもしれないが、話を聞く限りその木山という男は多分黒木と同じようなタイプなのだろう。そういうタイプの人間は、もし仮に気になっている女子がいたとしてもそもそも告白すらしないと思う。


「凄いです! 黒木君、やっぱりこれは事件の匂いがしませんか?」


一連の話を聞いてテンションが上がる永井。それに流されるのは癪だが、最近暇ではあったし、なによりも何かしら活動しなければこの静かに部室を取られかねない。


「…分かった。考えてみる」


「期待してるぜ、ネクラマンサーさん」


やっぱりそのあだ名あったのか、というか誰だよつけた奴。センスのかけらもない。いきなり調子を崩されたような感覚を覚えつつも、この事件の調査を行うことを黒木は決意する。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

とりあえず1日1話、朝10時過ぎ更新をめどに連載していきます。前作同様そこまで長い物語にはならないと思いますので、是非ついて来て頂ければ幸いです。ではまた次回お会いしましょう。

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