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日常の壊れる音

初投稿です。

まだまだ未熟ですが学校と両立して投稿していきたいと思ってます。

何卒宜しくお願い致します。

「好きです!付き合ってください!」


 なにこれ。


 事の発端は下校時刻の6時にまでさかのぼる。

 帰ろうと机にかかっかているかばんを手に取り、教室を出ようとした。


 別にそこまではよかった。

 原因はこの女だ。


 高等部一年、ストレートの白く輝く純白の髪は腰まで伸び、足や腰は引き締まり、そこにしか栄養が行っていないかにようにも見える形の整った見事な胸。女子にしては身長が高めで、一般市民やモデルまで羨むような抜群のプロポーション。乾燥や肌荒れを知らない色白な肌にはシミ一つ見当たらない。それでいて、女子高生にしては大人びているようにも見える美しい目鼻立ち。思わず吸い込まれそうになる水晶のようなブルーハワイ色の瞳。どこから見ても、男性だけでなく女性までもが魅了されてしまうほどには美しい。


 しかも、


 スポーツ万能で勉強も出来ると聞く。まぁ体育で走っている彼女を見たときはほんとにすごかったな。特に胸とか。

 勉強面はテスト結果が貼り出されているのを見れば分かる。


 全教科百点。


 なにこいつ。

 全教科百点なんてあり得るの?あり得てるけど。


 今、そんな完璧少女が見ず知らずの男子高校生に告白している。


「好きです!付き合ってください!」


 なに言ってんの。なんで見ず知らずの相手に告白してるのかという純粋な疑問が頭に充満する。

 スポーツ万能な優秀なイケメンとかなんとか財閥の御曹司とかだったらわかる。


 でもなんで俺?


 スポーツができるわけでもないし金持ちなわけでもない。

 まぁ、顔は百歩譲って良いほうだとする。百歩譲って。

 俺にいいところがあるとするなら身長が少し高くて高一でバイクの免許があるくらいだ。いやほんとマジで。


 突然の出来事に脳が追い付いていないながらも、俺は脳内で必死に言葉を探し、傷つけないようにしながら断った。


「ごめん、むり」


 この二言で。

 いや、だってさ、罰ゲームで告白してきたとかの可能性のほうが高いじゃん?てかその可能性しか考えられないけども。


「……なんで、ですか?」


 不意に近づいてきて、上目遣いに涙を潤ませながら言ってきた佐々木に、不覚にもどきりとした。女の子の密着なんて童貞にとってはちょっとしたテロである。


(ちょ、胸当たってる!しかもめっちゃいい匂いするし!)


 彼女との急な密着で思考回路がバグってる。

 焦りながらも言葉を返そうとした時、密着した状態から離れた彼女が先に口を開いた。


「私あなたの事なら何でも知ってますよ?誕生日は十二月一日で好きな食べ物はオムライス。朝起きるのはいつも6時ですよね?自分の朝食と妹さんの朝食、それにお弁当もあなたが作ってるの知ってます。授業中寝るときはいつも二時間目か三時間目ですよね?それも前日にバイトがあれば必ず。家庭の環境に口出しはしませんが夜更かしはよくないですよ?体調も悪くなるし次の日にも響きます。バイトもほどほどにして帰宅を早めることをおすすめします。制服のズボンの右ポケットには家の鍵、左ポケットにはあなたのベットの下にある男子高校生ならだれでも持っているらしいアレな雑誌を隠すための箱の鍵が入ってますよね?妹さんにばれたくないのは分かれますが、それくらい堂々と読んでいたほうが男らし」

「だぁー!なんでお前がそれを知ってるんだよ!里奈にもばれてないはずなのに!」

「妹さんは普通に気づかれてましたよ?「お兄ちゃんも男の子だねぇ」って言ってましたし」

「な、里奈にはばれてないと思ったのに!しかもなんでお前が里奈と知り合いなんだよ。あいつは中等部だぞ?」

「私があなたを好きになってからまず妹さんと仲良くなろうって考えたんですよ。何度か一緒に遊んだことだってありますよ?遊んでいるときにあなたの話を聞きだしたんです」


 微笑みながら語る彼女に俺は得体のしれない恐怖を感じた。

 妹と仲良くするのは別にいいしむしろ仲良くしてやってほしい。だが、俺の話を聞きだすのは訳がわからない。なんでそこまで知っているんだという情報まで漏れてるし。頬を引きつらせながら彼女から距離をとりつつ、情報元である里奈にあとで問い詰めようと思った。


「なっ!そんな距離取らなくてもいいじゃないですか!戻ってきてくださいよ!むしろくっつきましょうよ!密着しましょうよ!」


 頬を赤らめてハァハァしながら言ってくる彼女に俺は畏怖していた。こんな美少女にも畏怖してしまう要素があるのだと思うと、世の中怖いものだらけだと思ってしまう。

 ただ今はこの少女の言動が単純に怖い。


 息をのみ、いまだに震えている唇で恐る恐る尋ねた。


「な、なんで俺を好きになったんだ?」


 すると彼女は薄ら笑いをうかべてはいるが目から光を失い、ほんのり寂しげな表情で言った。


「……やっぱり、覚えてませんか?」


 必死で過去を思い出していく。

 俺何かしたか?                


 何かしたかといえば、中等部の頃に足の届く学校のプールで溺れたという素晴らしくダサい思いでしかない。あの時の俺は何を思ったのか泳げもしないのにプールに飛び込んでいたのだ。


 そんな恥ずかしい思い出を隠すように答える。


「…すまん、分からないな」

「そうですか。……私、中等部の頃にプールで溺れかけたことがあるんですよ」


 おっと、これは。


 ふと溺れた時の記憶が脳裏をよぎる。


(……確か、あの時誰かを助けようとして飛び込んだような)


 助けようとした人が男だったのか女だったのかも覚えていない。ただあの時は助けなければいけない、見捨ててはいけないという思いが強く、自分が泳げないことも忘れてプールに飛び込んでいた。ただ手足をばたつかせて溺れている人に向かっていったが、たどり着く前に撃沈。

 そのあと溺れていた人は、強い思いとは裏腹にあっけなく溺れた俺とともに、近くにいた先生に救助された。俺の起こした行動とは、ただ救助を必要とする人数を増やして先生の手間を増やしただけであった。

 だっさ、ほんとに。

 

 まぁ別に助けようとしたのが彼女だとは限らない。

 結局、助けたのは俺ではなく先生であるのだし、彼女が覚えているはずもないと感じた。


 でも、仮に助けようとしていた人が彼女だったのなら。ありもしない考えが脳内を駆け巡る。

 まぁ仮にそうであったとしても俺の平穏な日常に天災が訪れるのはあってはならない。


「私、その時足がつっていたので水面上に顔を出すのもやっとだったんですよ……。でも、そんな私を一番最初に見つけて、助けに飛び込んできてくれたのが七瀬さん、あなただったんですよ…………私なんかを溺れてまで助けようとしてくれた人がいるって思ったら本当にうれしくて……」


 いや、まじかよ。

 さっきまで俺が俺を卑下してたしてたのはなんだったのだろうか。ほんとに助けようとしていた人が彼女だったという思いもしなかったことが耳に入る。


「いや、でも結局助けたの俺じゃないだろ。俺は助けに行ったけど結局溺れたただのダサい奴なんだが……」


 なぜまた自分のこと卑下しているのかという疑問が浮かぶ。好意くらいおとなしく受け取るべきなのかもしれない。

 でも俺は、自分の日常が侵されるのだけは何とか阻止しなければならない。自分の唯一の安らぎの場に俺以外は必要ない。誰にも干渉されず、誰にも指図されない。そんな平穏な日常だけは絶対に守る。

 ただのわがままなのかもしれないが、俺の日常に他人が入ってくるのがただ許せなかった。自分しかいない、ストレスを感じない、そんな日常を求めている。


「ダサくなんてないです!」


 すごい剣幕で訴える彼女の姿勢に思わず一歩後ずさる。


「自分が死んでしまうかもしれない環境に他人の命を救うために行く人がダサいなんてはずがないです!」


 普段の彼女からは見受けられない表情に、俺は驚きを隠せずにはいられなかった。いや、他人からこんな評価をされて驚いていたのかもしれないが。


「い、いやそんな大袈裟な」


 微妙にどもりながら返した。

 我ながらダサい。


 それでも彼女は必死に訴えてくる。


「人間は30㎝の浅い川でも溺れるんですよ?それに泳げないならなおさらです!……とにかくそんな勇敢な人がダサいなんてはずがありません!」

「お、おう。……でも、俺はお前と付き合うことはできない。俺は何もないこの日常が好きだし落ち着くんだ……それに俺はお前の事を何も知らないし俺の私生活から秘密まで知っているからぶっちゃけ軽い恐怖心すら抱いてる。俺の日常に他人ていう存在は里奈だけでいい。それ以上いると崩壊する。てか今絶賛崩壊中。……こんな変な人間じゃなくてもっと良いやつを好きになったほうがいいぞ?今もこうやってお前の気持ちを自分のために踏みにじってるような人間を好きにならないほうがいい」


 うつむきながら聞いていた彼女が、しばらくして顔を上げた。

 泣いていたのか目じりは赤く、瞳もうっすらと濡れているのが分かる。泣かせた、そんな罪悪感が俺を包み込む。


「……それでも……それでも私はあなたが好きです。あなたが平穏な日常を望むのなら、私もその平穏な日常を作るのに協力します」

「いや、話聞いてたか?はっきり言って里奈以外の人は俺の日常に必要ないんだよ。協力するならなるべく俺にかかわらないでくれ。それが協力になるから」


 ここまで言われてもなお拒絶しようとする自分に、さらに重い罪悪感を感じる。


「いえ!私がいるのが当たり前!それを日常にすれば問題ないでしょう?」


 それでも根気強く干渉してきた彼女に俺は押し負けてしまった。この日一の笑顔で言ってくる彼女を拒否してもだめだと察した俺は、「付き合うのは無理だが話す程度なら」と言ってしまったのだ。


 そういうと彼女は「やったー!」と飛び上がって喜んでいた。喜んでいる顔はとても愛らしく、それと同時に俺に許可されたので安心したのか、どこか安堵につつまれたような表情をしている。飛んだ時に、スカートの中の白い布が見えていたのと、制服の上からでもわかる大きな果実二つが揺れていたのはまた別の話。


「…じゃあ俺は帰るから」


 とにかく早く帰りたい。

 バイト遅れるし、この人と話しているとこの人のペースに飲まれる。ほんと怖い。


「じゃあ一緒に帰りますか!」

「いや、大丈夫。一人で帰るから」

「えー!いいじゃないですかぁ、一緒に帰りましょうよぉ」

「無理だ、急いでる。じゃあな」


 すっかり機嫌を直し、たわけたことを言っている佐々木をよそに俺は昇降口へと急いだ。

 俺の平穏な日常に天災が起こっている。そんなことを考えていると後ろから大きな声で


「私諦めませんからぁ!」


 とすごい大きな声が聞こえてくる。耳痛い。


(声でけーよ、無駄に響いてたし……誰も聞いてませんように。明日クラスで何言われるかわからんしな……)


 と思いながらも彼女に軽く手を振った。

 唐突に入り込んできた天災により、いつもよりも数倍の疲れをまといながら俺は帰路についた。

 彼女の登場により、明日からの学校がどうなるのかすらわからない。そんな日常が平穏といえるのだろうか。あの時、少しでも彼女を受け入れていた自分がいると思うと、普段なら忌々しい電車の音が心地よく感じてしまう。


 色々なことを考えていたが、明日の学校が面倒だと察し、とりあえず明日学校に行きたくないと思う悠也なのであった。








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