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坊ちゃまのメイド  作者: くまきち
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八話 坊ちゃまを迎えに来たメイド

「こんにちはー、招待状をいただいたのですけれどー」


 どこかのんきに間延びした声だけが閉めきられた門の前でこだまする。

 誰も来る気配はない。しかし中で待ち構えている複数の気配は感じる。


 もちろん、ここに(・・・)自分を呼んだ(・・・・・・)本人の気配もしっかりと感じ取っている。


「転生しても一方的なのってどうなのかしらね?まあ前だってわたしを呼び続けたのは向こうだったから仕方がないのかもしれないけど」


 わたしが生まれた瞬間から、誰かに呼ばれているような声が頭に響いていた。


 その理由が魔王と対になる存在だからだとわかったのは、十歳になった時だった。




『我を倒しに来るがいい。―――勇者よ』




 ずっと呼び続けていた相手が魔王だったことにも驚いたけれど、狩りに料理にと普通に使っていた二つの剣が、勇者にしか使えない伝説の剣だと知った時の驚きよりは低いかな。


「レインによく怒られちゃったけど、そこらのナイフより切れ味がいいんだから使わないと損じゃんねえ?」


 魔導師の頂点に君臨する男を「頭の固い融通の効かないヤツ」と言い放ち、今は自分の子孫に転生した外見幼女で中身はジジイのかつての仲間を思い出して愚痴った。


「それは置いといて。夕飯までに帰らないと怒られるし、何より坊ちゃまが成長しないもんね」


 「サクッと行きますか」と自分の二倍以上ある門扉を斬り刻み、瓦礫となった門を避けながら中に入るメイド。


「エプロンは白いから汚れが目立つんだよね」


 パタパタとホコリを払って、屋敷の玄関扉についているノッカーをつかんで一緒に叩くと中から執事ではなく見るからに荒くれ者が何人も姿を現した。




「メイドが何か用か?」

「ファルマン公爵から招待状をいただきまして、坊ちゃまをお迎えに参りました」


 ニコリと微笑んで物的証拠を突き詰めても、男たちのニヤついた口元は引き締まることはない。


「ここがどこだかわかってんのか!?」

「ファルマン公爵家ですね」

「旦那様はお忙しい方でなあ、オレたちが代わりに相手になってやるよ。……もちろんコッチの相手だがな」


 ニヤニヤと締まりのない顔でメイドを値踏みしながら下品に笑う男たち。それでも頬に手を当てて、コテンと首を傾げながら答えるメイドの口調はまったく変わらない。


「逞しい方たちばかりで大変楽しみなのですけれど、わたしは三百年も前からとある方のものですの」

「はあ?」

「三百年て……。頭おかしいのかぁ、この女」


 ゲラゲラと今度は笑い、メイドがスラッと背後から剣を抜いたのを見てもまだ余裕の表情だ。


 変わったのは窓から落ちかけの夕陽が差し込んで、メイドの茶色の瞳が金色に光った時。


「そろそろ夕食の時間でしょう?お邪魔するには長過ぎますからね」

「無事に帰れると思ってんのか?おめでたいお嬢ちゃんだな」

「わたしはただ坊ちゃまをお迎えに来ただけです。……通していただきますね」


 ニコリと小首を傾げて、二刀の剣を構えるメイド。


 ピリと空気に緊張が走り、前にいた男たちは笑った顔のまま固まった。


 後ろの男たちはまだ気付かずに笑い続けるが、相対している男たちの顔色は一斉に悪い。


「待て。二刀流の剣に金の瞳……」


 三百年経っても語り継がれている伝説の剣。


 それ(・・)はそう、行方不明のはずだ。


 けれどメイドの手に収まっている剣はこの国の者なら誰でも知っているそれ(・・)で。チグハグなはずなのに妙に合っているところがまた異様だった。


「髪の毛一本たりとも気軽に触れないでくださいませ?」


 男たちは知る。


 誰を相手にしてしまったのか。起こしてはいけない人物を呼び寄せてしまったのではないかと。


 ジリと後ろに下がる男たちの口元は、歪んでいるが笑いの形にではない。

 相手の正体に気付き、恐怖で歪んでいるのだ。


「待て。お前がアレ(・・)だとしたら、あのガキはまさか……」

「わたしの将来の夫をクソガキ呼ばわりしないでくれません?」


 殊更丁寧な言い方で、それでも細めた金の瞳は笑っていない。


 入ってきた時と同じく優雅な足取りで、メイドは両刀を躊躇いもなく振るっていった。


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