七話 坊ちゃまは回想する
「良いですかな、ご子息。わかっておられないようですから、このファルマンが詳しくお話しして差し上げましょう」
そう言って、つらつらと裏カジノの利点を話していくゴブリン。……ではなくファルマン公爵の話を聞いている振りをして、坊ちゃまは近付いてくる気配を感じながら渋い紅茶をこくりと飲んだ。
『この剣て便利でしょう?投げても戻ってくるし、なんでも斬れるんですよ』
なんでもないことのように言ったら空に飛ぶ鳥を投げた剣で仕留め、もう一本で果物の皮を器用に剥いていく。
『あ、左は野菜とか果物用で、右は肉用に使い分けていますから安心してください。まあ魔物相手では両方使うので、使い分けをしても意味はないかもしれませんけれど』
ニコリと微笑んで、勇者にしか使いこなせないと言われている魔剣を日常使いする不思議な女性。
『はいどうぞ、焼けましたよ。あーん』
こういうところはまったく変わっていないなと、小さく微笑んでカップを置いた。
「……というわけで、ご子息にも素晴らしさがわかったかと思います」
「フッ。恋は盲目とはよく言ったものだ」
「今そんな話してなかったよねぇ!?」
「聞いてるぅ!?」と食って掛かる鬱陶しい男を手で払い、どうしてこれで勇者だと、自分が愛してしまった女は敵なのだということに気が付かなかったのだと首を傾げた。
「少々熱が入ってしまったようですな。ご子息にはまだ難しかったでしょうか」
「ああ、さっぱりわからぬ。しかし惚れたら負けだと言うしな」
「また聞いてないねっ?っていうかさっきからなんの話をしてるの!?」
ガシャンとテーブルを叩いたファルマン公爵は、窓もなく一つだけある扉には鍵が掛かっているこの部屋で、いつまで平然としてられるかと少年を見やった。
「貴様のほうが取り乱しているではないか」
「誰かさんのせいでねっ!」
屋敷の中にすでに待機させている荒くれ者たちを思い出し、青筋を浮かべて詰め寄りたくなる衝動を必死に抑える。
そうだ、落ち着けファルマン。こちらには人質がいるのだから。
「ふう、そろそろ帰るか」
「お前こそ自分の立場がわかってるっ!?」
カップを置いた坊ちゃまはそう言って、これでお茶会は終わりだとでも言うような口調でまったく気負いも何もない。
またしても詰め寄るファルマンを見つめ、きょとんとした顔を浮かべた。
「それもそうだな」
「わかっているか」
「迎えが来るまで待っていなければ」
「そこじゃねえよ!」
ああもうこのガキどうしてくれようと震えていたら、訪問を告げるベルが甲高く鳴り響いた。
「こんにちは。国一番の可愛らしい坊ちゃまがこちらにいると伺いまして、お迎えに上がりました」
「ん、来たか」
「誰が!?」
「オレの迎えに決まっているだろう」
「なんで!?」
魔力を失われても使えたこと。
どこにいても必ずオレの元へと来れるようにする言葉。
―――まあ、ただ名前を呼んだだけなのだが。
「さてファルマン公爵。貴殿はいつまで耐えられるかな?」
足を組んで宣言をする不遜な少年の瞳が怪しく金色に光った。