六話 坊ちゃまはお茶会中
「手荒な真似はしたくなかったのですが、そうも言っていられなくなりましてね。ご子息である貴方から頼んでもらったほうが早いかと思いまして、ご招待させていただきました」
用意させた紅茶とケーキを自分から先に口にし、「毒などが入っていたら困るのはこちらです」と言っていく小者。
「なんだっけ、この見た目。なんか懐かしいんだよな……」
でっぷり惜しげもなく突き出した腹に、申し訳程度に乗った髪の毛。うなぎのように左右にちょろりと伸びる髭。
全体的にぼんやりとしつつもデカさを強調している見た目。
「トロール?いや、もっとこう……なんかアレだ」
ブツブツと失礼な呟きをしている坊ちゃまは、言葉が聞こえなければ思案しているような、ただ怯えているだけの少年にしか見えないだろう。
案の定、向かい側に座っているこの屋敷の主はニヤついた口元を隠そうともせずに少年を見やった。
「どうしました、ご子息?捕まった時も馬車に乗っている時も大人しかったと聞いておりますが、ここに来てやっと状況が理解できたのですかな?」
「あっ、思い出した。ゴブリンだ!」
「なんて!?」
「あー、スッキリした」と晴れやかな笑顔の少年は、そのまま紅茶に手を伸ばしてケーキをばくつく。
言われた相手は何がなんだかわからずに、ポカンとだらしなく口を開けたまま固まっている。
「……コホン。どうやら突然のことで混乱しているようですな」
「このケーキは甘さが足りんな。そのわりに貴様の腹は出過ぎな気がするが、何が入っているのだ?このナイフでかっ捌いていいか?」
「いい訳ないでしょうっ!?」
笑顔でナイフを向ける少年に青い顔をして奪うゴブリン、……もといファルマン公爵。
ナイフを奪われた坊ちゃまは見た目と違う俊敏な動きに感心するように頷いて、デザートの続きをフォークだけでいただいて顔をしかめた。
「ケーキはもう少しふわふわした物のほうが好みだ。紅茶も渋いし……。貴様のメイドは客の好みも把握していないのか?」
「自分の立場がわかってるのかな!?」
「やはり我が家のメイドが一番だな」
「聞いてるぅ!?」
仕方がないからそのままいただく坊ちゃまに、青筋を浮かべて詰め寄るファルマン公爵。
さすがに大人げないと座り直し、なんでもなかったかのように本題に入った。
「貴方のお父上が提案している法改正を、ちょっと待ってもらいたいだけなのですよ」
「それを未成年の社交界デビューもまだないたいけな子供に頼むとは……。馬鹿か、貴様?」
「よし、ぜってぇここから出さない」
「覚悟しろ小童ぁ!」と髭を震わせて怒り狂うファルマン公爵をちらりとも見ず、先ほどから近付いてきている気配の元に向かって一言呟いた。
「オレはここだ、アリア。いや―――アレク」