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坊ちゃまのメイド  作者: くまきち
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五話 坊ちゃまは攫われる

「ハァッ!!」


 ヒュッと空気を斬るように振りかぶり、風に乗って落ちてくる葉っぱを細切れにしていく。


 細身ながら『なんでも斬れる』と評判の剣を二つも持ち、白いエプロンを優雅にはためかせながら舞うように振るっていくメイド。


「うーん………、まあまあかな?」

「はー、まったく。シアさんたら、坊ちゃまからの命令はお昼寝をすることだけでしょう?剣の稽古をしていないで、あなたが叩き斬って散らかした葉っぱを集めて綺麗にしてくださいな」

「はーい」


 メイド頭に(たしな)められ、大人しく剣を腰に納めていく。


 まるで昔からそうだったように、その仕草もメイド服には不釣り合いな使い込まれた剣も自然だ。


「坊ちゃまには『行ってらっしゃい』って言えなかったから、帰ってきたら言わないと」


 それはそれとして掃除掃除と剣からホウキに持ち変えて、自分が切り刻んだ葉っぱを集めなくちゃ。




「旦那様の思惑通りにいかなかったら、わたしが『初めてのおつかいにウキウキしている坊っちゃま』を見れなかったことを一生言ってやる」


 「その時はこの剣の錆にしてくれるわ!」と、はらりと落ちてきた葉っぱを半分に斬って宣言をする危ないメイドに呆れた視線を向けるメイド頭。


「そういうの、いいから。ここが終わったなら表を掃いていらっしゃい」

「はーい」


 またしてもたっぷりと呆れた息を吐いたメイド頭に、しっしと手を振られて追い出されてしまった。


 門まで行くならついでに街に向かった坊ちゃまを追いかけたいなあと思いながら掃いていたら、慌てた様子で馬車が戻ってくるのが見えた。


「早くない!?……まあいいや。坊ちゃまー、お帰りなさいませっ」


 ぺいっと放り投げたホウキを足で門の影に追いやり、門の前で急停車した馬車の扉を開けたメイドは静かに閉めた。……舌打ちつきで。


「チィッ、いないではないですか」

「なんで閉めた!?」

「わたしの笑顔と出迎えの言葉は坊ちゃまにしか無料じゃありませんので」

「一緒に出掛けた執事しか戻ってないんだから、他にもっと言うことがあるんじゃないの!?」

「それもそうですね。じゃあ金貨三枚で許してあげます」

「そっちじゃねぇよっ!!」


 よく見ないで坊ちゃまに向ける笑顔と言葉を掛けてしまったのはこっちだからと安くしてあげたのに、差し出した手をパァンと思いっきり叩いて怒鳴り散らす執事。


「どうしました!?」

「はい、お水、どうぞ!」


 ただ事ではないと気付いたのか、メイド頭とさっきブランケットを掛けてくれた別なメイドが水を持って駆け寄ってきた。

 急いで飲みきっておかわりをする執事を横目に、一番大切なことを確認しなくては。


「坊ちゃまはどちらにいらっしゃるのですか?」

「はー……人心地ついた」

「坊ちゃまは、どちらに、いらっしゃるのですか?」

「絞まってる、絞まってるぅぅ!!」


 ギリギリと絞めつける拳を朝の坊ちゃまのように叩いた執事が「ロープ、ロープゥゥッ!!」と助けを求める。


「坊ちゃまは?」

「はぁ……はぁ……。坊ちゃまに関しては容赦しないな、まったく」

「坊ちゃまは?」

「……これを」


 抜いた剣を目の前に刺したら、やっと胸元から紙を出してくる執事。引ったくるように奪ったメイドは躊躇(ためら)いもなく開いて首を傾げた。


「『貴殿の息子を誘拐した。五体満足で返してほしくば規制している警備と法案について撤回せよ』。……馬鹿?」

「あっ、しー!」


 ご丁寧に封筒に入れられた脅迫状は、バッチリ家紋が刷られている専用の封筒と用紙で。無記名だけど、誰から届いたのか丸わかりの物だった。


 思わずみんなが思っていることを呟いたメイドの口を慌てて三人が塞いでいく。




「まあ、つまりファルマン公爵家にいるってことですね」

「そうなりますな」


 いる場所がわかってホッとした執事が、のんきに水を飲みながら頷いていく。それを見たメイド頭が目元を釣り上げ、この家の主人のいる執務室の場所を指差して言う。


「何を寛いでいるのですか、貴方は!?すぐに旦那様に報告していらっしゃいっ」

「はいっ、ただいま!!」

「まったく……」


 頭が痛いとばかりに額に手のひらを置き、ゆっくりと首を振るメイド頭と執事が置いていったカップを片付ける別なメイド。


「……それで。貴女はどうするつもり?」


 ひっくり返したり日の光に当てて、何かの仕掛けや裏メッセージなどがないか確かめていたシアをちらりと見たメイド頭が当たり前のように尋ねていく。


「行き先がわかっているのですから、坊ちゃまを迎えに行って参りますよ」

「こちらですることは?」

「王女様へ手紙を。ファルマン公爵が動いたという連絡と、お迎えのための馬車の手配をお願いします」


 まだ門に置いてある馬車を指差して「こちらに乗って行くのではなくて?」と首を傾げるメイド頭に、「そちらは坊ちゃま専用の馬車ですからメイドだけでは乗れません」と拒否をする。


「正式ではないですけれど招待状をいただきましたもの。……それ相応の対応でよろしいのですよね?」

「構いません」

「では、行って参ります」


 微笑んだメイドは裾を摘まんでお辞儀をし、優雅な足取りで坊ちゃまを迎えに行った。


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