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坊ちゃまのメイド  作者: くまきち
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三話 坊ちゃまとメイドの出会い

「生まれ変わったら、その時は一緒になろう」


 そう言って誓った約束は、三百年も経ってから果たされた。


 かつての魔王が昔よくやったように、最愛の勇者を呼び寄せ続けて五年。


 しかし目の前に現れた少女はかつての面影を残したまま、昔とは逆に自分を見下ろしていた。




「やだー、リーデリッヒュったらちっちゃーい!何歳?ねえ何歳??」

「ばっ、馬鹿者!離さぬかぁっ」


 昔と変わらない中身のままオレに抱きついてくる少女に執事が慌てて引き剥がす。


「あ!せっかくの再会がぁっ」

「この方はそのような名前ではありません!捕らえろ!」


 けれどいきなり抱きつく無礼な少女は拘束されることもなく、屋敷を守る騎士たちを倒したらまたオレを思う存分、撫で始めた。


「待ちくたびれたではないですかぁぁ」


 「何年経ってると思っているの」かと泣きながらオレを(なじ)る。この顔に弱いことを知っていて、しっかりと目を合わせてくる厄介な少女。


「それはすまぬが、お前こそ何歳なのだ」

「え、十七歳です」

「なんだと!?」

「初めて会った時の歳にまた会えるなんて運命ですね!」


 前はオレのほうが二百歳近く年上で、さらに身長も頭三つ分は高かったはずなのだ。


 それが今や歳も一回り上で身長も逆転しているとあっては、どうすればいいのかわからない。


「お前が生まれ変わった家はどこだ?」

「田舎の端っこの男爵家です。二番目なので簡単に家を出られたのはいいんですけど。また世界を救いに行くのかって言われてしまって、せっかく呼んでくれたのに二年も掛かっちゃいました」


 背中には不釣り合いな剣が二本刺さっていて、それは昔も持ち歩いていた物だった。


「魔力は使えなくなっていましたけど、代わりに魔剣が一緒に転生してくれたので、ひたすら剣の稽古をしておりました」

「オレはもう支配する気はないぞ?」

「わたしもこれ以上の冒険の旅には出掛けたくありませんよ」


 色々と違ってはいたが、それでも最低限の願いは叶ったようだ。


 『同じ種族に生まれ変わること』


 それが一番の願いだったのだから。


「あーでも、この家を見たら身分差が激しすぎて今世も無理っぽくないですか?」

「何を言っている。三百年も前からお前はオレの嫁なのだから、たかだか身分差と年齢で諦めるわけがないだろう」


 ついでに引き離された身長も追い越して、オレが成人をしたらと新しい約束をしていく。




「あー、……息子よ」


 控えめに割り込んできた、今のオレの父親が困った顔で手を挙げた。


「もしかして、ずっと言っていた『我は魔王だ!』って本当だったの?」

「今頃気が付いたのか?遅いぞ」


 フンッと不遜な態度で腕を組み、かつての魔王はその通りだと言い放つ。


「あら。ではこちらのお嬢さんが、ずっと言っていた勇者様でダリウスの嫁ってことね?」

「そうだ」

「初めまして。教科書では男名になっていますけど、本名はアリアです。今はシアという名前ですけれど」


 うーんと頭を抱える父親の隣りで、頬に手を当てて首を傾げた母親が尋ねて。それにもかつての勇者はサラッと答えていく。


「お疑いなら、こちらの魔剣で何か斬り刻みますけど?」

「伝説の剣と勇者が見られるのは非常に嬉しいけど、これ以上は騎士もいないし家をリフォームする気もないから遠慮しておくよ」


 こうして事情を飲み込んだ両親は、とりあえず表向きはオレのメイドとして行儀見習いに勇者を雇うことにした。


 「その剣の使い込まれ方からすると下手な騎士より強そうだし」と、まだ状況が飲み込めない執事たちを置いて、オレに婚約者(仮)ができた。




「教科書ではなくて絵本のほうが真実だったってことかあ……」


 魔王は確かに勇者と封印された。


 けれどそれは合意の上だった。


「言葉が話せるようになってから毎日のように聞かせておいたというのに、信じてなかったとはなんたることだ」

「あのねぇ。『我は魔王 リーデリッヒュだ!生まれ変わっているはずの勇者 アレクを探し出して嫁にしなければ!』とか言う息子を閉じ込めなかった父の寛大さを誉めてくれない?」

「なんと!?」


 ちょっと疲れ気味に言ったこの家の主で今の父親が、「空気の綺麗な遠い土地で療養という名の監禁をしてもおかしくない言葉」だと言っていった。


 なるほど。オレはちょっと危ない子供として見られていたようだ。


「しかしこれでわかっただろう。オレの嫁は三百年前から決まっているのだ」

「その前に大きくならないとね、ダリウス」

「……わかっている」


 もしかしたら腕力でもすでに敵わないのではないだろうか。


 昔は片手でよく持ち上げたものだったが……。


「早く大きくなってくださいね、リーデリッヒュ」

「頭を撫でるな!」

「あーん、可愛いっ!」

「グリグリするなあっ!!」


 横に並んでいたと思ったら、オレを簡単に持ち上げて頬擦りをしてくるとは。


「お前、この状況を楽しんでるな!?」

「だってこうして触れられるのも三百年振りなんですもの」


 昔と同じく豊かな胸にオレの顔を無理矢理挟み、思う存分に撫でかかる。


「あー、そこらへんは一応、節度を保ってねー。見た目がすでに犯罪だから」

「ちぇ……」

「まったく」


 父親に(たしな)められて不貞腐れるアリアの手を繋ぎ、まだ慣れないがオレから見上げて視線を合わせる。


「これなら不自然ではないだろう」

「ふふ、懐かしい」


 不機嫌になっても手を繋いだだけですぐに笑顔になる単純さは変わっていないらしい。


 もう一つ、いつも別れ際にやっていたことを思い出して足を止めた。


「アリア、すぐに大きくなるからな」

「待っております、リーデリッヒュ」


 額をコツンとつけたら、「また明日」という昔の言葉の代わりに約束を言う。


 やっと生まれ変われたのだ。今度こそ諦めてたまるかっ!


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