十三話 坊ちゃまとの別れ
「この度は……その、私の浅はかな考えにより多大なるご迷惑をお掛けいたしまして……」
明日は嬉し恥ずかし初お見合いだね!なんてちょっと浮かれていた伯爵家に、くだんの公爵家の主人が平身低頭で「なかったことにしてほしい」と懇願してきた。
「顔を上げてください、デイール公爵様」
「いえ、私はこの門をくぐる資格のない者ですゆえ……」
「私が困ってるんで、せめて馬車に入ってお話ししませんか?」
朝早くに馬車をかっ飛ばしてきたデイール公爵は、出迎えた旦那様に向かって華麗に床に膝と額と手のひらを着いて即座に土下座した。……門の前で。
「あら残念、王女様とのお見合いは中止だそうですよ。坊ちゃまの晴れ姿は延期ですね」
「せっかく誂えたのだから出掛ければ良いではないか」
「デートですね!久しぶりです」
わぁいと喜ぶメイドを嬉しそうに愛おしそうに見やる坊ちゃまを馬車から見つめる二人のオッサン。
「……まだ信じられません」
「あまり公にしてはマズイことですから」
「しかしあの剣は私も肖像画で見たことがあります」
エライことをしてしまったなあと、十歳以上老け込んだデイール公爵はそのままトボトボと帰っていった。
「それにしても、もしかしてまだ何かあるのかなあ?」
そもそも我が家にいるのは元とはいえ、かつて二百年近く国を支配していた魔王と、その魔王を唯一倒せる力を授かった勇者だ。
他に誰も勝てない逆らえない、そんな二人がこのまま大人しくしているはずがなかったんだ。
「恨まれるかもしれないけど、これ以上一緒にいたら今度こそ国が滅ぶしなあ」
「三百年待ったのですから十年くらい微々たるものですよ、あなた」
なんでウチの子、魔王の生まれ代わりなんだろう……。
とてもいまさらなことを呟きながら、その魔王の両親になってしまった二人は深い溜息を吐いた。
「というわけで、ちょっと離れようか」
「何故ですか、父上!?」
「せっかく会えた恋人同士を引き裂くなんて、あんまりです旦那様ッ」
「いやだって色々ありすぎるんだもん。王女様も倒れちゃったし、あやうく国の結界まで壊れるところだったみたいだし」
「そんなの未熟な魔導師のせいだ」という言葉を無視して、”立派に成人するまで会うの禁止令”を出されてしまった。
元勇者の上に元メイドとなってしまった身の上に、同情できる要素はあまりない。
それよりもう適齢期後半なんだからと、こっちでもお見合い攻撃される羽目になってしまった。
「七歳からの一番成長する時期と高い声から低くて渋くなる貴重な声変わりが近くで聴けないなんてーっ!!」
密かに楽しみにしていたのに、手紙のやり取りも呼び出すのも禁止されてはどうしようもない。
絶対に可愛いだろうに、カッコいいだろうに。ひどい。
「やっぱりレインに止めを刺しておけば良かった……」
はあっと呟いた物騒な言葉は誰の耳にも届かず、そのまま八年の歳月が経ってしまった。
……やばい。完全に嫁き遅れた。




