十一話 坊ちゃまと呼び出されたメイド
ガタガタとたまに揺れる馬車に乗り、わたしと坊ちゃまはとある場所に向かっている。
最初の身分のままなら絶対に来られない場所に、生涯会うことはないだろうお人が待つ王宮。
「わたしたちを呼びつけるなんて、レインったら偉くなりましたよね」
「仕方がないだろう。今は向こうのほうが偉いのだから」
それでもフンッと面白くなさそうに足を組んで、近付いてきた城を睨む坊ちゃま。
「アリアこそ、城へ行くというのにその格好ではいつも通りではないか」
「あら。ただのメイドとして呼ばれたのですから、むしろ正装ですよ」
いつも着ている支給されたメイド服の裾を摘まみ、小首を傾げるメイドの腰には愛刀が刺さっている。
「それにしても、なんのお話でしょうね?」
「ゴブリン公爵はすべて吐いたはずだし、近衛騎士団長は次の日に家に来たらか誘拐の状況も話したし招待状も渡したから用は済んだはずなんだが……」
心底わからないという顔をした二人は、「片付いて暇になったから、お茶を飲みたいとか?」という頓珍漢な結論に至った。
コトリと止まった馬車の扉が開いたら、短く刈り上げた灰色の髪が待ち構えていた。
最近よく見かける、団長直々に案内をしてくれるらしい。
「ようこそ。リーデリッヒュ様、アリア様。……レイン様がお待ちです」
「レイン様、お二人をお連れして参りました」
「入れ」
中にいるのは御歳六歳の可愛らしい王女のはず。
けれど指示をする声は威厳に満ち、部屋に入ったらものすごく疲れきった顔で出迎えられた。
「どうしたの、レイン?六歳っていったら水も弾くプリプリの肌を持っているはずなのに羨ましい!……じゃなくて。目の下には隈もできてるし髪の艶もないわよ?」
「誰のせいですかぁっ!!」
端から見れば王女を心配するメイドの図なのに、涙目になっている王女の悲痛な叫びから「原因はお前らじゃあっ」ということがわかる。
「レイン様。地が出ていますよ、地が」
「はっ」
三人の他に唯一部屋に残っている騎士団長が宥めたおかげで自分の立場を思い出したらしい。
コホンと一息ついたら優雅に座り直した。
「レインったら相変わらずねぇ」
呆れた視線を頂戴したが、それはこちらの台詞だということにどうして気が付いていないのか。
「貴女が腱を切って動けなくさせていたおかげで、大量の不届き者を捕まえて状況証拠も手に入りましたけどね。『メイドが……メイドが……』ってうなされている人ばかりでロクに会話ができないんですけど!?」
「あらぁ、嫌だわレインったら。坊ちゃまを誘拐しておいて、生きているだけでも儲けものでしょう?」
今は囚人扱いされている男たちを全員のしておいて、まったく反省していないメイドがコロコロと微笑む。さすがに騎士団長の顔も引きつるが、何度となく挑戦してはsべて敗れているので何も言えない。
そっと視線を逸らすだけだ。
「大体、魔王ともあろう方が簡単に攫われるとはどういうことですか!?」
「今は魔力も腕力もない普通のか弱い少年に無茶言うな」
「オレはメイドを呼ぶだけだしかできないのだぞ?」と、こちらも呆れた溜息を吐いて首を振る。
普通に迎えを呼んだだけなら、あのような事態にはなっていないだろうに。こっちもこっちで気付いていないらしい。マジか、頭痛ぇ。
「そもそもレインも見たでしょう?正式な招待状をいただいたのよ」
「あれは馬鹿だと心底思いました」
「だよな」
そこらへんの紙切れを使って出所をわからなくすれば良かったものを、自分の家紋が入ったレターセットを脅迫状に使ったのだ。
バレないほうがおかしい。やっぱり馬鹿だ、アイツ。
「貴女が倒した男たちで地下牢は溢れています。こんな嫁で良いんですか!?」
「問題ないな。そもそも昔からではないか」
「さすが坊ちゃま、わかっておりますね。いい子いい子」
「頭を撫でるなっ」
目の前で急に始まったイチャイチャに、頭を抱えて呆れた溜息を吐くしか出来ないこの国の王女。
「レインも知っているでしょう?っていうか貴方こそ、どうして一緒に転生したのよ。それに自分の子孫の女の子なんて、ロリコンだったっけ?」
「波長が合ったのがこの子だっただけですっ!っていうかね、魔王と勇者が転生したのですよ!?騒動が起きないとは限らないではありませんかっ」
「心配性ねえ。わたしたちはもう魔力を持たないで生まれてきたのだから、何か起きるはずがないでしょう?」
「起きましたけどねっ!」
お茶をしているこの部屋ではなく、書類が山積みにされている自分の書斎のテーブルの上を思い出してさらに頭を抱える大魔導師を生温い視線で見守る近衛騎士団長。
全部投げて温泉でも行ってのんびりしてえなあ……。
もうやだ。私はいつまでこいつらに振り回されなきゃいけないんだろう。いや、転生したのは自分の意思だけれど。
「こちらは巻き込まれただけよ。それにわたしは坊ちゃまを迎えに行っただけなのですから」
「伝説の剣を持って行く必要はあるかな!?」
「一緒に転生してくれた嬉しい相棒を置いていくほうが可哀想じゃないの」
「んんんぅっ!!!」
王女という立場を忘れて頭をかきむしりたい。もしくは魔力を思う存分振るいたい。どっちも無理だからしないけど。
魔王と共に封印されたはずの勇者が持っていた剣は、なぜか今現在、ただのメイドとなったアリアの手元にある。意味がわからない。そりゃあ一緒に転生魔法の中にはいたけどさあ。
勇者と伝説の剣なんて、平和なこの国で組み合わせちゃいけないもんだろう。
「そういえば、アレクではなくてわたしのことを知っている人がいたのよ。捕まる前にサインあげれば良かったかしら?」
「ご本人直々に剣に挨拶されたのですからいいんではないですか」
「喜んでくれたかしら」
「正気を保たないほどにね!」
「いいな、アリア。オレは気付かれなかったぞ」
もう本当にヤダ、こいつら……。
「あ」
「レイン?」
元同僚なんだからと正体を知っている者どもに書類と後始末を押し付けられ、数日間まともに眠っていない王女はそのまま気を失った。




