十話 誘拐劇の裏側
「王女様、至急のお手紙が届いております」
そう言って侍従長が盆に置いた手紙を差し出してきた。
家紋が入った封筒を見て誰から届いたものか気付いたが、顔を引きつらせる前に紅茶を飲んで表情と呼吸を整える。
「わかりましたわ、ありがとう」
「失礼いたします」
扉を閉めて外に出たことを確認してから嫌な予感しかしない手紙を摘まんで、ものすごーく不審人物を見るような歪んだ顔で中身を見た。
「はあっ!?」
全員を部屋から追い出した後で良かった。
でなければ可愛らしいと評判の可憐な王女様のこんな醜態を見なくて済んだのだから。
よりによって内偵で探っていた最中の公爵家に攫われたとは……。
「運がないにもほどがあるだろう、あの男」
誰もいないのをいいことに、手紙に書いてある少年を攫った公爵に同情する言葉を呟いてしまった。
「何故大人しくしていない?馬鹿かっ!?」
公爵相手にひどい言いようだが、言った本人たちは他に誰が言ったか知らないので頭を抱えるだけだ。
お前が簡単に屈せると思って攫った相手は、かつてこの国を支配していた魔王で。
そしてその魔王を迎えに行くと王女である自分に手紙を送った相手は勇者。
「王女付きの近衛騎士団でなんとかなるかなあ……」
お互いが敵同士だと知らずに愛し合い、次に生まれ変わる時には同じ種族にと誓い合った二人。
それを引き裂くバカ公爵にも困ったが、アレが手加減するわけがない。
ただのメイドが持つには不似合いな代物を所有している化け物だぞ。
『わたしと一緒に転生してくれるなんて、相棒想いのいい魔剣よねぇ』
そう言って頬擦りまでして、なんでも斬れるが使いこなせるのは勇者に選ばれた唯一人だけという。三百年前の封印から行方不明な伝説の剣を、そこらへんのナイフや槍代わりに使うおかしな元同僚を思い出して深い溜息が出た。
年下に生まれ変わった魔王を殊の外可愛がり、変わらずに愛し続けている元仲間を思い浮かべて顔が引きつる。
いくら魔力を持たないで生まれ変わったとしても、今この国には魔王と勇者と伝説の魔剣が揃っているのだ。
絶対に何か起こると確信して、一番波長のあった子孫に生まれ変われたのはいいけれど……。
誘拐なんて陳腐な事件だが、いかんせん相手が悪すぎる。相手が。
今頃一人で向かっているだろうかつての仲間が暴走しないようにしなければと目まぐるしく思考を働かせる。
誘拐した相手など、生きていれさえすればどーでもいい。
国を守る王女としてはどうかと思う結論だが、自分の最重要事項は『かつての敵と仲間がどうか無茶をしませんように!』なのだから仕方がない。
「どちらにしても血の雨が降るな。……事後処理面倒くせぇぇ!!」
はーっと幼女から出るには年季の入った溜息を吐いて、金の髪を思いっきり揺らした王女は外に向かって凛と伝えた。
「近衛騎士団を呼んで頂戴!」




