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代打の神様  作者: 柚井 ユズル
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心の渦巻き、大喧嘩 2

3人で電車に乗って、駅について降りてまた少し歩いて。

着いたのは住宅街の側にある小さな空き地。

「近頃は土地開発が進んでるんだね」

この辺りも、以前は林だったのに、と柏木は少し残念そうに言った。

祠を見つけると、榊は不思議そうにそれを見る。

「で、何をするの?」

「この中にね、秋芳さんの封印した力があるんだって。それを回収するの」

「へえ。それが、あんたが強くなった理由?」

「そう」

榊はふうん、と言ってその祠を見る。

「じゃあ、アンタにこれを開けさせないようにすれば、これ以上強くはなれないんだ?」

「え?」

何を言うのかと小夏が聞き返そうとした時だった、榊が突然何かを唱えた。

「何してんの!?」

小夏が叫ぶのと、榊が何か呪文のような物を唱えるのは同時。

ばりばり、と激しい音がして……一瞬、何が起こったのか理解できなくて、小夏は目の前で起こることを呆然と見ていた。

「来る途中に、仕掛けてきたんだよ」

なにか大きく黒い物が近づいてくる。髪の様な長いものを振り乱して。そして、その先からはバチバチと絶え間なく火花が散っている。

「電柱だ……」

柏木が緊張した声で呟く。

「どう言う事!? 人間に厄はとりつけないんじゃないの!? なんで榊さんが厄を……」

「別に榊さんが厄に取り憑かれてるんじゃない。厄を操ってるんだ」

「そんな事、出来るの?」

「榊家の人間になら出来るかもね」

柏木は言って、フッと青い炎を電柱に吹きかける。黒い物は一時的に取り払われるけれども、バシバシと火花を飛ばし続ける電線のせいで近寄れない。

「どうやったらあれ、倒せるの?」

「難しいね。近寄ると感電しそうだし……諸悪の根源をどうにかするしかないと思うよ」

言って柏木は榊を示す。榊はただ腕を組んで二人を見ていた。

「僕には出来ないけど。……人間には、手を出せないから。その代わり、あの電柱は足止めしとくよ」

柏木は言って、もう一度強く炎を吹きかける。

(そっか、あたしが榊さんをどうにかしなきゃならないんだ)

そうしないと、柏木でさえ手も足も出せない。神の使いである柏木は人間である榊には危害加える事はできないのだから。

小夏は少し戸惑いながらも、榊の方を向いた。

「榊さん、なんでこんな事するの?」

まさか刀で榊に挑むわけにもいかなくて、どちらにしろ榊には厄なんて憑いてないから刀も意味はないし……小夏はとりあえず説得を試みようと榊に話しかける。だが、榊の返答は素っ気無いものだった。

「あんたが嫌いだから」

「いやだってここ、柏木君もいるよ?」

榊は柏木の事が好きだったんじゃないだろうか? そんな小夏の考えを見透かしたみたいに、榊は投げやりに言う。

「いいんだよ。どーせあたし、ふられたから」

その言葉に、小夏はようやく悟った。柏木にふられたからヤケになっているのだろか。

だが、そんな小夏の表情を見て、榊は不快気に鼻を鳴らす。

「あんたなんでも顔に出るね。失礼なヤツ。……しかも、アンタが思うような浅はかな理由だけであたしがこんな事してると思うなんて、すっごい馬鹿にしてる」

小夏はそれで言葉に詰まってしまう。

(なんかあたしがこれ以上口を開くと、また地雷踏んじゃいそう……)

榊はさらにもう一つ、呪文のような物を唱える。

(うわぁ! また来た)

先ほどの電柱のようなものがもう1匹、火花を振り撒きながらドスンドスンと現れる。

(つーかなんで電柱歩いて来てるの!?)

それ程、あの電柱を突き動かす厄の力は強いという事だろうか。

ふと見ると、榊の息が微かに上がっている。先ほどから一歩も動いていないのに、運動したわけでもないのに。

(もしかして、アレやるの結構疲れるんじゃ?)

それでも、やりたかったのは何故だろう。こんな事を。

「あんたなんか、いなくなれば良いのに!」

榊が言って、もう一度何かを叫ぶ。狭い空き地の中、3本の電柱が密集していて、火花があちこちで飛んでいて。

(危ない。ホント、やばい)

榊がその場にへたり込むのが見える。炎の使いすぎか、柏木が青い顔をしている。

(白虎……だと感電しちゃうよね。がめらは、甲羅があるから平気かな?)

小夏は考えて、がめらに命令する。

(がめら、守って!)

のっそりと、亀が自分の中から出て来た気配がする。そして、小夏の周囲に透明な、目に見えないけど確かに硬い甲羅のような存在を感じた。まるで小夏を守るように取り囲む見えない楯。

そして小夏は走り出す。青い炎に囲まれながら火花を散らす電柱の間を擦りぬけて。へたり込んだ榊の所へ。

榊は小夏の姿を見て、なんとか立ち上がろうとした。応戦しようと、札を握り締めて。

そんな榊に、小夏は思い切り腕を振り上げて___。

バシン、という音が耳に痛い。相手の頬を打った手のひらも痛い。

榊が呆然とした顔をしたのに、小夏は歯を食いしばってもう一度平手打ちをする。

「何すんの」

榊が我に帰ったように言って、小夏に向かって腕を振り上げる。小夏の頬にじんじんとした痛みが広がる。

バシン、バシン、とお互い痛くて痛くてもう止めたいのに、引っ込みがつかないで叩き続ける。そのうち、掴みかかって相手を引っ掻いて、髪を引っ張って___。もう、めちゃくちゃだった。傍から見ていたら目も当てられないであろう醜いつかみ合いの喧嘩。

「止めてよ! あれ」

取っ組み合いながら、小夏は痛みに涙目になったのを隠しもしないで電柱を指す。

「柏木君が倒れちゃうでしょ!」

「なんであんたの指図なんか受けなきゃならないのよ」

「あたりまえじゃん! 榊さんがいけない事してるんだから」

「いけない事って何よ! あんたに何が分かるって言うのよ」

バシン、とまたもや頬に痛みが走る。

「分かるわけないじゃん! 榊さん言わないで実力行使に走ったんだから」

仕返しとばかりに小夏も派手に平手打ちをする。

「あんたなんかに、どうせ分かるはずないね」

「何それ、そうやって拗ねてるの、ガキみたい!」

もう痛くて痛くて、涙がぼろぼろ出てきているのに止められない。

「あんたに言われたくないわよ。なんも考えずに他人に流されてばっかのあんたにさ、何がわかるって」

「わかんないかもしれないけど、言ってくれなきゃもっとわかんないじゃん! 何が不満なのか、言ってよ。そうじゃなきゃ、あたしは謝ったりしないよ。榊さんが言ったんだからね。上辺だけの言葉言うなって」

「謝ってなんか欲しくないよはなっから」

榊は言うと同時に、突然足を振り上げて小夏の腹を蹴り飛ばした。衝撃を受けて、小夏は少し吹っ飛ばされる。

「痛……」

小夏は地面に這い蹲ったものの、なんとか腕をたてて体を起して榊を睨む。

「ひど……」

「あんたがこんなに弱いのが、ムカツクんだよ。弱いくせに、なんの努力もしないで力を与えてもらってんのがムカツクの」

小夏の文句を遮って、榊は言う。

「あたしはねえ、ガキの頃からすごい修行して来たんだよ。友達と遊びたくても許してもらえなくて、いつか秋芳の神のお力になれるようにってそれだけのために、毎日朝早く起きて夜早く寝て、見たいテレビも見せてもらえなくて。友達と買い食いだって許されなくて。信じらんないくらい規則正しい生活をして……痛い修行も辛い修行もたくさんあった。なのに、いざその時が来たら、仕えるはずの秋芳さんの力はアンタに入ってるからあんたの力になれって? 冗談じゃないよ。なんであたしと同じ年で、あたしみたいに辛い修行もなんにもしないでのほほんと暮らしてきたあんたに、あたしが仕えてやらなきゃならないの? あたしがあんだけ大変な思いをしたのは、全部あんたのためだったっていうの?」

しかも、と榊は声を荒げる。

「あたしがそんなに頑張って修行して得たものを、あんたはほんの数日で得てしまう。だったらあたしの努力はなんなの? あたしの苦労は!?」

小夏は何も言えなかった。確かに、自分は榊がしてきた努力の何百分の一の努力もしていない。それに、小夏も同じ事を考えた事があったのだ。

平凡な小夏は、何をやっても、努力しても平凡以上になれなくて。生まれつき運動神経が良い人とか、絵が上手い人とか、そういう才能を与えられた人にはどんなに頑張っても追いつかない。小夏はそれでもう、それはそういうものだとして諦めてきたけど。諦めて、部活にしたって何にしたって、適当に手を抜いてやってきたのだけど。

榊はずっと頑張ってきたのだ。とてもとても、頑張ってきたのだ。それは、小夏なんかと比べ物にならないくらいすごい事。

それなのに、突然現れた小夏なんかに自分の居場所を奪われて。

反論の言葉もない。でも。

「だからって、こんな事する事ないじゃん。あたしはどーせ、今回の事が終わったらこの力を返すんだし」

小夏のこの力は、小夏のものじゃないのだ。ただの、間借りの力。こんなもの、小夏が羨まれるべきものじゃない。

「あたしは今回の禍厄祓いに賭けてたんだよ。ずっと頑張ってきたのは、自分にしか禍厄祓いの手伝いは出来ないと思ってたからだよ。それだけが、あたしの支えだったんだ。なのにアンタは、あたしなんかまるで必要としない。必要とされてもムカつくけど、されなかったらもっとムカツク。……あたしの存在意義って何って思う」

(だから、白虎を見た時、あんなに驚いてたんだ……)

誰だって、自分は何かに必要な人間だと思いたい。そういう事なのだ。

(あたしだって、そうだもん)

何かに秀でた、誰かに必要とされる人間。そういうものに、ずっとなりたいと心のそこで思っていた。だからこそ、現実的ではないヒーローに憧れたのだ。

「あたし、榊さんが必要だよ」

小夏が言うと、榊はもう一度小夏を蹴り飛ばす。

「調子良い事いってんじゃない」

「ホントだよ。前、鏡の中から厄をおびき寄せてくれたじゃん。ああいう特殊なのって、柏木君にも矢田君にもできなかったし。榊さんの専売特許でしょ。……それに、あたしのはすぐ返しちゃうけど、榊さんのは身になってるもんじゃん。そんなの、比べようがないよ。あたしはただの、代打だから、ホンモノとは天と地の差があるんだよ」

榊はじっと小夏を見る。小夏は怯まないように自分の心に言い聞かせてその瞳を見返した。

「……何を言っても詭弁に聞こえるけど、あんたは真面目な顔して言うんだね」

言って榊は一声、鋭く呪文のような言葉を唱える。そして、ふっと気を失って崩れ落ちた。

同時に、電柱の動きもぴたりと止まった。


「終わったみたいだね」

柏木は呆れたように小夏の顔を見て言う。

「それにしても、女の子同士の喧嘩って激しいね。顔、それ、すぐに腫れてくるよ」

「……やだなぁ」

小夏は本当に嫌そうに呟く。

「まあ、名誉の負傷と言う事で」

それから柏木は榊の顔を覗き込んで「あーあ」と言う。

「榊さん、大丈夫なの?」

「体力消耗しすぎただけでしょ。すぐに良くなるよ」

そ言葉に、小夏は一まずホッとした。

「封印を解くのは来週にまわすか」

柏木が言うので小夏は頷く。柏木が榊をおぶって神社に送り届け、小夏と榊の顔の傷を榊の家族にとても不審そうに見られながらも小夏はその日帰宅した。

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