魔法、シユさん。
今、俺の足元には緑色の死体があります。
いや、なんか落ちてたでっかい骨で頭ぶん殴ったら、ね。ついでにレベルも一気に上がったっぽいし。なんか体から光でたし。え?なに?コイツ強敵だったりしたの?
そして、俺の背中には助けた女性がいる。なんかおっきい二つのものが背中に当たってる。うむ、役得役得。
「あの……助けていただきありがとうございます」
かわいい。
というのはさておき、この身長高めのきょぬーで緑の髪をポニーにした美人さんはシユさんというらしい。かわいい。
で、なぜ見渡しても遠くにしか村が見えないところに彼女がいたのかというと……
『私は攫われた女性が孕まされて出来た子なんです……何に攫われたかって?ゴブリンです。髪が緑色でしょう?これもその影響です。しかも、この髪の色だと、“魔物の子”と呼ばれて忌避されるので、町に入ろうにも入れず……それで仕方なく森で暮らしてたのですが、見てのとおり近くの集落のゴブリンに襲われまして……本当に助かりました。ありがとうございます』
と、いうことらしい。人生ハードモードだな……でもそういう事情なら……
「それじゃあ、この先はどうするの?」
「いや……この先はまた別の場所に行って隠れ住むしかないですね……私は、“魔物の子”ですから……」
本当に不憫な人だな。かなりかわいいのに……
「そうなんだ。それじゃあ、俺と来ないか?」
「え、は!?え、でも……」
「実は、ちょっと事情があってこの国、いや、この世界のことすらよく分からないんだ。……これは詮索しないでもらえると助かるよ」
「はい。私も似たようなものなので」
と言って、苦々しい笑顔を浮かべるシユさん。だけど、これは返せない。
その言葉を曖昧な笑みで流して、俺は言葉を続ける。
「それに、魔力量にはそれなりに自信があるから、頑張ればその緑の髪も誤魔化せるかもしれない」
「え、でも“転写”の魔法って相当魔力使うって聞きましたが……それこそ、ファイアーボール千発分くらい……でも魔法には個人差が……」
「……え」
これには驚いた。いや、でも俺の魔力五十三万……いや、レベルが一気に上がったっぽいしもっとあるのか?でもファイアーボール千発分って言葉だけ聞くと相当な負担だな。
で、“転写”の魔法って言うのが誤魔化しに使える魔法か。多分、思ったことを魔法の力でどこかに写す魔法だろう。でも、引っかかるのは……
「個人差がある……ってどういうこと?」
「はい、ずっと森の中にいたので一般常識程度のものしか知りませんが。えっと、確か、『魔法は発動させた術者のイメージで構成される、また、事細やかに想像しなければ、魔法が暴走することがある』でしたっけ』
なるほど、それはいいことを知った。しかし、この世界の人にはその「イメージ」が凄く難しいらしい。まあつまりは、火事とかを見たらそのイメージで火を出せるって感じ。
高名の魔法使いは、魔法の訓練のためだけに小屋を作って火を放ったりするらしい。恐ろしいこった。
しかし、俺には、『現代日本のアニメ、特撮、漫画、その他諸々』の知識がある。これは楽に進みそうだ。まあ、後の懸念事項は……
「それで、ファイアーボールに使う魔力はどれくらいなの?」
「ええと、確か一発で魔力2くらいだったと思います。
…………は?
「え、まじで?」
「はい。ええと、“転写”に使う魔力……絶望的でしょう?そんな量の魔力を持っていた人がいたのは、75年前に一人いて、それ以降いなかったらしいですよ?」
「ええと……」
2×1000だから魔力2000か。どうしよう、何百回も転写できるとか言えるわけ無いじゃん。
や、でも、こんな悲しそうな顔してるし、言うしかないのか……これは信頼できる人にしか言えないじゃん。
「……いや、全然大丈夫。なんなら俺のステータス見てみる?」
「……え、大丈夫なんですか!?というか、ステータス見ても大丈夫なんですか?」
「それはまあ、状況的に仕方が無いことだし、これは言ったら悪いんだけど、町とやらとのつながりも無いし、他の人に言わなければ大丈夫。ということで、言わないよね?」
「はい、命の恩人ですし、私の髪を見ても気持ち悪がらないほど優しい人ですもの。裏切ったりはしませんよ」
なんか、そこまで言われると照れるな。
とりあえず、気持ち赤くなった頬を誤魔化しながら、
「――自身ステータスチェック」
【名前】 レイティア
【種族】 ヒト族(?)
【性別】 男
【階位】 52
【魔力】 3640000
【職業】
【その他】
称号:ゴブリンスレイヤー
おー、なんか百万超えてやがるぜ。でも、2000ちょいで大賢者レベルなんだろ?
「な……え、は、ちょ?え!?」
あー、そりゃそうなるわな。でも、予想通りの反応をしたからくすりと笑ってしまった。
にしても、360万か。もはや人じゃないな。ステータス的にも。
……ヒト族(?)て。
遅くなりました。