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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第五章【命の水 白き器】
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第十七話【晩餐会】~その一粒が世界を変える~



 木箱の中で大切にしまってあった革袋を取り出す。これがこの世界を救うことができるのかどうかは分からない。だが、これに賭けるしかない。


 革袋の口を開けるとふわりと懐かしい秋の香りが鼻腔を擽った。


***


 台車の上に乗せられた鍋と数枚の磁器の皿。木皿ですら十分すぎる俺の取るに足らない料理に銀貨数十枚の価値がある白い磁器製の皿が用意されたのは、それにそぐう物を出して見ろという挑発なのだろう。


「お待たせしました」


 今回の食事会で使用される部屋は、前回チノがぶっ壊した離れとなっている礼拝堂ではなく、屋敷の中にある広間だった。


 扉を開け、台車を押して中に入ると真っ先にウルスラが声をかけてきた。


「遅い! 余は待ちくたびれたぞカズヒサッ!」


「はぁ? 指定された時間より少し早いくらいだぞ?」


 指定されたのは日没頃。完全に日が沈むより早く食事を運んできたのだから、遅いということはない。


「ふん、成長著しい妾じゃぞ? 食事の時間は早ければ早いほどよい」


「いや、お前次第じゃねーか」


 笑うウルスラの後ろに控える騎士に怪訝そうに睨まれるが、俺の軽口に何も言ってこないということは、よく言い聞かされているのだろう。


 その正面にはいわゆる余所行き用の正装に身を包むチノがガチガチに固まって座っていたが、無視しておこう。


「ふふ、楽しみに待ってたわ。今日は私を驚かせてくれるんでしょう?」


「えぇ、もちろんです。お口に合えばよろしいのですが。ちなみにそちらのお二方は・・・?」


 直接聞くのは失礼だと思い、チノの隣に座る四十前後と思わる男女のことを聞いてみた。


「もう、食事が始まったら紹介しようと思っていたのに、カズヒサちゃんたらせっかちさんなんだからん。彼はレオナルド・アロルド・ヴァネッティ。私が騎士をやっていた頃の部下で、この間まで帝国で最も位の高い聖騎士パラディンだったけど、今は訳あって死んでいることになっているわ。そして、隣に座っているのが奥方のナヴィア。とってもお料理が上手なのよ」


「まぁ、料理上手だなんてそんな、アンフィビアン卿ったら」


 隣に座っている夫が死んだことになっているにもかかわらず、奥さんの方は気さくさがにじみ出ている。


「んふふ、今日のお昼は素晴らしかったわ。あなたがここへ来て妻も喜んでいるのよ。またお茶の相手をしてあげてちょうだい」


「ふふ、もちろんですわ」


 どうも元々親交が深い様子で、あの無駄にキャラが濃ゆいアンフィビアン卿に臆することなく話している。


「カズヒサ殿、此度は我々の身を匿ってくださるとのこと、深く感謝申し上げます」


 席を立ち、目の前にまで歩み寄ってきた騎士は深く頭を下げた。


「え、なんのこと? 匿う?」


「む? 先程、そちらにいらっしゃる族長殿にも返事を頂いたのですが」


「あ、あぁ、たぶん内容が頭に入ってないですね。権力にめっぽう弱いんで、領主様とお姫様が目の前にいるんで緊張で固まってるんですよ。あぁー、この様子だと〝はい〟としか言えないですね」


 チノの現状を説明していると、レオナルドと俺の会話にウルスラが割って入ってきた。


「ほれ、この間説明したであろう? 腕の立つ騎士を派遣するとな。文字通り、帝国一腕が立つ騎士を連れてきてやったぞ!」


「いや、流石にこんなすごい人を連れて来るなんて考えてもなかったんだが」


「構わぬではないか、強すぎるくらいで何の問題もありはせん。それとも何じゃ、帝国随一の騎士では不服があると?」


 悪戯が楽しくてたまらないと言いたげなウルスラは、クスクスと笑いをもらす。


「んなこと言ってねーよ。ゴホンッ・・・我が族長に変わりまして挨拶申し上げます。レオナルド殿、奥方殿、まだ何もない村ではございますが、お力をお貸しください」


「こちらこそ世話になる身。微力ながらご助力できればと思う所存。それに友と久しくぶりに会うことができます故、楽しみでしかたがありませんな」


「友?」


 思いもよらぬ単語が再び出てきたため、漏れ出た言葉が問いかけになってしまった。


「えぇ、ゲレルという者なのですが、モングールに滞在していた際に力比べによく相撲を取ったものです」


「え、モングールに滞在? あのゲレルのおっさんと相撲?」


 状況が上手く飲み込めていないのを汲み取ったのか、アンフィビアン卿が補足の説明をしてくれた。


「レオも私と共に陛下に付き従って旅をしてたのよ」


「あぁ、そうだったんですか」


「もう二十五年以上経つのねえ、その頃のレオはまだ騎士見習いでね、すぐにピーピー泣いて可愛かったのよぉ。冬の川を渡る時なんて―――」


 昔話が始まったかと思うと、レオナルドがすぐに遮りに走った。


「お、おやめくださいアンフィビアン卿! それも妻の前で!」


「あら、別にいいじゃない。あなたも聞きたいでしょうナヴィ?」


「えぇ、ぜひ。夫の昔話を聞かせて頂きたいですわ」


 アンフィビアン卿の背後を取り、両手で口を塞ぐがそれをものともせず腕を掴み、軽々と口から剥して続きを話そうとする。


 領主の口元を押さえて何も言われないとは、よっぽど二人の仲が良いということは見ていて分かった。


「で、殿下が食事を心待ちにしていらっしゃいます。私めなどの話で時間を取ってしまっては不敬にございます」


「よい、妾も興味がある。食事をしながらで構わん、続けよ。それと、レオナルド早く卓へ戻れ、配膳ができんであろう」


「ぐっ・・・かしこまりました」


 見てわかる程に肩を落とし、意気消沈という様子でレオナルドは自分の席へと戻っていった。


 挨拶は澄んだようなので準備に戻る。あくまで食事会の前座、前菜という扱いでもないため、それほど多くの量はよそわない。


 それ程大きくない平皿の上に鍋の中身をよそい、胡椒とパセリのような香草を細かく刻み乾燥させたものを振りかけて色どりを整える。盛りつけが済んだものから部屋で待機していた給仕の方々が配膳してくれた。


「お待たせ致しました。燻製干し肉とチーズのリゾットです。どうぞご賞味ください」


「ふむ・・・自信あり気に出してもらっておいてなんじゃが、ただの麦粥ではないか?」


「まぁまぁ、殿下。まずは頂くとしましょう?」


「それもそうじゃな。アンフィビアン卿、略式で構わん祈りを」


 聖光教に喧嘩を売ろうってのに、食前の祈りを行なうところを見ると教義ではなく今の体制や教会側の目論見が問題なのだろう。


 俺も何度も聖書を読み返したが、おかしい箇所は見当たらなかった。俺が居た世界ですらイチジクの木を枯らす神がいるっていうのに、むしろ聖書は人の生きる道を正しく説いている。だが、なぜあの内容で亜人への風当りが強くなるのかが謎だ。


「光よ、我らに生きる糧をお与えくださり感謝します・・・では、頂きましょう」


 訝し気な表情。端的に言えば、デートで何でも良いと言った彼女を近所のラーメン屋に連れて行った時の顔だ。まぁ、彼女なんてできたことない童貞の勝手な偏見なのだけれども。そんな顔をしたウルスラは匙でリゾットを掬って一口食べ、それに他の者たちも続く。


「ふむ、味は悪くないどころか美味い。が、別段驚くほどでもない。それより何じゃこれ、慣れぬ食感じゃが・・・ちゃんとした麦を使っておるのか?」


 食への熱い探求精神を持つだけあって流石ウルスラと言ったところだろうか、それが何なのかは分からなくとも、すぐに違和感に気が付いた。


「これは・・・米ね」


 最初にそれが何なのかに辿り着いたのは、アンフィビアン卿だった。


「流石ですねアンフィビアン卿」


「でも、どうやって・・・?」


 もう一度口に含むと、アンフィビアンは思考を巡らせる。米は鎖国国家である倭国が栽培と流通を独占している。種籾を手に入れようにも、脱穀、精米を経て発芽できなくした物しか輸出しないという厳重さだ。輸入している物は麦を食べることができない貴族向けで市場には流していない・・・いや、流通させるだけの物量を引き出せていないのが現状。


 麦を食べれない者は水面下に多く居る。原因は分からないが麦を口にすると、酷い湿疹が出たり、呼吸ができずに死ぬ者が出てくる。問題は、その者たちは戦争に参加することが難しくなるということだ。

 

 アンフィビアンの眼光が鋭く光った。実に欲しい。戦争だけでなく帝国の食糧問題をも一気に解消できる起爆材となる可能性がある。


「カズヒサちゃん、どうやってこれを手に入れたというの?」


「そうですね・・・ご存じの通り、僕はこの世界の住人ではありません。今回お出しした米は、僕が生まれ育った世界で栽培されているものです」


 アンフィビアン卿から不穏な気配を感じるため、一応釘を刺しておくことにする。


「収穫量は麦と比較して格段に良いですが、栽培を始めるには現状の麦畑では不可能です」


「・・・それはどういう事かしら?」


 すぐにでも栽培を始めたかったのだろう。その表情を曇らせながら問われる。


「まず、栽培には大量の水が必用です」


「それなら安心して、うちの領地は幸いなことに水に恵まれてるから問題ないわ」 


 俺の懸念に対して自信を持って答えるが、問題はそこだけではない。


「確かに、山脈からの豊かな雪解け水によって多くの河川があるのは存じています。問題は、使用する畑を池にしなくてはならないのです」


「・・・池? 小麦畑を?」


「はい、池です。この米は畑でも育ちはしますが、乾燥に弱いので収穫量が天気に大きな影響を受けます。そこで安定して収穫できるよう、畑に浅く水を張って土を泥にする必要があるわけです」


 アンフィビアン卿は難しい顔をして短い間ではあったが考え込み、口を開いた。


「そうなると、畑の改修に大規模な治水が必用になってくるわね・・・カズヒサちゃん、私の領地全土に種籾を行きわたらせるには何年位かかるかしら?」


「・・・最速でも四年、ですが五年は見た方が良いでしょう。そこから栽培を開始して税として取り立てできるようになるのにさらに二年は見る必要があるでしょうね」


「四年と言った根拠は何かしら?」


「そうですね、根拠をあげると種籾の課題があります。今存在する種籾をカースド大森林で増やす必用があり、二年もあれば周囲の村の分にはなるはずです。そのためには、三年後の夏までに山脈から続く川の上流に巨大な貯水池を建造し、周囲の村々の畑から米を育てる田へ改修しなければなりません。それができなければ、全領土の種籾を賄えないでしょう。ですが、全てを畑にするのは現実的ではないかと」


 アンフィビアン領と言えど、その実態は配下の爵位持ちに地方の土地を分配し、税を回収させてその内の何割かを納めさせているに過ぎない。

 米の栽培にはそれぞれの土地を納めている権力者の協力が必用になることがネックだ。


「・・・田舎の口うるさい奴らは私が捻り潰すとして、問題は技術者ね」


 どうやら力で解決できる強権を持っているようだし、これで米の普及はどうにかなるだろう。


「・・・おっと、二人で熱くなってしまったようです。ウル・・・殿下との食事の場ですし、物騒な話はまた後程改めて場を設けませんか?」


「あら、確かにそうね」


「む? 別に構わんぞ。無いに等しい妾の名声を使うもよし、領主達が持つ兵団を一つひとつ力でねじ伏せ、血祭りにした上で屈服させるのもまた一興よ」


 随分とまぁ、血の気の多いお姫様である。食事の場で血生臭い話は勘弁願いたいものだ。


「はしたないですよ殿下。レオナルド殿の奥様もいらっしゃいます」


「ふむ、つまらん。しかしまぁ、バルの言う通りじゃな」


 騎士に諫められた姫は器に残った最後の一口を匙で掬い取り平らげる。


「カズヒサよ、おかわりを頼む! たっぷりとじゃぞ!」


「ハイハイ、ちょっと待ってなー」


 皿を受け取り、再び鍋からリゾットを掬って盛り付けていると、手持無沙汰なウルスラがアンフィビアン卿と何やら話し始めた。


「そういえば卿よ、この食事でカズヒサと賭けをしていると話しておったな。して、この料理は卿のお眼鏡にはかなったのか?」


「そうですねぇ、控えめにいって歴史が変わった・・・いえ、塗り変えられたと言ったところでしょうか。ありふれた家庭料理でありながら、この帝国において最も広い世界に生きる私を驚かせたのですから文句の付けようがありませんわ」


 その返答を聞いたウルスラは口角を上げ、誇らしげに胸を張る。


「ふふ、左様か。流石は我が友じゃ」


「帝国の王女様に褒められるとは光栄だな。ほれ、おかわり」


「むぅ、ここは友と呼ぶとこじゃぞ?」


 少し不貞腐れながら匙に手を伸ばすウルスラは上手そうにリゾットを頬張る。


「して、カズヒサは何を望む? 安心せい、卿の懐は常夏より温かく、海の底より深い。言えば何でも出てくるぞ?」


「ふふふ、流石に大袈裟過ぎますよ殿下。私は井戸を満たす程度の貨幣しか持ち合わせていませんわ」


 ここで銀貨と言わないあたりが、アンフィビアン卿の怖ろしいところだ。


「私の力が及ぶ範囲であれば何でもあげるわ。それで、カズヒサちゃんの欲しい物は何かしら?」


「そうですねぇ・・・物ではありませんが、これから村を発展させるに当たって人的資源が足りてないんですよねぇ・・・」


 物の中に人が入るのか確認するために、とりあえずジャブを打ってみることにした。


「あら、人工にんくが足りないならいくらでも派遣できるわよ?」


 どうやら物品だけではなく、人材も許容の範囲内らしい。


「そうなんですか! では、希望者だけで構わないので、このレトリアで衛兵をしている亜人の方を村へ移住させてくれませんか? 当然、縛りはしませんが永住が前提です」


「もちろん構わないけど・・・その心は?」


 二つ返事が返ってくると思っていたが、意外にもアンフィビアンはどこか引っかかるという様子だ。


「技術が欲しいんです。モングールは流浪の民であって、拠点防衛に対する知識がないに等しい。今は付け焼刃とおそらく影ながら動いてくれていたチノのおかげで何とかなっていますが・・・」


「そうね、時が来ればチノちゃんとカズヒサちゃんは帝国を巡らなくてはならない。でも、モングールを鍛える人材ならレオナルドが居るわよ?」


「失礼ながら、私はレオナルド殿の実力は存じ上げません。ですが殿下の話では帝国随一の騎士とのこと。であれば、僕やチノのように時が来れば戦場に立つことは明白であり、その際に魔獣や聖光軍から村の防衛を任せられる人材が必要なんです」


 あまり良い顔をしないアンフィビアン卿は、モングールが軍事的に力を持つことに対して警戒しているのかと疑いかけたが、それがすぐに杞憂であることがわかった。


「・・・いいでしょう。では移住を希望する子たちへの待遇はどうなるのかしら?」


 ラドバルク領の民からしてみればアンフィビアン卿は奴隷解放の英雄。彼が心配していたのは、モングールの村に送る者たちが人間として生きる権利が保障されるか否かという点だったのだ。


 派遣と定住ではその意味は大きく違ってくる。派遣であれば期間を決め卿の金でその者たちの生活を保障することができる。だが、定住となれば話が変わってくる。希望者の一生を支えることは難しい上、管理することなど到底不可能。


「そうですね。衛兵としての仕事はもちろん、うちの若い連中への指南。あとは繁忙期に農作業を手伝ってもらうことになりますね。長屋を用意するので移住者は完全個室を、家族連れなら一軒家を。食事は食堂で全員分用意してるので自由度は少ないですね。衣服は羊を潰した際の素材が大量にあるので心配はいらないかと」


 実際、何人来たところで食い扶持はもちろん、土地も問題ない。


「私に甘えず納税も完遂しているからあなたの言葉を疑う余地はない・・・いいわ、それがカズヒサちゃんが望むというなら叶えましょう。あなたたちがレトリアを発つまでに移住希望者を募り支度させておくわ」


「はい、ありがとうございます」


 話が纏まったところでウルスラが話に割って入ってきた。


「なんじゃ、広大な土地を寄こせだの、金銀財宝を寄こせだの、独立させろだの言うかと思えば、衛兵の移住者を募るだけとはな。そもそも、希望者が居なかったどうするつもりじゃ? 欲がない奴は大成できぬぞ」


「身の丈に合わない物を求めれば、その重さに耐えきれずに潰れてしまう。あんちゃんから金や土地を貰ったとしても人手が無きゃ遊ばせるだけだし、独立したところでモングールの後ろ盾となってくれている人たちに泥をかけるだけで何一つ得がないだろ」


 俺の返答を聞いた第三王女様は眠たそうな、いや、実に面白くない話を聞かされているという表情をこちらへと向け、あくびをかましやがった。


「なんじゃそこまで分かっておったのか、つまらぬのう・・・使い道が無くては金も石ころもなんら変わらぬ、土地も権利もそうじゃ。妾は卿の困り果てた顔が見れるかと思ったのじゃが興覚めじゃのう。カズヒサを諫めて卿に貸しを作る計画がご破算じゃ」


「ふふふ、残念でしたね殿下」


「その腹立たしい笑みをやめよ卿。それにしてもカズヒサよ、これは確かに美味いんじゃが、如何せん物足りぬ。そちは妾の好みを知っておるであろう?」


「あぁ、ごめんごめん。ちゃんと用意してるぞ」


 市場で購入した豚の肩塊肉にたっぷりの塩と香草を擦り込み、定期的に竈から出してラードと蜂蜜を塗りながらじっくり低温で焼きあげた。それを薄くスライスして、皿に盛り付けて配膳する。


「ソースは塩味の聞いた肉汁に葡萄酒、酢、蜂蜜を加えて煮立たせ、そこに赤からしの辛味で味を引き締めてみました。付け合わせは人参の甘煮、潰した芋に卵、調味料を加えて揚げたものです」


「ほー、いいではないか。こういうのでいいじゃよ。こういうので」


 当然ながら、配膳が終わると同時に真っ先にシルバーを握ったのウルスラだった。


「これじゃ! これこれぇっ! 舌を殴りつけるような味の暴力! 下品でうまいっ!」


「殿下、はしたないですよ」


 求めていた肉と塩味で脳からアドレナリンが噴出したのだろうか、ウルスラは興奮しているようだ。


「やかましいぞバル! これを食うてみよっ!」


「私はぐっ―――」


 虚を突かれ無理矢理口の中にフォークを突っ込まれたバルサルクは、怪訝そうな顔をしたがすぐに目を見開いた。


「ふっふっふ。どうじゃ、うまいじゃろ?」


「・・・どんなに味が良かろうと、殿下の無作法とは関係がありません」


「強情で堅物とは救いがないのう、旨いなら素直に申せば良いものを」


 ウルスラを窘める声に力が入っていないところをみると、どうやらバルサルクの口にも合った様子だ。


「あら、ほんと。このお料理美味しいわ」


 ここまでレオナルドの隣でニコニコとしていただけのナヴィアが口を開いた。


「お褒めに預かり光栄です。ナヴィア夫人」


 にこやかな表情でお世辞かもしれない誉め言葉に対応すると、アンフィビアン卿が野次を飛ばしてきた。気が付けば葡萄酒のピッチャーを交換してやがる。


「ちょっとー、カズヒサちゃん? ナヴィーが料理を褒めるなんて珍しいのよ? もっと喜びなさいよ」


「もう、フィヴィーったら、あなた唯でさえ偉いんだからそんなこと言ったら逆らえないでしょう?」


 フィ、フィヴィー? この二人の関係なんなの、怖いんだけど。レオナルド殿は呆れた顔してるし、聞くに聞けないんだけど。


「あらやだ、ごめんなさーい。でもこれ本当に美味しいわ、ナヴィーが褒めるだけはあるわねぇ。それに、塩気が強いからお酒が進むわぁ」


 何はともあれ皆が喜んでくれて何よりだ。相変わらずチノはにこやかな表情で固まった置物と化しているが、出された料理を一定間隔で食べているし問題ないだろう。


 まぁ、味は感じていないだろうが。


 欲しい条件は引き出せたし、今日の晩餐会は大成功と言っていいだろう。あとは、タランが自分で決めるだけだ。

お久しぶりです。

作家先生にはなれてませんが

子供たちの先生にはなれました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新再開していただいて、とても嬉しいです。 話題も農作業(水田)となりそうですね。田植か直播きかになるのか不明ですが、小学校に付属田があって高学年は田植えをやってました、稲刈りや稲架掛け…
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