第六話【関所にて】~豪快な姉弟~
レトリアまでは二週間かかる予定であったが、連れている家畜がいないこともあって二日程早く到着することができた。
流石は商業都市なだけあって、関所を越えるための荷馬車が列を作って待っている。
レトリアで亜人が働いて生活しているのは知っていたが、まさか兵士にも亜人を雇っているとは思いもしなかった。
頭には角が生え、ピンと横へ伸びた耳が人牛族の特徴だとチノが教えてくれた。その赤毛の強面な青年は、太くよく通る声で人頭税と、荷の量で並ぶ検問所を案内している様子だった。
荷馬車の行列の最後尾に、大商隊の如く荷馬車を引き連れている俺たちが並んだのが見えたのだろう、こちらを向いて目が合った。その途端、それまでは険しい顔で応対していた青年がパッと明るく笑って駆け寄ってきた。
「よぉ、兄ちゃん! あんたがカズヒサだろ? そんで、こっちがモングールの族長さんだな」
「あ、あぁ。そうですが」
「は、ひゃい! そがんですっ!」
どうやら、見た目通り剛毅な性格のようだ。
「やっぱりな! 俺はモクシってんだ。この関所の衛兵隊の副隊長を任されてる。あんたらの話は領主様から聞いてるぜ。今後一切の人頭税、検閲を免除して構わないとお達しが出てっから、並んでいる奴らは追い抜いて先に進みな」
思いもよらぬ好待遇の申し出であったが、チノに相談することもせずにそれを断ることにした。
「心遣い感謝します。しかし、せっかくの申し出ですがお断りします。それが善意か悪意かの違いなだけで、帝国がやっていることと変わらないことは、副隊長さんもよくおわかりでしょう?」
久しぶりに敬語を使うため、若干の不安を覚えつつも返答する。
「ふっ・・・はっはっは! 本当に言いやがった! あーくっそ、賭けは俺の負けじゃねえか。あっはっはっは!」
こちらに構うことなく、腹を抱えて笑うモクシに俺とチノはキョトンとしてしまう。
「あー、悪かったな。特権に関しちゃあ、本当に与えると言われてたんだ。だけどな、二人は断るだろうって領主様が言うもんだからよう、そんなん断る奴いませんぜって俺が言ったら。賭けをすることになってな。あーあ、お前らのせいで賃上げの話が飛んじまった。はっはっは!」
どうやら、俺たちは勝手に賭けの材料にされていたらしい。
「そんじゃ、納税者の列はあっちだ。一人頭百コパで入れるぜ」
「へぇ、納税者の人頭税は安いんですね」
以前は五百コパ取られたため、その五分の一で入れるのはありがたい。
「そりゃそうだ。税を納めに来て、その上、高い人頭税まで取られてちゃ農民たちも反感もつだろ?」
「それでも、人頭税を取らないってことにはならないんですね」
「まぁ、農民も商魂たくましいからなぁ。余分にできた作物を中で売ったり、村にない物を買ったりしていく。レトリアの中で物を売って儲けた金に税はかけてねえから、人頭税を取っても農民たちはホクホク面で払っていくぜ」
「でも、無税だと店を構えてる人たちが困るんじゃないんですか?」
普段から税の分を上乗せして販売している者達が、無税で売ることができる者達に太刀打ちできるはずがない。
「あー、難しい話はよく分からんが、その辺は大丈夫だろ。納税の期間は決められてるし、レトリアに滞在できる期限もある。それに、物を住人に直接売る奴も居るが、商店に卸す方が多いんじゃねえかな。小麦や芋に関しちゃあ領主から仕入れるより安く済むから、ありがてえって話だぜ」
喋り方は粗暴ではあるものの、要領を得た説明からモクシの有能さが窺える。
「もう終わりの方だから落ち着いちまってるけどよ、納税月の始まりはお祭り騒ぎで賑やかなんだぜ。毎年、隣村のジジイが出来立てのエールを持って来るんだけどよう、これがまたうめえくせに安く飲めっから毎年楽しみにしてんだ。まぁ、検閲で死ぬほど忙しいけどな!がっはっはっはっは! あでっ!」
豪快に笑うモクシが突然、前のめりに倒れ込むと鎧に身を包んだ小柄な女性が現れる。
「痛ってーな・・・いきなり何すんだよ姉ち、あでっ!」
無言で振り下ろされる拳は容赦なくモクシの後頭部を捉え、地面に叩きつけられる。
「ふん、愚か者が職務中は隊長と呼べと言っているだろう」
そのサラリと真直ぐに伸びる赤毛の頭部には一対の角を持ち、横へと伸びる耳の女性は、軽々とモクシの首を掴んで持ち上げる。
「貴様、来訪者との情報交換をするのは構わんが、入場の手続きを待っているのはモングール族だけではないのだ。やるべき職務を全うしろ」
「イ、イェス・・・マム・・・」
「もう一発食らいたくなければ、さっさと立て愚か者が」
すでに虫の息ではあるが、モクシは頭を押さえながら立ち上がった。
「っかー! 痛ってぇー!」
「その程度で泣き言とは鍛え方が足りんようだな」
「か、勘弁してください隊長っ!」
まさか、敬語を使えたとは・・・! と、心の中で驚いたものの、口に出しはしなかった。隣に座っているチノを見ると同じように驚いている様子だった。
こうして、なんやかんやありつつも(?) 俺たちは無事に関所を越えたのだった。




