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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第五章【命の水 白き器】
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第三話【求婚Ⅰ】



 収穫期を目前に作られた急ごしらえの倉庫から、バケツリレーの要領で小麦を運び出し、荷車の上に並べられた樽の中へと納めていく。


 倉庫とは言ったものの、実際は無造作に小麦を入れているプールと言った方が良いのだろう。高床式にしたかったのだが、収穫の前は図面を引く時間さえなかった。そのため、構造は水が入らないように小屋を建て、その中に巨大な器を作ったに過ぎない。


 これらの倉庫は中身が空になり次第、高床式に改築していく予定であるため、俺たちがレトリアに向かうと同時にバラされることだろう。そして、俺たちが帰ってくる頃には高床式として生まれ変わっているはずだ。


「おーい! 今度は、ハワル兄ちゃんが挨拶しに家ば出たぞー!」


 小麦や続々と集まってくる品を検品していると、休憩に行っていたエレルヘグが手を振りながら戻ってきた。 


「お! とうとう行ったか! まぁ、あいつは親公認んだから心配いらねえんだよな。まぁ、キョドって面白そうだから見に行ってやるか!」


「悪いフイテン、少しの間任せて良いか?」


「あ、はい。よかですけど、あんまり遅うならんでくださいよ?」


 俺と同じく必死に羽ペンを走らせて検品作業に追われているフイテンは、少し困ったようにそう言って送り出してくれた。


「わかってるって! ありがとなー!」


 走るエレルヘグの後を追ってウースの家に行くと、ハワルと母親が普段は見ることのない鮮やかな正装を身に纏い、家の前に広げられた敷物の上に腰を下ろすところだった。


 二人が腰かけると、ウースの母親が二人に茶を出して話が始まった。


 緊張した面持ちのハワルが意を決した表情で口を開こうとしたとき、ウースの父親であるティメが話し始めた。


「そいは、ドゥルグーンが着とったやつじゃなかや・・・?」


「はい、おいの親父が着とったもんです」


 それを聞いたティメは無言で何度も頷き、ようやく口を開く。


「そうか・・・生意気かチビ共ば引き連れて、悪戯ばっかいしくされとったあのハワルがこがん立派になって。おいは今、若っか頃のドゥルグーンば見よっごたぞ」


「あ、ありがとうございます!」


 ハワルの言葉に頷くと、ティメは母親の方へと視線を向けた。


「ノール・・・ドゥルの奴が居らんごとなって一人で大変やったばってん、ハワルば良か男に育てたのう」


「ふふ。そりゃあ、そうよー。うちとドゥルの子やけんねー」


 ハワルの母であるノールは、臆することなくそう言ってのけた。


「気の大きか所はお前に似たごたにゃ。まぁ一年前、お前の倅に娘ば寄こせ言われた時、やるって言うたけん、これ以上ハワルに頭ば下げさせるつもりもなか。ノール、至らんところもあるやろうばってん、おいの自慢の娘ばよろしゅう頼む」


「はーい、頼まれました。ばってんウースちゃんは、フセフちゃん似のしっかり者やけん、うちが教えることはなーんも無かっちゃない?」


 ノールに微笑まれたウースは、恐縮した様子で縮こまっていた。


 主役の二人が発言することはほとんどなく、親同士が思い出話に熱が入り始めたため、ここにいてもこれ以上面白いものが見れる気配もないため、立ち去ることにした。


 まぁ、ハワルのキョドった姿を見れただけで良しとしよう。あとは結婚式で全力で弄り倒すだけだ。


 エレルヘグと二人で持ち場に戻る道を歩く。その横顔はどこか思うところがある様子。


「二年もすればエレルヘグとウウゥルも結婚かぁ。もう良い相手とかいるのか?」


「ウウゥルがどがんか知らんばってん、おいは約束しとるもんのおる」


 まさかのリア充発言に思わず瞳孔が開きかけたが、彼女がいることは良いことだと言い聞かせこの感情をどうにか飲み込む。


「そうか、相手はだれだ?」


「カズヒサは、すぐ人んことば茶化すけん言わん」


 十五のガキに俺の思考が完全に読まれていたことに軽いショックを受けていると、エレルヘグが不意に指をさした。


「あれ、今日って窯ば使いよったっけ? 煙の出よっばい」


「いや、今日は使ってないはずだけどな・・・野焼きだと思うけど一応見に行ってみるか」


「うん」


 役場前の広場に向かう道を外れ、家と家の隙間を抜けて水車の方へと向かうことにした。


***


 炎が爆ぜる音。水滴が落ちて昇る蒸気。そんな目の前の光景におれとエレルヘグは目を細めた。


 火と距離を取って座っていたゾンが、こちらの存在に気が付いたのか首を曲げて振り返る。


「何やお前らか」


「いや、ゾン・・・・何やってんだ?」


「何って、見りゃ分かるやろ。猪の丸焼きだ」


 問いに対して不思議そうな顔をして返答してきたが、俺たちが聞いているのはそういう事ではない。


「お前、今日挨拶に行くって言ってなかったか?」


「おう。そうけん、こいば手土産に持ってこうかと思うて、朝一で森に入って狩ってきたとこたい」


 キレイに皮が剥されたイノシシは、口から肛門を棒で一直線に貫かれて火に炙られている。丁寧な仕事ぶりの中に違和感を感じた俺は、それに気が付くのに時間はかからなかった。


「牙が折れてっけど、もしかしてこの猪・・・素手で?」


「あぁ、生きたまま血抜きばせんぎ臭みの出て味の落ちっけんなぁ。抑え込んで縛ってここでバラしたとぞ。牙は残したかったばってん、眠らせようかて思うて石ば投げようってしたぎ、こいが突進してこらいたけん牙ば掴んだぎ、へし折ってしもうた。あっはっは!」


 笑えねえよ。と心の中でツッコミを入れる。それにしても普段は言葉数が少ないくせに、えらく今日は饒舌である。よほど結婚が嬉しいと見える。


 それもそうだ。一年前までは滅亡寸前までおいこまれていたのだから、こんなに早く結婚できるとは夢にも思っていなかったことだろう。


 ゾンは小刀を肉に突き刺して溢れて出てくる肉汁と、切れ目から中身を見て火の通りを確認する。


「よし、こいでよかやろ」


 ゾンは猪を貫く棒を片手で握ると、軽々と持ち上げて荷車の上に置かれた板の上に下ろ

す。そして板と一緒に乗っていた桶で川の水を汲むと、それを撒いて火を消した。


「そういや、ゾンの浮ついた話は聞いたことなかったけど誰なんだ?」


「あぁ、言っとらんやったか。相手はエムだ」


「エムっていえば、ドーラフ婆様の孫娘か。何人も結婚を申し出て断られたって話だったけど、ゾンに決まってたんだな」


 俺の言葉にゾンは鼻で笑う。堂々と言ってのけた。


「いや、決まっとらん。ばってんエムは、おいのことば待っとらぁけん行かんぎいかん」


「含ませる言い方だな。何かあるのかよ?」


 ゾンは荷車の持ち手を掴むと、こちらを向く。


「そうだな・・・話してやっけんお前たちも来い。おい達だけじゃ食い切らんけんしな」


 歩き出したゾンは、何から話そうかと考えた表情を見せたが、それほど間を置かずに話し始めた。

お久しぶりです。

課題と実習で更新できませんでした。

しばらく難しそうです。

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