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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第四章 大地の恵み 動き出した歯車
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十八話【浴場造り 〜目の前の風呂は遠く〜】

浴場造りおしまいです。


今回は話の転換で久しぶりのキャラクターが登場します。


 氷長石を取りに行って二日後、浴場造りが開始されて三週間目の朝を迎えた。


 いつも通りの朝を迎えチノと朝食を取り、モングール族一同が集まって、正装をしたチノを洞窟の中へと見送り解散となった。


 特に宴会や特別な食事が振舞われるわけでもなく、淡々とチノは洞窟の中へと入っていった。


「残り一週間か・・・」


 チノが洞窟から出てくるまで残り一週間。それまでにどうにか浴場を完成させなくてはならない。


「お前ら! ここまでよく頑張った! 登り窯も無事に完成したし、浴場のガワもできてきた。あとはタイルを張っていけば完成だ! 残された時間は一週間! さっさと終わらせて気持ちよく一風呂浴びようぜ!」


「「「「おぉー!」」」」


「そんじゃ、お前ら火は持ったか?」


「おう、いつでもいいぜ!」


「やっとか、長かったにゃあここまで」


「ほんなごてぞ・・・」


「あ、おいの奴消えそうやけん早う入れようさ!」


 全員の手には先端が燻っている木の棒が握られている。


「よっし、じゃあ放り込めぇ!」


 その一声で一斉に登り窯の中へ火の着いた棒が放り込まれていく。

 放り込まれた木の棒から、敷き詰められた大量の麦藁へと火は移り、凄まじい勢いで火が上がっていく。


 こうして登り窯の点火式が終え、これからは、薪をくべる者と浴場の組み立て、釉薬作りの三手に分かれることになる。


 窯の中の温度を九百度以上にするため、一心不乱に薪が放り込まれ、火力が安定するまではふいごで風を送り続ける。


 火の番を人に任せて浴場の方へと足を運ぶ。


「おぉ、待っとったぞカズヒサ!」


「悪いハワル、火入れで遅くなった。型枠の準備は?」


「できとるばってん、こいでよかとや?」


 ハワル指差す方には、大きい長方形の中にもう一つ小さな長方形を入れた型枠が設置されている。 


 外側と内側の間隔が一定か、毛糸で測って確認する。


「上出来じゃねえか。あとはセメントを流し込むだけだな」


「おーい! 許しん出たけん、セメントに水入れてよかぞー!」


「「「あいよ!」」」


 出口に向かって叫んだハワルの一声に、外で待機していた者達が待っていましたと言わんが仮に返答してきた。


「任せて大丈夫そうだな」


「おう、ゾンもおっけん大丈夫ぞ」


 さっきの声の中に、ゾンの声も混ざっていたことから全力で力作業をやらせる気なのだろう。まぁ、本人もそっちの方が気が楽だろうが。


「じゃあ、任せた」


「おう! カズヒサは何ばすっとや?」


「俺か? 俺は今から釉薬作りだな」


「あぁ、あの一回焼いた後に塗る薬か」


「そそ。ナマルとウウゥル待たせてるからまたな!」


 浴場を後にして、水車の方へ戻る。


「丁度良か時にきたな」


「さっき砕き終わって、粉ば振るいにかけて樽ん中に入れたばい」


「お、仕事がはえーな」


 樽の中を見ると、キラキラと光る白い粉で三分の一程まで埋まっていた。


「にしても勿体なかにゃー、あがん奇麗か宝石やっぎ街に持っていきゃあ高こう売れたやろ」


「そうかもな。確かに良い金にはなるだろうが、あんなんで稼いでもいつか取りつくして終わりだ。金は地道に稼ぐ方が良いんだよ。あ、ウウゥル。そっちの樽に入ってる灰を氷長石の半分の量入れてくれ」


「はいはーい」


 氷長石の粉末の半分ほどの量の木灰を入れ、さらに動物の骨を焼いて粉にした骨灰と、水に濡れて滑らないようにアルミナとして陶石の粉、さらに材料が溶けやすくなるようにアルカリ質として石灰の粉も加える。


「あとは、水で溶いて完成だな」


 釉薬は完成したが、四千枚と予備の分を考えると全然足りないため、どんどん量産していく。


 すぐに氷長石が足りなくなるため、再びエレルヘグと共に材料を取りに行ってたら一日があっという間に過ぎていった。


 深夜に窯からは火が落とされ、本来であれば丸一日放置するのだが、側面の煉瓦を三分の一程を外して空気を通し、昼頃には冷めるようにした。


 翌朝の昼前には触れる温度になったため、全員総出の人海戦術でタイルを運び出し、釉薬を付けて再び窯の中へと収める。


 本来であれば窯の中に入れる前に乾燥させる必要があるが、低温で数時間の焼成時間を取り、完全に乾燥してから窯の温度を上げれば問題ないと判断した。


 煙突からは黒々とした煙が上がり、窯の入り口は炎の揺らめきが依然として見て取ることができた。



 おそらく窯の中の温度は二百五十度を意識してキープする。とは言ったものの、ほとんど直観のようなもので、火を大きくしすぎないことを意識するだけだ。


 火を入れて四時間、日没からニ時間が経過した。


「よし、やるぞ!」


「「「おぉ!」」」


 薪をくべては、鞴で風を送り火を大きくする。半刻も過ぎると炎の揺らめきは、研ぎ澄まされた刃のように強い輝きとなっていた。


「火の色をよく覚えとけ、これを丸一日維持するからな。でも、目が悪くなるから長い時間火を見つめんなよ」


「熱気のすごさぁ・・・」


「こがん眩しか炎は見たことなかぞ」


「おいウウゥル、あんま見んな。目が焼くっぞってカズヒサが言いよったやろ」

 

「ご、ごめん」


 目指すは千二百度の超高温。なぜ、このような高温が必要なのかというと土に含まれるアルミやカルシウムなどが結合させなくてはならないからだ。また、釉薬を溶かしてガラス化させる必要もある。


 薪をくべては火の様子を見ることを繰り返して五時間、交代の者が来たにもかかわらず、火に魅入られたかのように四人は窯から離れようとしなかった。


 夜が明け、昼が過ぎ、日没がきた。


「よし、時間だ。穴を塞ごう」


 依然として炎は燃え盛っているが入口を煉瓦で塞ぎ、空気の通り道を塞ぐ。


「ここから一日置いても夜だからな、二日後に窯は開ける。それまでは浴場を進めよう」


「おう! もう屋根も半分終わっとるけんな、夕方には皆でやればタイル敷くだけってところまで行けるやろ」


「ほう、大きくでたな。終わらなかったらどうする?」


 ハワルは少し首をかしげて悩んだ後にこう答えた。


「そいぎ、明日の夜飯の肉ばカズヒサに全部やったい」


「それじゃ、終わったら俺の夜飯全部やるよ」


 こうして俺は翌日の夜飯を失った。


 チノが穴に入って五日目の朝。窯を開けるとそこには、ずらりとタイルが並んでおりその光景は圧巻の一言で表すことができた。



「運び出して浴槽と床に取り付けるぞ!」


 ガラス質でありながら、ザラザラとした触り心地になる釉薬をマット釉と呼ぶ。実家で使っていたカップがこのタイプだったなと焼き上がったタイルを触ってふと思い出した。


「そいにしてもカズヒサは何でん作れるとにゃあ、そっちの世界の人間は誰でんこんくらいできっとや?」


「知識があればわからねえけど、まぁ無理だろうな。ナマルだって煉瓦は知ってても作れなかっただろ?」


「じゃあカズヒサは何で作れたとや?」


「それは、俺の故郷が焼き物の産地だったってのと、爺さんの友達の陶芸家が古くなった登り窯を作り直すってことになってな、中学の時に駆り出されたんだ。そん時に窯の作り方だったり、粘土や釉薬の作り方を教わったんだよ」


 つい最近の事だと思っていたら、すでに五年以上の年月が経過していて感慨深い気持ちになる。


「陶芸家?」


「あぁ、今回は俺たちはタイルを作ったけど、祖父さんの友達は皿とか茶碗の食器、壷や花瓶なんかも作ってたな。それを作って売って生きてる人のことだよ」


「おーい、お前ら油売っとらんで早う運べー!」

 

 ナマルと話し込んでいると、浴場の方から戻ってきたハワルに釘を刺された。


「やべ、さっさと終わらせようぜ」


「そだな」


 窯からタイルを受け取って浴場の方へと運ぶ。その時、何かを忘れているような気がしたが腕にかかるタイルの重みで、すぐにそんな考えは掻き消えてしまった。


 十五人総出でセメントを練り、四千枚にも上るタイルの最後の一枚を張り終わったのは六日目の夕方。一ヵ月にも及ぶ大プロジェクト、浴場造りは竣工を迎えることができた。


 チノが洞窟から出てくるのは七日目の日没。


 浴槽内は一番最初に張り付けが終わっているため、七日目の昼頃には水を流せるため、砂や余分な泥などを洗うことができる。それから水を張って湯を沸かしても日没には間に合うだろう。


 一度それぞれの自宅へ戻って体の汚れを落とし、一族皆の食事が終わったのを見計らって食堂に集合する。


 食事時が過ぎ、とうに人の姿がない食堂。そのずらりと並ぶ机の一角には、腰かける十五人の姿があった。


「とりあえず完成だ! これまで本当に皆には頑張ってもらった、だから今日は好きに飲み食いしてくれ!」


「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」


 肉はもちろん、これまでに収穫された作物が調理されて机に並べられている。


 良く冷やされた馬乳酒を飲みかわし、料理を食らい、盛り上がっていく。まるで、この一ヵ月で抑圧されていたものが解放され、その反動のようだった。


「おいカズヒサ! 答え合わせばすっぞー!」


「こっちゃ来ぉーい!」


 呼ばれた方を向くと、ハワル、ゾン、ナマル、ウウゥルの四人が固まって座っていた。


「何だ、いきなり。答え合わせ?」


「はぁ、お前忘れとっとかて!」


「窯の使い道の答えが合っとったら、よかもんばくれるって話やったろうが!」


 四人の剣幕に押され、たしかにそんな話もあったなと思い出しす。


「わかった、わかった、そんなに怒んなって。そんじゃ、答えが分かった奴から―――」


「「「「焼きもんの食器!」」」」


 四人が一斉に答え、ニヤニヤとこちらを見て笑っている。


「はぁー、あれか。ナマルてめえやりやがったな」


「勝手に話したとはカズヒサやろうもん」


「誘導したのはお前だけどな」


 ナマルの勝ち誇った顔が憎たらしいが、気づかなかったっていうか、この賭けを忘れていた俺も悪い訳だが。


「しかも、一人ずつ答えろじゃなくて、一番早く答えた奴ってカズヒサは言うたけん、一人っだけは通じんぞ」


「わかってるよ。四人同時に答えてきた時点でその辺の察しはついてる。お前らの勝ちだよチクショー」


 喜びのハイタッチを繰り返す四人を尻目に馬乳酒を煽る。まぁ、これも悪くはない。


 チノと離れて過ごした一週間、よくよく考えるとこの世界でこれだけの期間をチノと会わずに過ごしたことなどなかった。


 季節のせいなのか知らないが、チノが居ない部屋は少しだけ寒い気がした。それも明日になれば終わるだろうか。


 そんなことを思いながら、俺たちはいつの間に食堂に倒れて眠っていた。


 ***


 七日目の早朝、俺たちは食堂のオバちゃん達に起こされ、風邪ひくぞと怒られながら目覚めた。


 昼まで時間があるため、これまで使った道具や材料などを片付けをして過ごした。


 早めに昼食を済ませ、水を流して給水や排水に不備などがないかを確認するも、特に異常はなく、正常に動いてくれた。


 浴槽内や浴場の清掃をして浴槽に水を張る。すると水嵩が増していくのを静かに皆は見守っていた。


 規定の水量に達したため、湯を沸かすための竈に火を入れる。この竈には熱の伝導率を上げるために鉄鍋が四つも使われている。今は、一括して食堂が食事の供給を担っているため鉄鍋が余っていたからできたこと。だが当然、譲り受けるときの条件は新しい鉄鍋を納税時に購入してくるというものだった。


 日が傾く頃には男湯女湯共に、いつでも入れる状態となった。


 あとはチノが洞窟から出てくるのを待つだけ。そんなことを考えていたその時だった。


 突然、黒い影が頭上を走り、それを見た俺は目を疑った。


「竜・・・?」


 この世界にきて初めて目にした竜の背には人が乗っており、役所の広場の方へと向かっていった。


 浴場の前に屯していた者達も何事かと、一斉に役所の前へと駆け出した。


 俺たちが到着した頃には竜を中心に人だかりができており、見覚えのある鎧を身に着けた者が騎乗していた竜から降り立つところだった。


 男は兜を外して周囲を一瞥すると、その威圧感に囲っていた者達が一瞬にして静まり返った。


 人垣を割って進み、男の下へ歩み寄って声をかける。


「確か、帝国でお会いした騎士バルサルク殿」


 刺激しないよう、慎重に言葉を選ぶ。


「久しくぶりだな、貴殿には我が姫がお世話になった」


「いえ、殿下との謁見、感激の極みでした。ちなみに今回のご訪問は?」


「君だ。出てきてくれて手間が省けたよ」


「えっ?」


 その返答と同時に腕を掴まれ、背中へと回される。


「いきなり、何を!」


 突然の暴挙に周囲から悲鳴と怒号の声が上がる。


 抵抗するが、片手にも関わらずバルサルクの腕はビクともしない。まるで万力で固定されているかのようだった。


「アンフィビアン・ドレーク・グレン辺境伯の名において、稀人まれびとカズヒサを拘束し、連行する!」


 バリバリと大気が割れたのではないかと、錯覚する程に凄まじい声量での宣言。当然、この気迫を前に避難を続けることができた者などいない。


 一人を除いては。


「カズヒサから手ば離さんか!」


 怒鳴り声と共に飛び出し、斧で切りかかってきたのはゲレルだった。


 しかし、その斧を前にしても帝国騎士は眉一つ動かさず、回避姿勢を見せる様子もない。


 躊躇なく振り下ろされる斧。その刃が獲物に触れようとしたその瞬間、酷い金属音が鼓膜を貫き、大地に衝撃が走った。


「ほう、加護持ですか」


 ゲレルの全力の一撃を左手一本で易々と受け止め、更にその斧の刃は掌に触れることなく両側を指先で摘ままれていた。


 斧の使を握るゲレルの両腕は浮いた血管と共に隆起し、その表情は苦悶に満ちている。

 

「だが、その程度」


 バルサルクの指は斧の刃に埋まり、その状態でゲレルを持ち上げて見せ、一振りで人垣へとゲレルの巨体を吹き飛ばした。


「これ以上、異議を唱える者は?」


「ま・・・まだ、終わっとらんぞ!」


 ふらつく脚でゲレルは立ち上がり、声を上げる。それに感化されたモングールの男たちも次々と声を上げ始めた。


「やめろ! お前ら!」


 完全に火がつく前に声を荒げ、皆を制止する。


「お前らで歯が立つ相手じゃねえ。ゲレル、あんたもだ! 俺は必ず戻るから手を出すな」


「カズヒサ・・・」


 その言葉にどうにか立っていたゲレルが尻もちをついて座り込む。


「賢明な判断ですね」


 握力による拘束を解かれ、前に回した手に枷が嵌められる。


 竜の背に乗せられ、素早くバルサルクも騎乗した。


「おい、そんな顔すんなってお前ら! すぐに戻るから、先に風呂入って待っててくれ」


 皆は絶望した顔で、こちらを見つめるだけで返答はない。


「行きますよ」


 手綱が弾かれ、飛竜は翼を広げる。


 両翼ぬの羽ばたき。タイミングを合わせて跳躍し、竜は飛翔する。


 村の上空を数度旋回して高度を上げると、海の方へと竜は進み始めたのだった。

浴場を作るだけで2万8000字

僕は好きなんですが、読んでくださってる方々には苦痛だったかもしれません、反省してます。


次回は物語が一気に進みます。

何だったら節目です。

ですので、また来ていただけたら幸いです。

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