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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第四章 大地の恵み 動き出した歯車
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第十六話【浴場造り 〜登り窯作り〜】

コロナやばいですね。

引きこもりたいです。

 

 作業員の朝は早い。空が青く染まり始めた頃に起床し、顔を洗う。


 朝食は質素だ。干し肉の塊からナイフで薄く削り出した物と水を小鍋で煮る。当然、味付けは無く、干し肉の塩味がするスープを胃に流しこんで終わりだ。


 日が昇り切る前に家を出て、工程を再確認したら使う道具の準備に取り掛かる。道具を借りてきて戻ってくる頃には日が昇り、作業員 (?)たちが揃い始める。


 朝礼と班分けを終えたら作業開始。それぞれが道具を手に取り持ち場に付く。


 今日から取り掛かるのは、窯作りの中でも最大の難所であるアーチ作り。はっきり言って既に憂鬱である。


 昨日は羊毛で幅を一定に保つなどの慎重な場面が無かったわけではないが、今回はより繊細な作業が求められる。


 最初に取り掛かるのは木の板を曲げること。薄い木の板を火で炙り、中央に合わせて柵等の上に乗せて両端に重りを吊るせば、一時間程で曲がった木の板が完成する。


 それを使ってもう一枚の木の板に線を引き、アーチの底面を確定させる。あとは、組んでいく煉瓦の大きさを均等に割り振れば、それに合わせて煉瓦を砕いて削っていくだけで良い。


 本来であれば初めからアーチ用の煉瓦を作成すれば良いのだが、乾燥や焼成による収縮は粘土の水分量などを細心の注意を払わなくてはバラツキが出る。しかし、完成した煉瓦を削ることで多少失敗してもセメントで修正できるため、楽と言えば楽だ。


 しかし、実態は・・・。


「なあ、カズヒサ・・・何でおい達はこがん苦行ばしよっとやろうか?」


 すでに修復不可能な域に叩き壊し、放置されている煉瓦がゾンの周囲に散らばっている。


「風呂覗くためだろ?」


「そ、そがん無粋ことすっかて!」


 ハワルが軟派という訳ではないが、やはり比較するとゾンはかなり硬派、というより堅物なところがある。というより、初心うぶである。老若男女問わずフランクに話しかけるハワルといつも一緒に居る割に、ほとんどゾンから話を切り出すということはないし、特に女に自ら話しかけるところを見たことがないかもしれない。


「っていうか、何でもそつなくこなす奴だと思ってたんだが、案外お前って不器用だったんだな?」


「面目ない・・・」


「あー、確かにゾンは細かか作業は向いとらんかもにゃー、こいつ加護持ちやけん」


 うなだれるゾンをハワルがケラケラと笑う。


「え、ゾンって加護持ってんの? ドーラフの婆ちゃんみたいな奴か?」


 聞きなれない言葉に思わず聞き返してしまった。


「そ、ゾンは力の加護ば持っとる。暴れ牛くらいやったら片手で押さえつけられっぞ」


「おい、片手は言い過ぎやろ」


「いやいや、いけるやろ。力の加護やぎ、他はゲレルさんくらいだな」


 ゲレルの名前を聞いて、二人が岩熊の装甲を叩き割っていたのを思い出す。


「じゃあ、ゾンは追加のセメント作りに行くか。ぼちぼちで良いから石灰岩砕いて、陶石の粉と一緒に焼いてきてくれ」


「あぁ、そいやぎできるな」


「じゃあ頼むな」


 アーチ作りから早々に脱落者が出てしまったが仕方がない。それに引き換え、陰キ・・・インドア派の二人は凄まじい勢いで煉瓦を砕いていく。開始一時間足らずで五個ずつ完成させ、そのペースは徐々に上がっていっている。


「なぁ、カズヒサ。もう、この二人にやらせりゃよかっちゃなかや?」


 器用貧・・・なんでも卒なくこなすハワルが珍しく苦戦している中、二人が怒涛の勢いで作っていくのを横目でみての言葉だった。


「いや、流石にそれはちょっとなぁ・・・」


 なんせ、この作業はアーチ用の煉瓦を二千五百個作るまで終わらないからだ。この一時間で俺とハワルは互いに二個ずつしか出来ていない。


 他のメンバーはあと三人いるが、五個しかできていない。ゾンは一つすら完成させずに抜けてしまった。つまり、前途多難である。


 とは言っても、今日中に床面の作業は終わる。三人で浴場のタイルの製作を行い、ゾンはセメント、残りの四人を組み込めば煉瓦削りは五日程で終わる計算になる。


 チノが儀式を終えるまでに終わるだろうか。今のペースでは非常に厳しいかもしれないため、ある作戦に打って出ることにした。


「ねぇ、にーちゃん!」

「何ばすっとー?」


 そう言って飛びついて来たのは、やんちゃ真っ盛りなガルとムスの二人だ。


「それを今から説明すっから、一旦離れろって!」


「「はーい!」」


 今目の前に居るのは、十歳前後の子供たち総勢三十名あまり。


「ったく・・・そんじゃ、今日は皆にやってもらう事があります」


 三十人の子供の集団となるとそのエネルギーは凄まじく、こちらの事はお構い無しといった様子で、後ろでタイルを作っている作業を見に行ったり、声をかけたりと好き放題だった。


「今日から皆にはタイル作りをしてもらいます」


「タイルってなん?」


「食べられると?」


「この食べ盛りさんめ。今回は食いもんじゃない。タイルっていう水を弾く板を作るんだ。まぁ、作り方を見せるからよく見てろよー」


 木の板の上に木枠を設置して中心に粘土を入れる。後は麺棒を転がして粘土を伸ばし、木枠からはみ出た分を毛糸を使ってこそぎ取る。後は濡らした皮でざらついた表面を擦って滑らかにしたら木枠から外して完成である。


「おー、奇麗か四角になったー!」


「面白かねぇー」


「これを奇麗に沢山作れた子には、ご褒美で良いものを作ってあげます。欲しいひとー?」


「「「「「はーい!」」」」


「おいが一番作っぞー!」


「一番はおいたい!」


 ガルとムスを筆頭に、木枠を受け取ってタイル作り競争が始まった。


「じゃ、子どもたちの面倒を頼んだ。小まめに休憩取らしてやってくれ」


 ここに配置していた者に子どもたちの面倒を頼んで、俺はアーチ作りに戻ることにした。


 子供たちが一時間で十枚ずつ作るとして、一日五時間やってもらえば三日程で必要なタイルが出来上がる・・・はず。


「あぁ、そうだ。ユムのばっちゃんに木材の発注しに行かねえと」


 浴場の設計図を持って、木材の加工所へと向かう。


「ばっちゃーん!」


「今度は何ね、カズ坊?」


 最近は何かと世話になっているため、さすがにまたかという顔をされてしまったが、気にせずに発注をかける。


「浴場を建てるための材木が欲しい。柱がこれ、壁用がここで、屋根板がこの分を頼みたい」


「あんた、うっ達が税ば収める時に使う木樽作りと、荷車の車輪の補修で忙しかって分かっとるとやろうね?」


「分ってる、分ってるって。そこをどうにかって頼みに来たんだよ。この通り!」


 俺の安い誠意になど目もくれず、設計図を見ながら深い溜息を吐き出す。


「はぁーまったく、一つ貸ばい」


「ほんとか! ありがとばっちゃん!」


「ほんなごて、あんたは調子のよか子よ」


 粘られると思ったのか、早々に折れてくれたユムは呆れたようにそう言った。


 それから三日が経過し、計算通りタイルの成形作業が終わって乾燥を待つだけとなった。ことで三人がアーチ作業に加わったことで五日かかると思われていた煉瓦を削る作業は、四日目の夕刻に終わらせることができた。

 

 その翌日の朝には早速アーチの組み立てが始まった。


 窯の壁と壁に木の板を密着して立てかけ、その上にアーチの土台となる曲げた木の板を乗せる。


「そんじゃ、順番に煉瓦を置いていくぞ」


 端から順番に煉瓦を置いていき、弧を描く煉瓦によって壁同士が繋がった。


「よし、奇麗には収まったな。そんじゃ、緊張の瞬間と行くか」


 皆が固唾を飲む中、壁に立てかけられていた板が慎重に抜かれ、煉瓦が乗っている湾曲した板を皆が支えている状態となった。


「いいな、ゆっくり下ろすんだぞ?」


 皆は一様に細かく首を振って答える。


「よし、行くぞ!」


 そっと膝を曲げ始めると、すぐに煉瓦同士に圧がかかり軋む音が聞こえた。するとどうだろう、今まで肩にかかっていた重みがすっと消失した。


「ふぅー、しょっぱなで上手く行くとはな。お前らやるじゃねえか」


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 一つ目のアーチが完成し、歓声が巻き起こる。


「すげぇ! ほんなごて支えも無しに橋が架かった!」


「セメント使っとらんとけ、崩れんぞ!」


「いつまでも喜んでねえで次行くぞ、次!」


 一度成功すると歯車が噛み合うように物事は上手く進むもので、多少のズレがあろうと、その場で修正を施し、機転を利かせて順調に進んでいった。


「もっと苦戦すると思ってたんだけどな、意外と上手くいくもんだな」


「いや、かなり苦戦しとったやろ。いつ終わるか分らんけん、頭ん狂うかと思うたぞ」


 今は笑って話しているものの、煉瓦を削っている時のハワルの顔は確かに死んでいたのを思い出して少しだけ笑ってしまった。


「確かにお前は心が死んでたな」


「ほんなごてぞ、逃げ出してやろうかと思ったばってん、こがんやって出来上がっていくぎ悪くなかにゃ」


 そう言ってハワルは次の列の煉瓦を運ぶのを手伝いに行った。


 一つ目の窯が終わったところで、出来上がっていく屋根を追いかけるように窯全体をセメントで厚く塗り固めていく。


「ほー、案外乗っても平気かったいな」


 窯の上に登ったナマルは、思った以上にアーチの屋根がしっかりしていることに感心している様子だった。


「あぁ、飛び跳ねても壊れねえとは思うけどやめとけよ」


「そがん事すっかて。ほら、早うこっちゃ寄こせ」


「ほいほい」


 木の板に乗せられたセメントとコテを受け取ったナマルは、凹凸なく滑らかにセメントを塗っていく。


 セメントとは呼んでいるものの、今回使っているのは壁で使った物とは若干違い、未加熱の石灰岩の粉末を骨材として配合しているため、コンクリートと分類する方が正しいのだが、説明するとややこしくなるため今はやらない。


 更に二日が経過した頃にはアーチの屋根はセメントに覆いつくされ、煙突が組み上がりっていた。


 こうして、モングール族の村に登り窯が完成した。


 この時、カズヒサ以外の者の中に、登り窯がモングールの将来を左右することになるとは予期できたものはいなかった。

窯が完成しました。

アーチ作りのところはもっとこまかくやりたかったのですが

すごく長くなるので止めておきました。

ほんらいなら、こんなに上手く行くことは無いと思います。

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