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農大生の俺に、異世界の食料問題を解決しろだって?  作者: 有田 陶磁
第四章 大地の恵み 動き出した歯車
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第十六話【浴場造り 〜答えろそれが欲しくば〜】


 成形した日干し煉瓦を全て焼成し終えるのに五日はかかる。しかし、既に万を超えるだけの煉瓦が完成しているため、登り窯の建設に取り掛かることにした。


「で、カズヒサ。窯作りはなんから始めるぎよかとや?」


「そだな。俺たちが最初にやるのは穴掘りだ」


「穴掘り?」


「そそ、煉瓦持って使ってねえ畑に行くぞ。説明はそこでする」


 ハワル、ゾン、ナマル、ウウゥルを連れて畑に向かい、さっそくシャベルで穴を掘っていく。垂直の穴を二メートル程掘り、底から斜めに四メートル程かけて斜面を作っていく。



「この斜面に煉瓦で階段を作っていく。階段ができたら煉瓦で壁も作るぞ」


「煉瓦ば敷くってことは何かば燃やすとや?」


 煉瓦を敷く作業をしていると、煉瓦を持ってきたナマルが問いかけてきた。


「お、ナマル察しが良いな。ここで石灰を燃やすんだよ。石灰を燃やすと生石灰ってのができてな、セメントっていう固まる泥の原料になんだよ」


「あぁ、この間言いよった石臼の材料か」


「そそ、目に入ると失明するから気を付けろよ」


「失明って、お前はおいたちに何ば作らせよっとかて」


 生石灰は腐食性のアルカリ性であり、涙に溶けた生石灰は水溶液となって、たんぱく質を溶かすと同時に、水分と反応して高温となる。端的に言えば目の細胞がアルカリと熱でズタズタにされるというわけだ。

 また、角膜の細胞は分裂をしないため治ることもないのである。


「まぁ、粉を焼くわけじゃないから大丈夫だよ。あと、一緒に陶石を混ぜて焼いた後に粉にする感じだな」


「いや、何が大丈夫なのか分らんぞ」


「まぁ、言う通りにしてくれれば危なくないから安心しろって」


「いや、言う通りにせんぎんたマジで危なかってことやんけ」


 俺たちが談笑しているのを聞いていたのか、ハワルが会話に入ってきた。


「ばってん、そいば承知でするだけの価値があるっちゃろ?」


「というと?」


「風呂ば覗くだけで光ばくすとは割に合わん。カズヒサのことやけん、風呂づくり以外にも何か考えとるやろ?」


 その問いに、ハワルは察しの良さを感じた。

 言われるままに作業を行うのではなく、自分がやっていることの展望を考えて行動できる才能は貴重だ。


「そうだな。まぁ、風呂はマジで欲しいから作るんだけど、ぶっちゃけてしまえば窯と比べれば風呂はおまけだな」


「ばってん、窯ば作ってもパン焼きぐらいしか使い道なかろうもん。全員分のパンば一回で焼くとや?」


「はっは。今から作る窯でパンなんて焼いたら一瞬で炭になっちまうよ。そうだな、ただ答えを教えるのもつまんねえし、自分で考えてみろよ」


 答えを与えるのは簡単だ。ただ、それだけでは応用が利かなくなってしまう。答えに至るまでの思考の中で有益な利用法が生まれるかもしれないのだから、それを摘むのはもったいない。


「なんだよそれ」


「どうせ作業中はウースの事ばっか考えてんだろ?」


「馬っ鹿! んなわけなかろうもん!」


「どうだかな。そうだ、お前らの中で答えを出せた奴がいたら、好きな女とお揃いで良いもん作ってやんよ。贈り物にしたら結婚間違いなしだろうなぁ」


 そう言って発破をかけると、野郎共の目の色が変わった。


「け、結婚? そこまで話が飛躍すっとや?」


 予想外にも最初に食いついてきたのはゾンだった。


「おう。俺が居た世界じゃ愛の証で、それを送ったら結婚と同義だぞ?」


 俺の返答にゾンは何も言わず、ただ何度も頷き作業に戻っていった。


「そうだな、期限を決めよう。答えを言えるのは一人一回まで。時期は風呂ができるまでだな」


「い、一回だけ?」


 設けられた制限にウウゥルが狼狽える。


「おう、そっちの方が慎重に考えるだろ?」


「答えが被ったらどがんすっとや?」


「おっ、ナマルやる気だな。当然、早いもの勝ちだ。俺に最初に答えを言えた奴に作るよ」


 ナマルは口元を手で押さえて考え始める。


「一つ良かや?」


「どうしたハワル?」


「窯で作るもんは、おいたちが見たことあるもんや?」


「そうだな。帝国の商店ではあった。だけど職人街にはなかったから、交易品の可能性が高い。もしかしたら、モングールが運んだことがあるかもしれないな」


 皆は窯の利用方法を考えているのか、完全に手が止まっているため、この辺で打ち切りにした方がよさそうだった。


「俺からの手掛かりはここまで。あとはそれぞれ考えて答えを出すんだな。ほら、手が止まってんぞ」


 こうして俺たちは作業に戻った。


 穴に設けられた傾斜に階段状に煉瓦を敷き詰め終え、その側面に煉瓦の壁面を作る。


「そういやカズヒサ、これは何ば作りよっとや?」


「あぁ、これか? 窯を作る材料のための小っちゃい窯だな」


「窯ば作る為に窯ば作りよっとや?」


「そそ。本命の窯ができたら埋め戻す」


 四人の顔から一気にやる気が失せていくのが分かる。


「あ、お前ら無駄な事してると思っただろ? むしろ、これが無かったら窯は完成しねぇんだからキビキビ働いてくれ」


「「「「うぇーす・・・」」」」


 そこからは手に取るように彼らのやる気が下がっていることが分かったが、壁の部分はほとんど完成していたため、それほど差支えは無かった。


「ここまで出来たら、先に材料を入れる」


「屋根ば先に作らんでよかと?」


「良い質問だなウウゥル。屋根を作ると材料が作れないからこれで良いんだ。一度火を入れて出来上がったら毎回屋根は解体する」


「それって、大変じゃなかと?」


「屋根は簡単にしか作らねえから大丈夫だよ」


 階段に壁と同じ高さの支柱を煉瓦で作り、材料を投入していく。

 入れる物は、細かく砕かれてはいるものの粉末になっていない石灰石と、陶石の粉だ。比率は八対二となるようにする。


 材料を入れ終わったら、二倍の長さで作った煉瓦を壁と支柱に橋を架けて、井を描くように煉瓦重ねて天井を作り、地上と同じ高さの部分に到達したところで煉瓦を高く詰み重ねて煙突にする。


「あとは窯の上に土を被せれば完成だ」


 土を被せることで空気が逃げることを防ぎ、熱が逃げないため保温性が向上する。


 窯が完成したら早速火を入れる。


 登り窯とは、熱が上へと向かう特性を利用した窯である。

 熱が内部の空気を上部へと押し上げ、上部から排出することで大気の流れを作り、自動的に下部から空気を取り込み、燃料がある限り燃焼を続ける仕組みとなっている。


 燃料の投入を交代で八時間ほど続けたところで火を落とした。炉内の温度が下がるのを待つために石灰を取り出すのは翌朝となった。


 翌日。被っている土を払いのけて天井となっている煉瓦を外すと、石灰石の粒たちは黒く化粧を施したようになっていた。


「よし、ちゃんと黒く変色してるな。この状態をクリンカって言うから覚えとけよー」


「クリンカ? 聞いたこと無かばってん、どがん意味や?」


 唐突な質問に、言葉は知っているが意味までは知らないという。あの気まずい状況に陥ってしまった。しかし、俺は知ったかぶりをするような小さい男はないため、堂々と答えることにする。


「知らん。俺だって夏休みの自由研究で調べた程度だからな。たぶん、溶けて固まった物とかそんな意味だろ」


「夏休み?」


「自由研究?」


「あー、そこは俺が居た世界の言葉だから気にしなくていい。それより、目に入ると失明だから気を付けろよ」


「失明とか、おっかなかこと言うなさ。手の震えるやろうが」


「それぐらい慎重になれってことだよ」


 柄杓の中にクリンカを入れて数滴の水を垂らし、発熱反応を見る。ここで発熱が無ければ失敗ということになる。


「・・・おー、あっついなぁ」


 指で触れるまでもなく確かな熱を感じ、完成したことを確信した。


「うしっ! 完成してる。全部樽に詰めて水車に持ってくぞー!」


「「「おー!」」」


 樽に詰めたクリンカを水車の粉砕機にかけて粉にするわけだが、石臼の周囲に衝立を設置して、粉塵が飛散しないように注意する。


「本当はここで石膏とか入れるんだけどな」


「石膏って像とか作る奴や?」


「お、知ってたか」


「おう、あいば運ぶとは骨ば折ったぞ。石膏像ば入れた樽ん中に毛皮ば隙間なく詰めてさ、壊れんごとせんぎいかんやったけんな」


 ハワルは、その時の苦労を身振り手振りを交えて教えてくれた。が重要なのはそこではない。この世界に石膏がある事の方が重要である。同名の物質の可能性がないわけではないが、使用用途が似ていることからほぼ間違いなさそうだ。


「で、その石膏ば入れるぎどがんなっとや。強くなっとや?」


「あ、あぁ。石膏を入れても強度は上がらない」


「じゃあ、何で入れる必要があっとや?」


「それはだな、今作ってるセメントってのは水を入れると固くなるってのは言ったよな?」


「おう、固まる泥やったな」


「そそ。石灰と陶石に含まれる成分を熱で変化させるだろ? そこに水を加えると反応が起きて一纏まりになって固まるわけだが、それがあっという間に固まっちまうわけだ」


「お、おぉ・・・?」


 理解が追い付いていないため、ハワルの返答は徐々に雑になっていく。


「そこに石膏を混ぜておくと、セメントと水の反応を緩やかにしてくれるわけだ」


「・・・? つまりなんや、固まるまでに時間がかかるって事や?」


 ここに来て、ハワルの直観の良さを見せる。


「そう。セメントにおいては反応が進めば固くなるだろ? そこに何かを足すことで反応を早めることもできるし、遅くすることもできる。石膏は遅くする働きがあるってわけだ」


「うーん、よう分らんばってんが反応ってやつは物の働きとか、特徴ば変えるってことで良かとかにゃ?」


「まぁ、そんなとこだな。詳しいところはまた今度教えてやるよ」


 クリンカを粉砕してセメントにする。


「じゃあ水を加えて練り上げるぞ」


 石膏を入れていないセメントは、さっきハワルに説明した通りすぐに固まってしまう。その時間およそニ十分。


 しかし、固まったからと言ってそれが完全な硬化というわけではない。最低でも一週間は硬化の時間を取る必要がある。


 セメントが練り上がったら作業にあたる全員で煉瓦を組み上げていく。セメントを練る者が二人、セメントを一直線っていく者が三人。あとは残り全員を一列並べて煉瓦を並べていく。


「セメントは薄く塗ってくんだぞ。側面は塗らなくていい。二列目の両壁面にセメント塗るから隙間なく組むことを意識してくれ」


 着々と壁を積み重ね、一日かけて三層の煉瓦の壁からなる四連結の窯が出来上がった。なぜ一日で壁面が完成したのかというと、理由はとても簡単で、物を取り出すために片方は開けておかなくてはならないのだ。


 故に現在はセメント無しで組み上がってはいるだけである。明日は床面と内部構造を半数で、もう半数で登り窯の屋根となるアーチの製作を行う予定になっている。


 今日の作業で今までの作業の積み重ねが、ようやく目に見える形になってきたことで活気がある一日となった。

 そのせいか、帰路に着く彼らの顔は達成感に満ち溢れていた。


 しかし、登り窯製作の工程の中で最大の難所が天井のアーチ作りであることを、彼らはまだ知らない。

 


???「積み重ねが大事とか言って、風呂を作るだけの話で馬鹿みたいに細かく刻んでいる奴がいたんですよー」



???「なーに? やっちまったな!」

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